寺院建築を設計する際、その宗派による形式や配置は考慮しなければならないポイントですが、
更に時代様式もどの時代のもので考えていくのかも重要です。
反りや照りといった屋根の形は主に中国や韓国からの影響を受け時代と共に発展したものですが、斗供や蟇股、肘木等の細部にも
わが国独自の各時代様式があります。
源頼朝が幕府を開いた鎌倉時代の幕開けは「革命」といっても良い出来事だと言われます。
武家政権の誕生ということも重要ですが、
何よりも律令制という不条理な小作の時代が続いた臣民にとって、自ら開墾した土地が自分の物になったという「農民武士」の
誕生をして新時代を生みました。 自分が得た土地を命がけで守ったとのいわれから、「一所懸命」という言葉も生まれたようですが、
何よりも庶民にリアリズムが現れいろいろな文化・宗教が生き生きと写実的に生まれ変わった時代でした。
宗教でいえばより分かり易い
鎌倉新仏教と呼ばれる新しい仏教が雨後の筍のように生まれました。法然、親鸞、道元、日蓮、一遍、栄西...。
今我々が口にできる念仏やお経の多くはこの時代のものです。そして彫刻でも運慶、快慶に代表されるようなリアリズムのある彫刻が生まれ人間を
生き生きと描くようになります。
建築においてもこの時代に技術的ピークを迎えたような感があり、面白いように「はね木」が使われ出し、長い軒の重さを「てこの原理」
で支えるようになりました。今見られる寺院建築の諸技法はほぼこの時代のものを受け継いでいると言っても良いと思います。
この時代の国宝・長弓寺本堂(奈良)や西明寺本堂(滋賀)などを見るに付け、その男性的なプロポーションと簡素ながら力強い様式に
見とれてしまいます。
「鎌倉幕府がもしつくられなければ、その後の日本史は二流の歴史だったろう。」と言ったのは司馬遼太郎さんですが、奈良、京都まで
行かなくても関東には「鎌倉」があります。 狭い場所ながら歴史書を片手に「あじさい」時期の鎌倉もいいものです。
「釈迦堂切通し」に たたずんでみるとすぐ向うから馬に乗った鎌倉武士がこちらに走って来るような感覚になります。
|