今年になって東北地方を中心とした震度5強ほどの地震が頻発して肝を冷やしますが、これが10年前に起こった東日本大震災の余震だというのですから驚きます。
マグニチュード9.0という地震規模がいかほどのものだったかが想像されます。
地震列島といわれる日本はその地質構造上4つのプレートが重なり合う場所に立地するという世界でもまれな場所として知られます。
プレートとは地球表層を取り巻く厚さ100㎞ほどの堅い岩盤のことで、例えて言うとちょうど生タマゴの殻を想像するといいといいます。
地球の内部は鉄でできた核が黄身のように中心にあり、
その周りをマントルという煮えたぎった溶岩のようなものが白身のように取り巻きそれを地球全体からすると薄い殻のようなプレートが覆っているというイメージです。
しかもそのマントルは中で対流して動くため、その上のプレートもそれにつられて常に移動しているのだそうです。そしてそのプレートも1枚岩ではなく、
何枚にも分かれているため接するところで潜り込んだり乗り上げたりしています。古いプレートである
大陸側のユーラシアプレートに対して海側の太平洋プレートとフィリピン海プレートが日本列島を押すような形で移動してくるため列島を太平洋側に反らせるような圧縮の力が
常に働いているといいます。その移動距離は毎年9.5㎝と言われ、5,000万年も経てば飛行機で行かなくてもハワイが日本のものになると云われています。
地図上では海が描かれていますから陸地の形が地球表面のように見えてしまいますが、海を除いた地形図を見ると海底の複雑奇怪な海溝や海嶺が刻まれ別の地球の姿が現れます。
東日本大震災を起こした宮城沖から小笠原諸島沖へと続く日本海溝は世界で最も深い海溝で海面からなんと8,000mを越える深さだといいます。
そんな地質環境にある日本列島であるがため火山や隆起が世界で最も多い地域を成して、それが表面の地形にも現れてきます。
長野県の松本より少し北に安曇野という細長い盆地があり北アルプスの麓の町として知られ風光明媚な景色が望めます。
日本百名山の半分近くを占める名峰が長野県を中心とした日本アルプスに集中していますが、その北半分の常念岳、
穂高岳、槍ヶ岳、燕岳などの有名な3,000m級の山々をそこから望めます。そしてここが日本列島を形付ける大きな要因になっているフォッサマグナの「現場」でもあることです。
明治の初めにお雇い外国人として来日したドイツ人のナウマンが発見し命名したとされる大きな(マグナ)地溝(フォッサ)です。
地質調査で訪れた野辺山付近の場所で嵐の後の晴れ上がった朝、
眼下の釜無川の台地の向こうに見えた2,000m以上ある南アルプスの鳳凰や甲斐駒ヶ岳がちょうど壁のように突っ立ちその向こうに富士山が高く威容を見せている風景に
言い知れぬ感動を覚え、世界でも見たことのないその地形の成り立ちに好奇心をそそられたといいます。
しかしその成り立ちには謎が多く、これまでにもいろいろな学説が出されていますがまだ定説がありません。
糸魚川―静岡構造線のフォッサマグナ断層がどのくらい深いのかはこれまでボーリング調査が何度も試みられているにもかかわらず基盤岩には達したことがなく推定で6,000m
と言われており、少なくとも地上の3,000mの北アルプスの山々との落差がおよそ1万mにも達するというのです(図1)。
この安曇野の田園地帯の下に6,000m以上の堆積物があるということが俄かには想像できません。
最新の研究は大陸から剥がれるように分かれた日本列島が1,500万年前に伊豆・小笠原弧の衝突と日本海の大和堆付近でマグマから供給される陸地の元が同時に
上下でぶつかり合ったことにより形成されたことを教えてくれます。列島を東西に走る古い断層の中央構造線が糸静線でプッツリ切れ、その東側の下仁田付近からまた現れること、
列島全体が中部地方を境に「くの字」に曲げられていることなどの説明がつくとされます。
世界的に見ても極めて珍しい地質構造であるからこそ、感動的な絶景を見ることができる。そう思うとこの安曇野の地から見える北アルプスの風景が愛おしく見えてきます。
近くを流れる犀川には北アルプスの伏流水が湧き出てバイカモがたゆたう清流をなし美味しい水と共に名産のワサビが作られています。
しかしこの風光明媚な風景と引き換えに我々は地震という災害を背負わなければならなくなりました。
その対策として海岸線をコンクリートで固める強靭化という発想が果たして正解なのかどうか。人知をはるかに超えたその地球の成り立ちを考えたとき、
そうではない別のソフト面での防災思想でないと自然には対峙できないのではないかとの意を強く持つのです。
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