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赤石建設株式会社 一級建築士事務所
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平成29年7月


 建築情報誌をもとに新しくできた建築物を見に行くというのは少し胸がキュンとするような緊張感と期待感があって学生時代から楽しみでした。
 今は商売柄古建築を見に行く機会のほうが圧倒的に多いですが、今月久しぶりに現代建築の最先端ともいえる銀座にできた「GINZA SIX」を見に行く機会がありました。
 旧大丸松坂屋百貨店をはじめ17地権者からなる六丁目の2街区を一つにまとめ上げた地下6階、地上13階の店舗、事務所、能楽堂、駐車場を合わせ持つ巨大建築物です。 敷地面積は銀座のど真ん中にして9,000㎡、昔風に言えば約9反という広さに建蔽率、容積率いっぱいの延べ床面積45,000坪を擁します。 下世話な話をすると路線価にして3千億円ほどの地代になるのでしょうか。
 中小規模の建物が多い銀座にあって異彩を放つ大きさで、周囲と少し切り離れた印象を持つのも事実で今後人の動線がどう変化していくのか興味が湧きます。
 外装デザインは谷口建築設計研究所と鹿島が中心となったチームだそうで、そのデザインのモティーフは古来の日本家屋の「ひさし」と「のれん」を基にしているといいます。 今どきの商業施設は賃料の高い1階部分を丸ごとブランドショップに貸し出し、プラットフォームは2階というパターンが主流となっているようで、 ここも御多分に洩れず低層階には有名ブランドショップが競うように「のれん」を縦方向に並べ、 上層階は長いひさしが逆に水平線を強調するように幾重にも重なって四方を囲っています。 入り口付近には美男美女のブランドショップ店員がいい匂いと共に生活感なく立っていて少し気後れしますが、 意を決して中に入ると2階店舗スペースの上に大きな吹抜け空間がひかり天井と共に見えてきます。そしてそこには白とピンクのカボチャのようなオブジェが吊られていて、 それが草間彌生のデザインであることがだんだんわかってきます。13階上の屋上に上がると1,200坪を超える広さの屋上庭園が拡がります。 水盤、芝生ゾーンを中心に回遊広場が取り囲み、親切に名称が付けられた多くの植栽類と共にここが銀座の一等地だということをつい忘れてしまいそうです。
 銀座のまとまった土地利用という観点からそこに生まれる複合施設には相応の付加価値のあるものが要求されたはずです。 行政と地元地権者や地域組合の協働による地区計画など街づくりルールやデザイン協議会の運営に始まり、実施段階に入れば法律との摺合わせ、 構造計画、防災計画、空調、電気、サイン計画等々そこに蕩尽されたエネルギーの膨大さを慮ります。外装に限らず、エレベーターホールの照明や内装材の選択、 サインの文字書体の一つひとつに至るまでそのディテールの微に入り細を穿った気の配りように丹精さを感じます。 そこには各専門性を持った技術者が何千と行きかい夥しい枚数の図面と多くの時間が費やされたことでしょう。 現代の建築設計と施工に要求される労務はかように過酷なものに変貌しています。
 このような建物ではどうしても大手組織事務所やゼネコン設計部のような組織力を生かした設計事務所がその力を発揮することになりますが、 現在優秀な建築科学生はこぞってこのような大手組織事務所に行くといわれます。匿名と記名の間にあって黒子として施主の要望に応えることで社会との接点を持ちながら、 専門誌に取り上げられることでプライドの充足もあるといわれます。 しかし優秀な彼らは今ある要望には応えられても「社会を変える新しい建築の提案」はできないと危惧し、 そこに社会の保守化を読み取る論者もいます。野にあって個の信念と才を信じて社会へ提案し続けるアトリエ派が減り、 そのことが将来コンペと呼ばれる設計競技に応募することがなくなり、 ロクな案しか集まらなければそもそもコンペという形式自体が意味をなさなくなってしまい新しい創造性の芽が摘まれてしまうとしています。
 さらに敷衍して言えば一流企業での一気の経営危機や成長戦略の枯渇にもこの保守化がかかわっているといいます。
 「寄らば大樹の陰」という学生心理も理解できない訳ではありませんし、相応の待遇も保証されなければ将来を描けないことも分かります。 しかし組織の中にいるとしぜん上の者に気を使い出世を望むようになり個を滅していくことが往々にしてあることはこれまで多く見てきたことです。
 「設計や施工という時間の掛かる遅効性の活動は現代という早いサイクルから逃げ遅れやすいけれども、それを叩いてしまうようなことはあってはならない。 金の卵を急いで得ようとして金のガチョウを殺してしまう寓話と同様自らの未来を貧しくしてしまう。」そう東北大の小野田氏は警告します。
 GINZA SIXという巨大建築物を体験することでそこに費やされた多くのエネルギーを想像しつつ、 果ては教育にまで言及しなければならない社会の保守化の流れを良いこととすべきなのかどうか、個としてできる限界もまた感じてしまうのです。







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