現在進行中の本堂新築工事で過日上棟式を迎えることができました。
寺院の上棟式についてはこれまでも何回かご紹介をしてきましたが、今回は古式に則った伝統的な上棟式を催したのでご紹介をしたいと思います。
住職による読経で真言宗による上棟の祝詞を上げていただいた後、工匠による上棟の儀が次のような順序で行われました。
@ 博士杭打ちの儀 新本堂前に基準となる博士杭を打つ儀式
A 丈量の儀 設計図通りに建てているか計り直す儀式
B 曳綱の儀 参列者と共に棟木を紅白綱で引き上げる
儀式
C 棟打ちの儀 棟木を工匠が打ち固める儀式
D 散餅の儀 紅白餅を撒く儀式
CとDについては現在でも広く行われているところですが、@からBについては古くから伝わる作法として今では珍しい儀式と言えます。
簡単に言えば、建物位置を確認する儀式、クレーンのない時代に大材の棟を曳綱で皆で持ち上げる棟上げの儀式と言えます。
役職もそれぞれに必要です。@とAでは、寸法を確認する「検知役」、それを計り出しする「丈量役」、尺杖の先に小杭を置く「標竹役」が、Bでは、検知役の他、
キャスティングは私をはじめ、大工職がそれぞれ務めますが、衣装も写真のように室町時代から伝わる「素襖」と「白張」の出立ちで、
すべて貸衣装店から借りるという念の入れようです。私も直垂の一種である「素襖」に侍烏帽子を付けての出立ちでしたが、
襦袢があるせいか意外と寒く感じなかったのと動きやすいのには助かりました。
ただ頭が大きいせいか烏帽子が似合わないのが残念でしたが.....。
檀家さんと共に曳綱を持ちながら、私の方でこの本堂が千年も万年も永遠に後世に残るように願って次のような科白を唱えます。
「千代に八千代に栄ゆべし 千歳棟!」
「万代に八百代に 栄ゆべし 万歳棟!」
「天地と共、永遠に 栄ゆべし 永永棟!」
その声に合わせて、棟に上がっている工匠が「えーい!」の掛け声と共に「掛けや」で棟木を打ち付けます。
「槌音」とはまさにこの音のことで、木のぬくもりを感じさせる心地よいものです。
大きな声を振り絞って唱えると、臨場感があって万感胸に迫るものがあります。
かつて便利な工具や重機のない時代、死人も出るような危険な建て方を済ませ、寸法通りに棟上げができた時の工匠の感慨は、
プレカットに頼る今の人たちには想像することも難しいと思われます。
余談ながら、今年親鸞聖人750回遠忌を迎えた京都東本願寺の御影堂大改修では、小屋裏の梁組が補強され公開されましたが、その材料の巨大さに驚かされます。
これを新潟阿賀野川流域から人力で運んできて、この高さまで上げたことを思うと人の力の無限さを感じさせます。
堂内にはその時に運んだ台車と曳綱として使った「毛綱」と呼ばれるご婦人の毛髪を束ねた綱が展示されていますが、
当時どの綱よりも丈夫なものだったように記録されています。
そして最後は紅白餅を屋根の位置から下へ撒いて一連の儀式を滞りなく済ませることができました。
若い職方達にとってはよい経験をしてもらえたと思っています。
合理的でないと割り切る方もいらっしゃるかと思いますが、古人の人たちが長い年月を掛けて培ってきたこの国に合った「精神」として、 せめて我々だけでもこういった伝統的儀式を後世に伝えていきたいと願っています。
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