20年近く前から地元のロータリークラブというところに所属しています。
各郡市部に5クラブ前後があり1ないし3の県単位で地区を形成し、その上部組織は世界ロータリー(RI)に繋がっています。
その主な目的は奉仕活動で、地域の子供たちを対象とした社会事業や交換留学生・外国人奨学生の受入れ、そして職業を通じての社会奉仕などを行っています。
年に1回群馬県地区の大会があり今年は10月末に地元新田を会場として行われましたが、
その中でロータリーのポリオ根絶活動についての報告や啓蒙が行われたのが印象に残りました。
ポリオといってもピンとこない人には小児麻痺といえばわかるでしょうか。昭和30年前後生まれの我々世代では小学校や地域に一人二人はいたのを覚えていると思います。
それくらい身近な病気でした。100年前のニューヨークで大流行し、7,000人の子供が亡くなり数千人に麻痺が残った記録があります。
ポリオは正式には「急性灰白髄炎(かいはくずいえん)」と呼ばれる感染症です。ポリオウィルスの中枢神経への感染により脊髄の灰白質に炎症がおこる病気です。
経口感染し体内に入ったウィルスが血液を通して移動し脊髄に至ったときに麻痺を起こします。麻痺が起こると筋力低下、筋緊張低下及び筋萎縮が後遺症として残ります。
しかしウィルスに感染したからといってすべて発症するわけではなく90%以上は発症しないとされ、1000人が感染して1人に麻痺が出る病気とも云われています。
この感染しても発症しない、いわゆるキャリアー患者と呼ばれるひとが多く存在することがポリオのなくならない理由のひとつに挙げられます。
保菌者でありながら自覚症状がないため便や唾液からウィルスが排出されてしまいルートを特定できない困難さがあるのです。
逆に言えば一人の患者が出たその後ろには1000人のキャリアーがいることになり、その根絶の困難さが理解できると思います。
このポリオに最も感染しやすいのは5歳未満の子供ですが、残念ながらいったんポリオにかかってしまうと現在の医学をもってしても治療法はありません。
唯一の対処法はワクチン接種による「予防」しかないのです。
このワクチン接種によるポリオ根絶を運動として世界で最初に始めたのが日本の二人のロータリアンだったことはあまり知られていません。
その二人は東京麹町ロータリークラブに所属していた方で、かつて訪れたインドで目撃した少年の姿に衝撃を受けたのが始まりとされています。
会合でホテルに入る際公園の近くで見た四肢麻痺の少年が手とひじを使って地面を這うように移動しているのを見かけます。
短い会合が終わってホテルを出て同じ公園をみると、
さっきの少年が先ほどの場所から十数㍍しか進んでいないところでまだ地面を這っている場面に遭遇しショックを受けて帰ります。
その後彼らの取った行動は迅速で、ポリオ根絶運動をクラブの事業として承認させ、
その後事業の規模から単独では立ちいかなくなることの限界を知り地区へ、そしてRIに働きかけて世界ポリオプラス計画を決議させるまでになっていったのです。
それからも二人はインドへ通い続けましたが、3年後くらいに志半ばでこの世を去っています。風土病を患ったともいわれています。
彼らの提唱したポリオ根絶運動はその後発展を見せ、世界保健機関(WHO)やユニセフを巻き込み世界的活動になっていきます。
2009年にはビル&メリンダ・ゲイツ財団が資金援助を表明しロータリーに3億5500万ドルの補助金を提供することを発表して世間の耳目を驚かせました。
その結果世界各地でワクチン接種が進み、2000年に日本を含む西太平洋地域に、2014年にはあの少年がいたインドに根絶宣言が出されます。
現在感染者のいる常在国はアフガニスタン、パキスタン、ナイジェリアの3国を残すのみとなり、患者数は全世界で20数人にまで減ったとされます。
近い将来このポリオウィルスが根絶できれば天然痘に続いて2番目の人類によるウィルス根絶が達成されることになります。
大会では基調講演の講師としてボランティア活動に意欲的に取り組み現在ポリオ根絶大使を務めているジュディ・オングさんをお呼びしてお話を聞く機会もありました。
各ロータリークラブではポリオに対する年間の寄付目標を定め、毎回例会に出る際に一人1,000円を寄付していきます。
それが世界規模で行われ最終的にRIに集められ、ゲイツ財団などの民間団体からの補助も仰ぎながら世界の末端にワクチン接種が及んでいるのです。
もし残り3国での感染者をなくす日が訪れれば、その日こそロータリアンが世界に胸を張って誇れる日になるだろうと想像します。
麹町ロータリーの二人が見た地を這う少年を世界は再び見ないで済むのですから。
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