建築情報誌などでオリンピック関連施設の完成を知らせる特集が多くみられ、周辺の交通インフラとともに首都東京がまた様変わりしたような感があります。
大きなイベントを契機として都市環境が整備されるのは悪いことではないと思いますが、
オリンピック後の施設運営や財政収支をうまくやっていかないと後世に負動産として残ってしまう恐れがあります。
なんといっても少子化の時代。
昨年初孫ができましたが、その世代の出生数がなんと86万人と聞いて愕然としました。私と同世代が170万人、
団塊の世代では270万人いたことを思うとその1/3に減ってしまったことになります。
この世代が成長する数年後の将来はこの出生数を見越して計画を立てていかねばならないことを意味します。幼稚園や学校、書籍出版、住宅需要、
耐久消費財等々供給を減らしていかないと立ち行かなくなる時代が来るのです。もう遅きに失しましたが、
もう少し子供を社会で育てるという視点に立った政策を急ぐべきでした。この先、先進国どころか経済規模の小さい途上国並みの経済になってしまいます。
今でさえインバウンドと称して観光立国を目指そうとしていますが、ここ数年で日本の魅力あるクールな観光資源が特段増えたりしたわけではありません。
円安誘導と長いデフレのせいで日本自体が貧しくなったことを自覚せねばなりません。外国人にとって今の日本のホテル代や物価は安く映るのです。
かつてバブルの頃、途上国に行くと安い金額で豪遊できたのと今まさに逆のことが起こっていると思ったほうがいいのです。
現実の数字を見ても賃金は政権が言うほどには上がっておらず、これだけの財政出動をしてもこの程度のGDPしか達成できていないのが現実です。
教育や科学技術にこそ投資すべきところを新たな成長戦略が見いだせないまま、
カジノや財投を使っての高級ホテル建設などという発想では財政規律を失った先に何が待っているのでしょうか。
経済のことは門外漢ながら1,200兆円という天文学的な数字に跳ね上がった国の借金はもはや現実的な数字には思えません。
MMTなどという新理論を持ち出す学者も出てあたかも問題ないような論調も見受けられますが返さなくていいことではないはずで、
永久公債のような裏業を使わない限りこれを返済していくことになると当然緊縮財政にならざるを得ない。お金を使えない時代がやって来ることになるのです。
昨年生まれた86万人世代の負うべき社会の姿が何となく浮かぶような気がします。
昭和の大恐慌といわれた時代がそうでした。浜口雄幸首相の昭和5年前後の時代は金解禁で国論が二分した時代で、
浜口と井上蔵相の「伸びるために縮む」という方針のもと緊縮財政が敷かれ長く不景気の時代が続きます。
「おしん」のような子を東北の農家が生んだ時代です。その農村不況が後年5・15、2・26事件を起こしあの戦争へと繋がっていったというのが歴史の教えといわれています。
貧しさを克服する施策、それこそがいつの時代でも争いを未然に防ぐ唯一の方法なのだと我々は学ばねばなりませんが、緊縮財政の景気とはそうならざるを得ないことも事実です。
話が横道に反れてしまいましたが、そんな緊縮財政時代に作られた豪邸が埼玉県川島町にあるのを先日見る機会がありました。
「遠山邸」と呼ばれ今は財団法人の記念館になって一般公開されています。
建て主は日興証券創業者の遠山元一氏で一度没落した生家を再興するために昭和8年から7年の歳月をかけて造られたといわれます。
のどかな田園地帯に池と長屋門を入口に持った住宅ですが、玄関棟は茅葺きで豪農風に設えてあり、主屋は入母屋むくり破風の2階建て瓦葺、
離れが平屋の数寄屋造りという組み合わせになっています。三棟合わせた延べ床は211坪に及び当時の大工技術の粋を集めた造作に見えます。
柱の尾州桧や北山杉の天然絞り丸太など全国各地から用材の銘木を集めたことの説明書きがありましたが、
壁などは本霞と記載があるガーネットストーンという石材を混入した赤茶色の塗り壁が施されています。
庭園の造りも凝っており、水琴窟を設置し山波石などを組み合わせた山水式の石組みに小葉の赤松が映えて手入れの行き届いた風を感じさせます。
当時苦労を掛けた親への愛慕は強かったのでしょうか。太田市にも昭和5年上棟の中島新邸が遠山邸よりもさらに贅を尽くした設えで存していますが、
これも両親のための家として作られたものでした。片や株で、片や軍需飛行機で財を成した人の贅沢普請です。
国家予算の半分近くが軍事費だったといわれた時代に周囲の農村の人たちが小作の状況で喘いでいるのを尻目に建てられたことを思うにつけ、
素直にその邸宅の中を心穏やかに見学するには忍びないものがありました。
浜口首相は緊縮財政によって国民が疲弊することを承知で将来のためにあえて忍ぶことを求めたが故に、東京駅で暴漢に狙撃され命を落とします。
その際浜口は有名な「男子の本懐である」という言葉を発したと言われています。
「伸びるために縮む」。 いつの時代でも政治家の売り物となるのは、常に好景気です。あと先を考えず、景気だけをばらまくのがいい。
民衆の多くは国を憂えるよりも、目先の不景気をもたらしたひとを憎みます。
それ故か、現政権が新年度予算で行っていることもバラマキの多い現世利益の施策ばかりのように映ります。
86万人世代に将来なんといって申し開きをするのでしょうか。
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