寺院本堂新築に用いる木材の検品に台湾の羅東市という所へ昨年3月来訪れてきました。
昨年訪れたときはあの東日本大震災の3・11の日で、大きなショックを受けながら不安の中の帰国だったことはこの欄でも書かせてもらいました。
あんなことはそうあるものではないと思いながらもなんとなくトラウマになっている部分もあり、帰るまで何もないことを心の中で祈っていました。
4月の台湾はすでに田植も終わり気温は22〜25℃と日本の6月頃の気候で、10℃以下の日本からの移動は冬から夏へ季節変わりしたようでした。
台湾の製材所もかつてこの東海岸を中心に数十軒あったものが、大きいところは今はたったの2箇所となってしまっています。大径木の希少さもありますが、
需要が細くなっているのもあって今後が心配されます。
いつもお世話になっているここの製材所は比較的誠実に対応してくれて信頼がおけます。ヒバ材やピーラー材といった北米材を得意とする製材所です。
写真のような数百年クラスの丸太がごろごろ積み置きされていて目を奪われます。
大事に使っていかねばバチが当たる気がするのは見た人間なら誰しも思う感想です。
順調に検品が終わったおかげで最終日時間が少し取れたため、現地の方の案内で基隆という港町を高台から見てきました。
日本統治の時代から盛んに使われてきた重要港で、日本や米国への輸出基地と共に軍事上重要な軍港でもあります。
ただその港湾は非常に狭く、クレーンがぶつかりそうに立ち並んでいる情景は長崎港を彷彿させます。
この基隆港から車で30分くらい行ったところの山の傾斜地に、へばりつくようにぎっしり建物が立っている名所があります。
あのジブリ映画「千と千尋の神隠し」の舞台となった「九扮」という所です。
その密集度の高さに驚かされます。人がすれ違うのにもぶつかりそうなスペースに出店が雨後の竹の子のごとく立ち並んでいます。
そう、アニメの最初の部分で千尋の両親が食堂で大食いするうちに豚になってしまうシーンの場所そのものです。
湯婆婆が経営する湯屋のモデルになった建物もあります。「かおなし」がそこからいまにも出てきそうな雰囲気です。
この九扮はかつて金鉱山の採掘場だったところだそうで、
ゴールドラッシュに湧いた一攫千金の猛者たちがここに住み暮らしたところだと聞いてなんとなく納得するのです。
生活感が溢れ返り、生というリアリズムがそこここに見て取れます。食材、色、臭い、人間のバイタリティが猥雑に混交しています。
学生時代に研究調査で調べたことのある長崎の軍艦島を思い起こします。あちらは黒いダイヤと言われた石炭鉱山のための過密都市でしたが、
その狭い中にある人の生活力に今の人間は郷愁させ覚えます。
「九扮」は今は別荘地としても使われていると聞いて眼下を見下ろすと、美しい東シナ海が広がっています。
それにしても台湾人の旺盛な生命力は、その世界に冠たる中華料理にあるのではないかと思えてきます。
多くの食材を惜しみなく使い見事に調理して、見かけも味も天下一品。飲茶で多くの人と円卓を囲み、
美味しい料理に手を伸ばすのは楽しくそして贅沢でもあります。しかし変化もあります。食堂でウーロン茶と紹興酒を飲んでいるのは我々の卓だけで、
地元の人は緑茶とワインを飲んでいるのです。ワインがブームだそうで赤白関係なく何本もテーブルに並べられています。
中華をイメージする紹興酒の飲茶風景を懐かしむのは、日本の私たちの食や生活が洋式になってきている中、 日本を訪れる外国人たちが下町や江戸様式を好んで「クール」と思うのと図式は同じなんでしょうか。
|