国交省による地域型住宅グリーン化事業という、地域材を広く利用する団体に助成金などを支給する制度があります。
その中に北関東住まいつくりネットワークという団体があって当社も所属していますが、そのグループで秩父地域の林業・製材業を見学する催しがあり参加してきました。
訪ねた場所は秩父大滝地域の林業地帯で、秩父鉄道終点の三峰口からさらに車で1時間ほど山に入った山林地帯でした。
山を一つ越えれば雁坂峠となって山梨まですぐの山深い場所になります。大滝さわらや大滝杉のブランドで出廻っている木材産地となっているところです。
一般道から狭い林道を抜けて辿り着いた場所には少しばかり開けた土場と呼ばれる平地があって伐り出した丸太材の一時置場に使われています。
標高は700mほどですがひんやりした空気と深山特有の静寂さを感じます。この地で江戸期から林業を営む角仲林業の山中さんの案内で伐採現場の最前線を見させていただきました。
植林されている樹種はスギとヒノキで一部さわらが植えられ、60年から70年ものが主流の山です。
実際の現場は道なき道を行く感じで最初の仕事が林道ならぬ重機道を作ることから始めなければならないことを知りました。
斜面は昇り降りにも難渋するほどに急峻で人力で伐採を行うとなると危険と非効率を覚悟せねばなりません。
山中さんによればもう少し先に見える別の山に先々代が植えた樹齢120年ほどの素性の良いヒノキがあって伐り出し時期を迎えているので伐りたいのだけれど、
運搬のための林道がなく頭を悩ましていると語っていました。これだけの山林を持ち合わせながら木を切るための林道から整備し重機で伐採し土場へ運び、
まとまったところで下の製材所に運搬。製材所ではコンピューター管理された全自動の機械で皮むき、製材、含水率・ヤング係数測定、人工乾燥まで行ってラベルを張り材木店、
工務店に納品という流通経路を辿ります。
その間70年ほどの植林期間を経た杉の105角柱が末端価格2,000~3,000円という現状では千本売っても300万円にしかなりません。
単位年あたり、1苗木当たりの単価はいかほどのものになってしまうのでしょうか。実際山中さんはその主たる生計をしめじやなめこの生産販売で賄っており、
民有地林業が商売としては成り立っていないことを教えてくれます。後継者も息子さんが入社してくれたようで一安心はしましたが安定的な林業経営がいつまで続けられるのか疑問で、
これは角仲林業だけの問題に留まらない大きな問題を孕んでいます。
我が国の森林面積は国土の7割を占めています。その植生上里山の雑木林も含めて広葉樹系の樹種が多かった森林でしたが、
戦後薪炭に代わって電気、ガス、石油が使われるようになる燃料革命があり、化学肥料の普及で落ち葉も使われず広葉樹は不要になって行きました。
戦後の高度成長期になると木材、セメント、砂糖を合わせて「三白景気」と呼ばれたように木材も需要を伸ばしましたが、
そこで必要とされたのはやはり広葉樹ではなく足場丸太、角材、板材などの直で均一な品質が揃う針葉樹だったのです。
針葉樹は不足し高値を呼びましたが、政府の方針で内地材増産に取り組む一方外材の本格的輸入に踏み切ります。
結果里山は針葉樹だらけになり円高が進み価格も安い外材が供給量の8割も占める状態になって行ったのです。
1960年代、毎年約80万人が農山村から都市へ向かいました。その結果現在の山村人口は総人口の4%に過ぎなくなり、
そのわずかな人々で国土面積の約5割という人工林を支えている図式に陥っています。人口流出は里山の収入を減らし人を養えなくなるという事情を生んでいきました。
森林の経済力が低下し後継者も失いつつあります。
木材復権を願い官民挙げて様々な取り組みが行われてきています。県産材を使うことに利子助成をしたり、
新国立競技場などにも見られるように公共建物にも意図して木材を多用することも多くなりました。
しかし、本来我が国は木の文化を自称して来ましたが果たして今もそうなのでしょうか。農具や民具は木製から樹脂や金属製に代わり、
住宅の和室も無いかあっても1室のようになりました。木との付き合い方は明らかに貧弱になってしまっています。
資源と環境の問題に絡ませてひと頃「割りばしは木材資源の無駄使いである」という主張をしていた人がいました。
1年間に使い捨てられる割りばし量は40坪の家なら1万軒に相当するという試算さえしていました。
実際は木材の内でも背板という製材屑や不良原木を使っていてむしろ資源の有効利用であるという反論が林業関係から出されたものでした。
統計上木材を資源として多用しているのはパルプで、A4版の紙1枚は割りばし4膳分に相当し、新書1冊で軽く100膳分になるといいます。
その中でももっともパルプを使っているのは新聞紙で、このことは「不都合な真実」として新聞社は自ら報道をしていません。
森林の資源と環境という大問題をそんな割りばし論議に矮小化していては発展することがなく終わってしまうことを危惧します。
森の問題は治山治水にも関わり、河川を通して海のプランクトンにも関係し漁獲量に影響しています。山の生計を維持する付加価値を模索することが我々にも求められています。
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