北京オリンピックが暑い夏のさなかに催され、聖火リレーではゴタゴタがありましたが、
本番はおおむね大盛況の内に終わりその評価も賛辞の言が多かったように思います。
競技を見るのも楽しいのですが、我々にとってはテレビや写真を介してですが、その競技施設を見るのも一つの楽しみでした。
世界から名だたる建築家が設計に携わった各競技施設は、いわば現代建築のトレンドを見極める上でも貴重な建築群と言えます。
清の時代に代表される紫禁城のイメージで捉えていた古都北京を一新するようなデザインが立ち並びます。
主だったものでも、国家体育場、国家遊泳中心、天津スタジアム、国家大劇院等々巨大施設が目を引きます。
それぞれには「鳥の巣」、「水立方」、「銀の卵」などのニックネームが付けられて、市民に親しまれているようです。
改めてこれらのデザイン、素材、工法にこれまでになかった斬新さを窺い知ることができます。
日本の建築家も多く参加している他、日本メーカーの素材も多く使われています。鳥の巣や水立方に使われた青い膜は
旭硝子製のフッ素樹脂フィルムだそうで、国内では農業用の温室に使用しているそうですが、薄く、光線透過率が高く、
ライトアップで多様な意匠性を確保でき、しかも耐候性が高く汚れをはじくと好評のようでした。
東京オリンピックの時もそうでしたが、このような国家的な大プロジェクトという「需要」があると、
それに伴って作る側も刺激され「代々木体育館」のような名建築が生まれる土壌にもなりましたが、今回の施設もそれに違わず
立派なデザイン性に優れた施設が生まれたように思います。
そんな中にあって、別の見方もあるのだということを思わしめた記事が建築誌にありました。著者は構造設計家の方で、
上の「鳥の巣」についてこんな見方をしています。
この建築は国際設計コンペで選ばれた案で332m×296mの長円形プランを持ち、当初中央の開口部には開閉屋根を
設ける計画だったそうです。このスケールの屋根をラーメン構造という曲げ主体の構造システムで構成するのは、
まともな判断力を持ったエンジニアが考えれば、初めから不合理な話であると看破しています。そして、架構に要した鉄骨量が
約42,000tで、単位屋根面積当たりの鉄量は700s/uと空前の浪費型構造になってしまい、しかもこの構造が支えている
荷重は30s/uに満たない膜仕上げ材と照明器具ぐらいのもので、この巨体を以って、ほぼ、自らを支えているにすぎない
不可思議で不合理な構造物だと分析します。そして、この「巣」の主を巨大化した鉄食い鳥かと揶揄しています。限られた資源と
エネルギーをできるだけ効率的に利用し、環境汚染や温暖化を抑えることによって自然の恩恵を次代に遺し、人類の繁栄を可能な
限り永続させようというのが今世紀世界の共通の思想である以上、五輪施設のような象徴性の高い建築をこのような浪費型構造で
あえて作ろうとするのは時代錯誤と言うほかないと言い切っています。
改めて建築の持つ社会的責任について考えさせられた一文でした。
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