今年の春以降俄かに輸入木材が値上がりを始めたと思いきや、
今度は木材そのものの供給が逼迫し始め、いわゆる“ウッドショック”が起きています。
住宅業界を中心に主に柱や梁の構造材に使われる北米産米松材や欧州やロシアから産する針葉樹やその集成材が不足しています。
それに引きつられて代替材に用いられる国産材の間柱や野縁といった杉の特等材も不足し奪い合いの状況を呈しています。
そのためプレカットに頼った住宅業界は供給不足になり、プレカット工場のラインの停止、現場の遅延、契約後の材料高騰による増嵩費用の負担が重くのしかかって来ています。
その理由として巷間いわれているのは、
米国でコロナによるリモートワークが普及し都市部でなく郊外で戸建てに住む人が増えて一種の住宅バブルが起きており米松材の供給が内需に向けられていること、
欧州でも環境に配慮した対策が求められていることから木材への需要が増して輸出に向けられない、などが要因として挙げられています。
しかしその本質は日本市場への魅力が失われ相対的な立ち位置が海外に比べて低下していることだと思われます。
「Jグレード」と呼ばれ品質管理が厳しい日本市場に対して、米国や中国は低級材と呼ばれる曲りや節、
シミや腐れのある木材も受け入れてくれることから欧州材も含めて米国・中国市場へのシフトが鮮明になってきています。
人口減少が明らかで住宅着工戸数も今後落ちていくのが避けられない日本市場を尻目に今後の木材需要のポテンシャルがある新興国のマーケットのほうが魅力的に映るのです。 いざこういう状況になってみると日本の住宅が如何に外国材に頼ってきていたかが分かります。
ほとんどの住宅の梁・桁類はドライビームという商標で呼ばれる米松で占められて柱類もモミ系の木をラミナという薄板にカットしたものを張り合わせた集成材でほぼ例外なく組み立てられてきました。
それはとりもなおさず壁の仕上げ方がほとんど柱をなかに包み込んでしまう大壁という形式になってしまったためです。
和室に用いられる柱を見せる真壁工法という壁形式がなくなってしまったのです。柱は芯を持った材料が多いですからしぜん、
乾燥によって割れや狂いが出てきます。真壁工法ではそれを防ぐため背割れという割れ目を見えない側に人工的に入れてそれが含水率を調整して表面割れを防いでいました。
それが壁の中に埋め込まれると木材の動きが表面仕上げのクロスにしわや裂け目を作ってクレームになるため集成材のような動かない木材が必要となってくるのです。
国産材が採れない国ならいざ知らず、国土の7割が山林で占められている国で自給できないでいるのはなぜなんでしょうか。
経済優先の安さだけを求めた結果がこんな状況を生んできたと言わざるを得ません。戦争で切りつくした山の樹木を杉桧を中心に戦後の植林で育ててきました。
しかし日本の植林地は何といっても奥深い山の斜面がほとんどです。間伐するにも林道の整備がいり危険な斜面を人力で運搬しなければならず、
採算性が低くしぜん従事する人が減り山は荒れて行きました。
寒冷地ながら比較的丘陵地帯に繁っている北米材やシベリア材にコストと供給量で対抗できず、
競争力を失いこんにちの外材頼りに陥っていきました そのため外材が不足だから内地材で行こうとしても、それを製材してくれる従事者や会社が零細で量的にも圧倒的に不足しそれに見合う生産量を確保できないでいるのです。
江戸期までは当然木材は自給生産で、しかも戦国期から江戸初期までの木材大量消費時代のあとを受けて尾州桧のように藩を上げて木材保護に当たりその後の伐採・利用に備えましたが、
いまは内地の大径木とされる巨木はほぼ切りつくされ伊勢遷宮の用材にも事欠く事態となっています。ここから国産材の復権を回復するのはおそらく不可能でしょう。
投資や林道整備をしてもさらには住宅の造り方を変えたとしても今度はそれに携わる人材を長期にわたって維持し続けることができないと思います。
せめて長期にわたって生産計画が山側の方でできるように川下側である工務店やユーザーがそれに見合う受注計画を担保し適切な在庫を維持できるようにして行かなければなりません。
そして商品としての木材の新しい使い方も設計の側で考え提案していくことも必要です。 山は放っておけば自然のままでよいというわけでありません。
太古からある原生林のようなところならいざ知らず、何度も人の手が入れられた山にはさらに人の手によって適切な伐採や整備が尽くされないと荒れていくのです。
林野行政で税金をつぎ込んで山を守るには限界があります。民間の力で採算がとれる林業にしていかないと国土を失うも同然です。
「国破れて山河在り」ではなく、「山河失くして国滅ぶ」、なのです。
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