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THE TELL-TALE HUT
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オーナー:庵本譚 
WELCOME TO “THE TELL−TALE HUT”
オーナーは庵本譚です

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34. 2004年10月30日 04時38分54秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
恒例の神田青空古本市が始まったのに刺激を受けて、久しぶりに
古本屋に寄ってみました。
といっても神保町ではなくて、帰り道のお話。
買ったのはこんなところ。
「妄想ニッポン紀行」小松左京(講談社文庫)50円
「少年殺人事件」ローレンス・ヤップ(晶文社:帯)520円
「お嫁にゆけない」笹沢左保(春陽文庫)70円
「東亜旋風秘録」山中峯太郎(同朋出版社)300円
小松左京のSFルポは、続編を先に(古本屋で)購入していたので、
ローレンス・ヤップは「マーク・トゥエイン殺人事件」が面白かったので、
笹沢左保の短篇集は、園生義人の明朗小説のような題名に惹かれて、
山中峯太郎の冒険小説は、昭和16年の初版本が余りの安さだったので、つい
というのがそれぞれの購入動機です。
山中峯太郎の本は、探している人は探している本かもしれません。
グラシン紙がかけられて、1万円とかの値段がついて
ガラスケースの向うに並んでいれば、それはそれで納得してしまうこと
でありましょう。
ぱらぱらと目次を見ているだけで、わくわくしてきます。
「密偵何をか言ふ」とか
「忠臣より鼠賊へ」とか
「あゝっ、劉!」とか
「Z・Z・Z」とか
「怪女の行方は?」とか
…でも、絶対読まないでしょうねえ。

本日読み終わったのは結城昌治「振られた刑事」文春文庫。
文庫オリジナルの拾遺集です。いわゆる中間小説紙に埋れていた作品を
まとめたものですが、いずれも男女の機微を軸としたサスペンスで
統一されてます。多趣多芸な人なので、拾遺集を編もうとするとユーモア系や
ショート・ショート等が混じる可能性も高くなるのですが、
無作為の作為なのか、それなりのまとまりを感じさせます。
ただ、シリアスな作品ほどあっけなく終わってしまい、皮肉な落とし噺の方が
印象に残るというのが私的読後感です。
奇妙な味わいの「諦めない男」がベスト。
いかにもロスマク風の「悪夢の明日」は長編向きの作品でありました。
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33. 2004年10月29日 05時44分49秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
二階堂黎人の「魔術王事件」を読み始めたのですが、
冒頭の「紫の魔術王」で既にめげかけています。
サム・ホーソンとの密度の差がこれほどにもあったのかと
戦慄しております。
犯人が「あの人」だったらイヤだなあ。
いや、まあ、魔術王なんでしょうけど。

読み終わった本はミネット・ウォルターズの「蛇の形」、
勿論、創元推理文庫版。イアン・ランキンがハードカバーに
移る今日この頃、その逆を行くウォルターズには拍手喝采、
それだけでポイントが高くなってしまいます。
今回の話も、作者お得意の一筋縄ではいかない騙りの迷宮小説。

20年前、イギリスのリッチモンドの余り品のよくない住宅街で
一人の孤独な有色人種女性が惨めな死を遂げる。名誉も蓄えも
全て奪われ、ただのアル中の交通事故死として処理されたその死の
真実を「復讐の天使」となって追う元女性教師ミセス・ラニラ。
自らの魂の復権を賭けた彼女の執拗なまでのフィールドワークは、
やがて悪意と暴力と欺瞞と誤解に塗り固められた「過去の事件」と
その真相を暴き出していく。
誰もが嘘と威嚇を繰り返す時の壁の向うで、舌を出す蛇の形。
操りと誇りの闘い、その勝利者は、果して?

いつもながらの多層構造の「嘘」に翻弄される快感。
孤立無援の闘いは、何も卑しい街を行く一匹狼のだけのものではない
ことを諭される雄編、というか、雌編と書いて「ゆうへん」と
読ませたくなるような話です。
おそらくこの物語の主題は「弱き者」なのではないでしょうか?
作者は様々な形の「弱き者」を描き、そして真の悪がどこに潜むのかを
モンタージュ技法も交えながら、浮かび上がらせていきます。
なんとも昏い話ですが、頑張って読み通した者には、最後にカタルシスが
待ち受けています。
「正義」の在り方、探偵たる者が潜らねばならぬ地獄の姿、
イギリスのクライムノベルのレベルの高さをまざまざと思い知らされる
作品でした。タフな小説が好きな人にオススメ。
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32. 2004年10月28日 02時29分27秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
今月号のHMMを買わねばと書店を覗いたところ、HMMはおいておらず、
SFMばかり5冊も並んでおりました。
しかもなんと、偏愛している作家の一人、ジョージ・R・R・マーティンの
特集ではありませんか。これは、買わずばなりますまい。
っていうか、特集を組めるぐらい短篇を翻訳するのであれば、
「サンドキングス」に続く第2短篇集を編んで頂きたいものであります。

本日読み終わったのは、角川文庫版の佐野洋「二人で殺人を」。
法曹一家出身の新進女弁護士と結核で休職中の新聞記者のコンビが、
懸賞小説のネタ探しのつもりで素人探偵業に手を染めます。
隣接するデザイナー事務所と写真家事務所を跨る愛憎の死亡遊戯。
トップ・アーティストたちが隠しつづけた15年目の真実、
写真は告発し、嘘が死を招く。二人で小説を、二人で探偵を、
二人で犯人を、そして二人で殺人を、てな、お話。
幾ら法曹一家の長女とはいえ、ここまで警察が協力しちゃう
もんだろうか?と突っ込みをいれたくなるほど、ファンタジックな
読み物です。最後は、締切を競争するように、皆を集めて
さてと云う、ところなんぞも実にすちゃらかほのぼのしています。
最近、立て続けに佐野洋の初期作品を読んでいますが、
いずれも軽妙洒脱な筆致に、「推理日記」での五月蝿いご意見番の
印象がすっかり拭われてしまいました。
名探偵役の女弁護士を指して「女メイスン」などと銘打ってしまう
ところには、時代を感じさせますが、高木彬光の百谷泉一郎シリーズで
百谷明子を「ペリ」と呼ばせるノリに比べれば、まだ赤面度は低い
といえます。佐野洋は殆ど積読ばかりでしたので、思わぬ鉱脈に
けつまづいた思いです。
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31. 2004年10月27日 06時03分06秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
本日のアップを終えてから
32号室の紅さんの収穫を拝見して、自分のチョンボに
気がつきました。
<LAST ONE>叢書でクイーンJr.の第9巻を
「青い鳥の秘密」とやってしまいましたが、
ジューナ・シリーズで、青といえば「にしん」ですよね。
ったく、メーテルリンクでも、芦田豊雄でもないんだからさあ。
第9巻、正しくは「紫色の鳥の秘密」であります。
謹んで訂正いたします。
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30. 2004年10月27日 05時39分21秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
時期を逸しましたが先週の「新選組!」は「龍馬暗殺」。
今年に入って「QED〜龍馬暗殺」、「乱歩邸土蔵伝奇」を
読んでいたもので、ミステリ映画の真相場面を見るかの
ようなノリで興味深く観ることができました。
結局、三谷幸喜は「黒幕:薩摩藩、実行犯:幕府見廻組」説で
手堅くまとめ、新選組犯人説の拠り所となる「こなくそ!」発言
にもケリをつけてました。なるほど、なるほど。
「大政奉還」をナレーションですませてしまうという大胆な
刈込ぶりが、かえって隊士たちの困惑ぶりを引き立てるという
演出にも感心しました。

SRマンスリーの最新号が着きました。
今回は乱歩賞50周年で、いつもの合評(今年もボロクソ)に加え
50年間のベスト、ワースト(作品、タイトル、作家)の会員
アンケート結果を発表。私は、参加しませんでしたので、ここで
枠外参加しておきます。
Q1.ベスト作品:「猿丸幻視行」井沢元彦
Q2.ワースト作品:最近作を読んでいないのでパス。
Q3.好きな受賞作家:高橋克彦
Q4.ベストタイトル:「猫は知っていた」
Q5.ワーストタイトル:「剣の道殺人事件」
Q6.乱歩賞の意義:普通の人々をしてミステリを手に取らせる効用は
今も尚あるのではないでしょうか。
Q7.落選作ベスト3:
「占星術殺人事件」「『禿鷲城』の惨劇」「虚無への供物」
Q8.自由記述
良くも悪くも「紅白歌合戦」のような国民的イベントなのだろうと思います。
文学賞で「直木賞」「芥川賞」に並ぶ賞は「乱歩賞」だけでしょう。
普段は推理小説を読まない人に、推理小説の面白さを知って貰う賞という
位置づけに照らすと、最近の作品はどうなのでしょうねえ。

他、マンスリーの記事では、「ベストテンを二シーズン制に」という
緊急提言に激しく同意してしまいました。ここ1、2ヶ月の重厚長大作の
氾濫には時間的にも財政的にも悲鳴を上げております。

東京創元社からはやっと「帆船」マークのピンバッジが届きました。
ちゃんと塗りが黄褐色だったのが嬉しい驚きでした(これまではすべて黒)。
帆船マークも一通り買ってはいるのですが、分厚い本が多いのと
主戦場ではないため、積読の宝庫です。
どなたかお立会いの中に「アレキサンドロスの宝冠」と
「虚栄の神」を読破された方はいらっしゃいますか?
これと「異星の客」「月長石」で旧マーク四天王ではなかろうかと
考えております。
個人的には帆船マークの作品では、ジョン・ジェイクスの「戦士ブラク」
シリーズを武部本一郎画伯のカバー・挿し絵ゆえに偏愛しております。

本日読み終わった本は佐野洋の「赤い熱い海」、角川文庫版です。
火災で函館沖に緊急着水した旅客機の乗客3人が死亡。
業界大手の探偵社に持ち込まれた行方不明者の捜索依頼が
事故に隠された怨念を暴き出す、といった話。
読売新聞社の「新本格推理小説全集」の一冊として出版された作品。
鮎川哲也の「積木の塔」、陳舜臣の「影は崩れた」、
高木彬光の「黒白の囮」など傑作の多い意欲的な全集ですが、
この作品も充分期待に応える内容で、4人以上のチームの私立探偵が
活躍するという珍しい趣向も、旅客機事故という派手な道具立ても
ツイストとサプライズに貢献しているところがお見事です。
ただ、サプライズの根っこに偶然を介在させてしまったのが
玉に疵でしょうか。読売の全集を担当した女性編集者の解説も
佐野洋の人柄や、当時の出版業界の息吹きを伝える楽しい
エッセイです。元版をお持ちの方も、ブックオフで解説を立ち読み
してください。
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29. 2004年10月26日 06時39分39秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
読んだ本は、勢いに任せて笠井潔の「ヴァンパイヤ疾風録
<九鬼鴻三郎の冒険3>」角川ノベルズ版。最も最後に書かれた
ヴァンパイヤ戦争サーガ、ということになるのでしょうか。
昨日は調子に乗って「クメン編」などと口走ってしまいましたが、
実際に読んでみるとこの2巻・3巻で「ザ・ラスト・レッドショルダー」に
相当する内容というべきでした。
3巻目はベトナムを舞台にした、二重、三重の陰謀と殺戮のフーガ、
密林への捕虜救出作戦の果てに待つ裏切りのアルペジオ、
縺れるはKGBとCIA、フィナーレは血まみれのQED
甦りしファム・ファタールはパーフェクト・ソルジャーだったのか?
何故か、ブライアン・フリーマントルを彷彿としてしまいました。
この作品が書かれたのはベルリンの壁の崩壊直後ですが、
「冷戦下のエスピオナージュ」に対する作者のオマージュとも思える
ノリでありました。
今回の本編の復刊はこの続編もスコープに入っているんでしょうか?
そもそも角川でさえ文庫化されなかったんですものね。
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28. 2004年10月25日 07時26分15秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
今年度の翻訳ミステリ「<何を今更>大賞」は
嶋中文庫「グレート・ミステリーズ」に決定!なのでしょうか?
ふと早川書房の世界ミステリ全集から文庫化が相次ぐ
なんて夢想をしてしまいました。やはり目玉は、単独では本に
なっていない「アリゲーター」と「メグレの回想録」なんでしょうか?
(「裏切り」もないのかな?)
37の短篇を「スモール・ミステリーズ」として3分冊で出すとか。
(>どうやらこれがいいたかったようです)

読んだ本はホックの「サム・ホーソンの事件簿3」創元推理文庫と
笠井潔「ヴァンパイア風雲録」カドカワノベルズ。
前者は、相変わらず安定感のある面白さ。よくもまあ、毎度毎度
これだけの不可能トリックを思い付くものだと感心してしまいます。
それもあれだけの短い頁数に律義に伏線を引いているのですから
お見事としかいいようがありません。「幾らなんでも、それはなかろう」
と突っ込みを入れたくなる話も0ではありませんが、概ね楽しませて
頂きました。禁酒法時代とその直後といった時代背景も活かした
黄金期へのオマージュ。私の好みは巻頭作の「ハンティング・ロッジ」、
あとは「描きかけの水彩画」「消えた空中ブランコ乗り」です。
なお、巻末リストをみると、まだ3,4巻分はお話がたまっていそうなので、
更にワクワク。第4巻も是非刊行希望。ホックの伝道師ジロリタンが既に
(第4巻用に)選んであるというボーナス作品を推理してみるのも一興かと。

「九鬼鴻三郎の冒険」の第2巻は、文字通りのブリッジ作品。KGBの
トップエージェントに鍛え上げらた九鬼が、懐かしの新宿でヤクザと
香港マフィアを向こうに回して軽く汗を流します。まあ、ボトムズ
でいえばウド編の長閑さです。伝奇の要素は欠片もございません。
次回クメン編で完結。サンサ編、クエント編は本編11巻に戻って
最後は宇宙で決着がつくわけですね。うん。
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27. 2004年10月24日 07時49分42秒  投稿:庵本譚 
金曜外泊につき、二日ぶりの庵主です。
まずは金曜日の分から。

均一棚で古い春陽文庫に遭遇しました。
源氏鶏太の「鶴亀先生」、昭和36年の第6刷でした。
「よく売れていたんだなあ」と驚きつつも、結局購入しなかったの
ですが、帰宅してから、どんなストーリーなのか気になって
ネットを検索したら、ちゃんと梗概が載っていました。
なんと新東宝で映画化されていた事も判りました。
さて、ここで問題です。
以下の五つの記述のうち、ホントはどれでしょう?

1.鶴亀先生は数学の先生である
2.鶴亀先生は見事なカイゼル髭の持ち主である
3.鶴亀先生の「鶴亀」は本名である
4.鶴亀先生を映画で演じたのは笠智衆である
5.鶴亀先生は「小説新潮」に連載された


読んだ本は石持浅海の「水の迷宮」、装丁一新のカッパノベルスです。
既にネットでも今回のカッパの装丁については「何、あれ?」という
声が寄せられていますが、帯なのか、表紙なのか、良く分からない体裁は、
後の世の古本屋を泣かせるかもしれません。
以前、服部まゆみの「この闇と光」でも、大胆な装丁に恐れ入ったもの
ですが、そのような一発勝負ならともかく、今後、カッパは全体として
白を基調にデザインしていく、ということなのでしょうか?
それよりも、挟み込みで「サブテキスト」と称するかなりの分量の
著者インタビューと解説がつけられていた事の方が「事件」です。
ここまでの情報量が、例えばブックオフ愛好家にはゲット出来ないと
なると、それなりのインパクトではないでしょうか。

話の中身は、羽田にある第三セクター水族館を舞台にした脅迫と
殺人の時限サスペンス。ただ、作者の狙いは飽くまでも
「サラリーマン(たち)の浪漫」であり、謎もロジックもそれに
奉仕する装飾物にすぎない、といった雰囲気です。
一応、いつもながらのエレガントな解法はついているのですが、
感動の導火線は、別の爆弾に繋がっています。
この作者もいずれコドコロさんのように、ミステリから遠く離れた
前線にいってしまうのでしょうか?それとも、なにかしら「謎と
解法」にこだわったストレートノベルに辿りつくのでしょうか?
何かにつけ、目の放せない人です。

では最後に、鶴亀先生の「ホント」の発表です。

1.鶴亀先生は体育の先生
2.鶴亀先生は顎鬚の持ち主
3.鶴亀先生はニックネームで本名は中林千万年
4.鶴亀先生を演じたのは上原謙

というわけでホントは5番「小説新潮連載」でした。

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26. 2004年10月22日 05時33分34秒  投稿:庵本譚 
書棚の整理をしていたら、東方社の新編現代日本文学全集が一巻でてきました。
残念ながら渡辺啓助の巻ではなく、木々高太郎の巻です。
でも、所載の「幻影の町」「海光」の二長編は、朝日新聞社の木々高太郎全集
(どこが全集なんでしょうね?)には収録されていない話なので、なんとなく
得した気分になってしまいます。
それにしてもこの東方社の現代日本文学全集、50巻中10巻を探偵作家に当てていて
なかなかに壮観です。
そこで、ふと思ったのは、今仮に、21世紀現代日本文学全集 全50巻を編んだ
として、内10巻をミステリ作家に当てたらどうなるか?
講談社の現代推理小説大系や大衆文学館に採られた昭和のビッグネームは除くと
すると、果たして原典の水谷準に相当するのは阿刀田高として、渡辺啓助に当たる
変化球作家は一体誰かなあ?芦辺拓?
ちょっとやってみましょうか?

赤川次郎「マリオネットの罠」「三毛猫ホームズの推理」「幽霊列車」
内田康夫「死者の木霊」「後鳥羽上皇殺人事件」「少女像は泣かなかった」
京極夏彦「姑獲鳥の夏」「魍魎の函」「巷説百物語」
宮部みゆき「火車」「理由」「心とろかすような」
泡坂妻夫「11枚のとらんぷ」「乱れからくり」「亜愛一郎の狼狽」
島田荘司「占星術殺人事件」「北の夕鶴2/3の殺人」「御手洗潔のダンス」
奥泉光「葦と百合」「吾輩は猫である殺人事件」「ノヴァーリスの引用」
笠井潔「サマー・アポカリプス」「天啓の宴」「天使は探偵」
山田正紀「火神を盗め」「ミステリ・オペラ」「風水兄妹の事件簿」
芦辺拓「殺人喜劇の13人」「紅楼夢の殺人」「名探偵博覧会」
阿刀田高「ナポレオン狂」「冷蔵庫より愛をこめて」「過去を運ぶ足」

だめだあ、絶対10人なんて無理!

読了本は綾辻行人の「暗黒館の殺人(上・下)」講談社ノベルス。
結論を申し上げれば、マラソンの完走者を称える人間としての素直な
気持ちで読み終えることができました。序盤から中盤にかけては、
仕掛けが見え見えで「ああ、もう…、これは、どこかで見た…、既視感が…」と
非常に辛かったのですが、下巻も中盤を過ぎたころから(つまり、犯人が特定
されてからは)その力技の連続に大きくうなずきっぱなし。
狂った論理と倫理の迷宮で手繰り寄せたアリアドネの糸、その先に繋がれた
悲劇の虜囚たち、儚きは人の夢、血と闇の定礎は永劫の惑い、ここに館は囁きを
呑み込み、屍鬼を使役する。
作者も読者もお疲れ様でした。

ところで某書店で、ビニール袋に入った豪華版「暗黒館の殺人」函・付録付
を見かけました。なあんだ、本屋で買えるんじゃないですかあ。
さて、ここで気になるのは、オマケの喜国本に何が書かれているのか?です。
私が想像するに、きっと書き下ろしパロディ漫画が入っているに違いありません。

例えば、

−伝説の菓子職人・中村青磁が次々と生み出した創作羊羹。
斬新な形で羊羹の常識を破った「十角羹」、清涼感溢れる透明な「水車羹」
人形をかたどった「人形羹」、サンリオとタイアップした「黒猫羹」
科学的に不可能といわれた「青色大王羹」を開発した直後、夭逝した青磁。
その彼が残したといわれる幻のレシピ、究極の黒を実現した「暗黒羹」を求めて
江南は、熊本の山奥の湖に聳える館にたどり着く。

「私は美崎」
「私は美陽」
「私たちは蟹なの」
「私たちは蟹シュウマイなの」
「それもいうなら蟹姉妹なの」
「おほほほほ」
「おほほほほほほ」

鶯色で統一された鶯の間、
転がる大納言、
その隠し扉を抜けた空間は、
ただ一面の肉が蠢いていた、
視肉か?
いや、そうではない、
餡だ、餡なのだ。
小豆餡、鶯餡、白餡、胡麻餡、肉餡
この世に存在するありとあらゆる餡が蠢いている
赤い餡、緑の餡、白の餡、黒い餡、肉色の餡

声が響く。
「トラヤの祝福を!」
声が唱和する。
「トラヤの祝福を!」
声が促す。
「さあ、君、トラヤの<肉>を食したまえ!!」
おそるおそる口に含むや、餡はそれ自身が意思を
持つものであるかのように、私の喉奥を目差す。
誰か、助け……

……悪夢から醒めた私の眼前に鹿谷がいた。
「随分、唸されていたぞ。一体、何をそんなに恐れてたんだ?」
「…餡が」
「餡だって?餡が怖いっていうのか?」

ほうと溜め息をついて、私は答えた。

「…今度は、熱いお茶が怖い」

『餡子喰う館の殺人』おしまい。

…いや、まさか、挿絵と対談だけなんてことはないにちがいない…

…いえ、そういうことはあるのです…

餡主でした。
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24. 2004年10月21日 17時44分21秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
えー、開設からまだ2週間なのですが、思い立って名称を変更しました。

既に黒猫荘さんには46号室に「密室」というお部屋もございますし、
「秘密室ボン」の流れから清涼院ファンの部屋と勘違いされる方もいらっしゃるようですので、
「秘・密・室」改め「The tell-tale hut」に致します。

(と申しましても別にエドガー・アラン・ポーのファンサイトでもなんでもないところが、
いやはやなんともですが…)

「ミステリ本についてお話する寓居」ぐらいのイメージで、受け止めていただると幸いです。
要は「庵・本譚」ですね。はい。
[202.228.229.76][Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.0.3705; .NET CLR 1.1.4322)]

23. 2004年10月21日 06時40分41秒  投稿:庵本譚 
庵主です。

森下様

貴重なお時間を割いていただいた第二期のアイデア出し、
ありがとうございました。
思考の流れも含めて楽しませて頂きました。
さすがに幅広い目配りですねえ。勉強になります。
(「クリスピンのジャーヴィス・フェンはどうだ?
くそう、まだ2作ある」とか、私もやりました)
「THE SEALS」は個人的に最も読みたい未訳作の一つなので、
熱くなってしまいました(ディキンスンは日本語でも
眠たいというか難解なので原語でチャレンジする気にはなれないのです)
プレイボーイスパイの第4作は凄く気になります。
通し番号に弱い庵主でした。

本日は台風23号の影に怯えて、帰宅時間したのが18時半。
時間に余裕ができたので、家人と積録洋画を一本消化しました。
ものは知る人ぞ知る「ゴスフォード・パーク」。
1932年、英国の貴族の館を舞台にした人間往来を
「見えない人」である使用人たちの日常を中心に描いた佳作。
時代背景はまさにミステリの黄金期、ハリウッドスターや
チャーリー・チャン映画のプロデューサーも絡まって、
貴族とその富に群がる係累たちの身勝手さ、
生まれながらにして下僕たることを運命づけられた人々の
諦観と反骨が活写されます。一応、館の主が殺害され、
メグレもどきの警部が押っ取り刀で捜査を行うのですが、
謎の解決は二の次で、ドラマの中心はあくまでも人間模様。
表舞台では解決編のない状態でエンディングを迎えます。
それでありながら、脇役たちの世界では、大団円を迎えている
という仕掛けがなんとも素晴らしい。
まだご覧になっていない方には、黄金期ミステリに対する
一種の反テーゼとしても楽しめる作品として、強くご推薦いたします。

読み終わったのは海渡英祐の「トラブル・ハネムーン」双葉ノベルス版。
ヒッチコック映画の(題名の)パロディで綴る「二人で探偵を」。
高等遊民系の主人公と法律家の娘であるそのパートナーが
トラブル・コンサルタントを開業し、休業に至るまでの顛末記。
収録作はそれぞれにツイストの効いた作品ですが、続けて読むと、
(主人公の慨嘆ではないですが)探偵がいるという事が事件を呼ぶという
パターンが見えてきて、少々辛いものがあります。
また、無理矢理のユーモアもすべっており、同じ作者の
吉田警部補ものには及ばないなあ、と改めて感じました。
[211.14.59.149][Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.5; Windows 95)]

22. 2004年10月20日 21時29分50秒  投稿:森下祐行 

>ピブル警視は第3作の「THE SEALS」も未訳の筈なので、

完全に見落としです。ああ、情けない。
ジプシー・ローズ・リーは、苦しまぎれでした。
やはり、しばりは三作以上あるシリーズで、未訳があと一作という
ことでしょうね。

うーん、こーなったら、なんとしてもあと二シリーズ探さなくては!

ハイスミスのリプリー・シリーズはこの前、最後の一編がでたし、
ウェストレイクやローレンス・ブロックなど、新作がでそうなシリーズ
ははずさないと駄目だろう。

ハニー・ウェストは……
あと二作、未訳がある。

ニコラス・ブレイクのストレンジウェイズ・シリーズは……
駄目だ、これもあと二作残っている。

エイプリル・ダンサーは……
ああ、あと三作もあるじゃないの。

ジョン・ガードナーの新ジェームズ・ボンドは……
なんと、まだこんなに書かれていたのか! どうした文春!

ハワード・ブラウン(ジョン・エヴァンス)のポール・パイン・シリーズも
いまじゃ、『悪魔の栄光』と『紙の拳銃』の二作あるし、ケメルマンのラビ・
シリーズも「対話」以降もけっこう書かれたんだなあ、と今さら気がつくしまつ。

ナンシー・ピカードのジェニー・ケインは1995年以降、書かれていないから
未訳の一作 No Body (1986)でもいいかもしれないけど、もう少し大物ということ
で、以下の二シリーズに差し替えたいと思います。


第4回配本:『プレイボーイ・スパイ4』ハドリー・チェイス
  マーク・ガーランド・シリーズ (The Whiff of Money)
第5回配本:『黄色い影の謎』ロス・トーマス
  マコークル&パディロ・シリーズ (Cast a Yellow Shadow)


これで、勘弁してください。
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21. 2004年10月20日 06時44分00秒  投稿:庵本譚 
ウィリアム・モールの「皮膚の罠」は第三期の目玉でどうよ?
と昨日のネタを引き摺っている庵主です。
家に帰ったら、さりげなくネット古書店でのお買い物が
届いていました。エースブック版のナポレオン・ソロが9冊。
猛烈に欲しかったのは未訳の第17巻
「The Hollow Crown Affair」だったのですが、
それ以外の8冊も原書では未所持なので、カバー写真を
眺めているだけで楽しくなってきます。うふふ。うふふふふふ。

なかなか17巻単独では市場に出てこないので、まとめ買いして
しまいました。9冊で都合4千円也のお買い物。
私としては節目の本なので、これぐらいは涼しく感じます。

で、第17巻は、こんなお話。
かつて新兵器「粒子加速ライフル」の実験中に事故により
この世から消し飛んだと思われていたアンクルの研究所長
ジョゼフ・キングが、実はスラッシュに寝返り、
組織内部での地歩を築き上げていた事が判明します。
その情報を持ち込んだのは、スラッシュのサンフランシスコ支部長
ウォード・ボールドウィン。白昼堂々、デル・フロリア服飾店の
正面玄関からウェバリー局長の面会を求めるという開き直りっぷりが
プリティーです。
「あの掟破りの若造をなんとかしてくれんか?」
かくしてソロとクリアキンは、スラッシュの内紛の
真っ只中に飛び込んでいくのでありました。
敵の敵は味方?それとも、やっぱり敵?

スラッシュとアンクルが手を結ぶというのは、小説版の
最高傑作「人類抹殺計画」に通じるものがありそうです。
さすがマクダニエル、ツボを心得てるというべきでしょう。

昨日読み終わったのは海渡英祐「事件は場所を選ばない」。
光風社ノベルズ版ではなくて徳間文庫版です。
ノベルス版で各編に添えられた作者口上は、文庫では部分的に
解説で紹介されている程度なので、オリジナルにこだわる人は
ノベルス版で持っているにこしたことはないでしょう。
テレビ業界にガチガチで血まみれの不可能犯罪を持ち込んだ
「殺人もあるでよ」(うわあ、この題名のセンスがなんとも)が
本格愛好家の秘孔を突いてきます。同じく、超能力ブーム(!)
を背景にオカルト+不可能犯罪に挑戦した「悪霊の家」も
「何故」と「どうやって」のコンビネーションが絶妙です。
後は、星新一作品を思わせる「不可解な心中」、こってりとした
夫と妻に捧げる犯罪「甘い罠」「禁断の時」「夏の終わり」、
推理コント風の「くさい仲」といったラインナップ。
読者サービス(?)の男女の性愛シーンが、時代を感じさせますが、
いずれも騙しやツイストにこだわったプロの仕事というべきで
ありましょう。それなりに楽しめました。
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20. 2004年10月19日 23時40分48秒  投稿:庵本譚 
庵主です
森下様、いらっしゃいませ。
御高名はかねがね。

でもって、さすがに濃いところを突いてこられますねえ。
第二期「LAST ONE 叢書」

ルレタビーユとルコックは完全に不意打ちでありました。
そうかあ、ルレタビーユって結構翻訳されていたんですね。
「第5、第6のルレタビーユは倒された。だが、第7のルレタビーユが
きっと現われるに違いない」てなもんですか。
チャーリー・チャンは成る程。思わず大納得。
ジプシー・ローズ・リーの著作が2作しかなくて1作だけ翻訳されている、
というパターンは他にも結構あるのかもしれません。
デレク・スミスの「パディントン・フェアにようこそ」
なんかも候補にしたのですが、とりあえず第一期ではパスしました。
マイク・ハマーもアルレーも苦手ゾーンで、勉強になりました。

一箇所だけ突っ込ませて頂ければ、ピブル警視は第3作の「THE SEALS」も
未訳の筈なので、ディキンスンであれば「キングとジョーカー」続編の
「Skeleton-in-Waiting 」の方が嵌まると思います。

それとも、もしや森下様のアンテナには「THE SEALS」翻訳の
報が届いているのでしょうか?

だとすれば「これは凄いことですよ、これは」であります。

今後ともよろしくお願いいたします。
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19. 2004年10月19日 22時33分47秒  投稿:森下祐行 
はじめまして。52号室の森下です。
連日のディープなネタの書き込み、
楽しませていただいております。
フレドリック・ブラウンのエド&アム・ハンター・シリーズに
未役が一編あるとは、ご指摘まで気がつきませんでした。

そこで、わたしもこんなものも考えてみました。


〈LAST ONE 叢書〉第二期

第1回配本:『パリの奴隷』エミール・ガボルオ
  ルコック・シリーズ
第2回配本:『ルレタビーユとボヘミアン』ガストン・ルルー
  ルレタビーユ・シリーズ
第3回配本:『鍵をわたすな』アール・デア・ビガーズ
  チャーリイ・チャン・シリーズ
第4回配本:『ママ、死体をみつける』ジプシー・ローズ・リー
  ジプシー・ローズ・リー・シリーズ
第5回配本:『墓場に一歩』ピーター・ディキンスン
  ピブル警視シリーズ
第6回配本:『黒い路地』ミッキー・スピレイン
  マイク・ハマー・シリーズ

いかがでしょう?

シリースじゃないですが、カトリーヌ・アルレーの長篇もラスト・ワン
だったんですね。
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18. 2004年10月19日 06時08分20秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
「論創海外ミステリ」でググってみると新刊ドットコムで
こんなのがひっかかりました。
『トフ氏と黒衣の女〜論創海外ミステリ1』
   ジョン・クリーシー 著/田中孜 訳 四六判上製・307頁
『片目の追跡者〜論創海外ミステリ2』
   モリス・ハーシュマン 著/三浦亜紀 訳 四六判上製・198頁
『二人で泥棒を─ラッフルズとバニー〜論創海外ミステリ3』
  E.W.ホーナング 著/藤松忠夫 訳 四六判上製・254頁
この3冊が10月下旬出版になっています。
ありゃりゃ、テイやクロフツまでは、まだ遠いのでしょうか?

クロフツの『フレンチ警部と漂う死体』が出ると聞いて
昔から温めていた仮想企画をやってみる気になりました。
名付けて<LAST ONE 叢書>!

海外ミステリに様々な人気シリーズ作品がある中、
何故かそれだけ紹介されそこなっている「幻の1冊」たち。
翻訳権の狭間に落ちたのか?
出版社の事情なのか?
はたまた翻訳を認めたくない失敗作なのか?
その「最後の一冊」の真価をどうぞ貴方御自身の目で
ご確認ください!!

刊行ラインナップ
第1回配本:『悪鬼の挨拶』フレドリック・ブラウン
エド&アム・ハンター・シリーズ
第2回配本:『ナポレオン・ソロ/ゆがんだ宝冠』デヴィッド・マクダニエル
ナポレオン・ソロ・シリーズ
第3回配本:『コンピュータ検察局 対 フランケンシュタイン』エドワード・D・ホック
コンピュータ検察局シリーズ
第4回配本:『フレンチ警部と爬虫類館の死』F.W.クロフツ
フレンチ警部シリーズ
第5回配本:『燃える遺産』トマス・チャスティン
新ペリー・メイスンシリーズ
第6回配本:『刑事コロンボ/愛情の計算』W.リンク&R.レビンソン
刑事コロンボ(NBC)シリーズ
別巻1:『青い鳥の秘密』エラリー・クイーンJr.
ジューナ・シリーズ
別巻2:『美神星の海』アイザック・アシモフ
ラッキー・スター・シリーズ

フレンチ警部には、まだ『フレンチ警部と少年探偵ロビン』があるので
真の意味での<LAST ONE >ではないですし、刑事コロンボは
脚本からの起こしで「翻訳」じゃないですが、難しいことはいいっこなし。
いかがなものでしょう?

ちなみにカーの『魔王の末裔(パパ・ラバ)』は、シリーズとは
言えないのでパスしてみました。

昨日の読了本は一昨日に引き続き佐野洋の著作で「第六実験室」。
角川文庫版ですが、解説が痒い所に手の届く出来映えで、
多少「翔べ、必殺褒め殺し」気味ではありますが、作品の背景を
同人誌時代にまで溯って分析した名解説。本編よりも重厚です。
中身の方は、社会派の設定を嘲笑うかのような軽快な犯罪小説。
大企業が、完全犯罪研究を目的とした組織を立ち挙げる。
十戒の第6番目「汝、殺す勿れ」に因み「第六実験室」と
銘打たれた研究所は、被験者の募集から活動を開始する。
試される性格、覗かれる性癖、そして選ばれた者たちに与えられた課題とは?
翻訳物のエスプリを感じさせる実験作品。思わせぶりの伏線で
オチは見え見えなのですが、楽しく読めました。
仮に舞台がニューヨークであっても成り立ちうる、というか、
むしろその方が設定が引き立ったかもしれません。
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17. 2004年10月18日 06時34分12秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
たまたま書棚から手に取った鮎川哲也の「宛先不明」が
学研「ミステリー9」のN0.9だったものですから、
「そういえば、この叢書のラインナップはどうなっているのだろうか」
と目録ページをチェックしてみました。
すると、No.8に樹下太郎の名前があり近刊予定になっているでは
ありませんか。これまで、小島直記・陳舜臣・飛鳥高・三好徹・
邦光史郎・笹沢左保あたりは現物を見たことがあったのですが、
樹下太郎はみたことがありません。
果して刊行されたのでしょうか?
ネットで探しても樹下太郎の学研からの出版物は見当たらないし、
予告倒れで終わったのでしょうか?
またしてもミステリーが増えてしまいました。

昨日読み終えた本は佐野洋「遠い声」。
東都ミステリではなくて徳間文庫版。
主人公は、御用組合からの脱却を図るべく会社との対立
姿勢を打ち出してきた遣り手の労組副書記長・中井。
その彼が、あろうことか、自分の知らない間に
創業者の孫娘(只今失踪中)と戸籍上で結婚させられていた、
というシチュエーションコメディーのような幕開け。
そこへもってきて、組合専従の未亡人事務員が副書記長を
不実な男として告発する遺書を残して、薬物自殺するに至って、
トラブルは加速するばかり。
そして中井の前に現われる創業者の孫娘を名乗る女性。
果して彼女の正体は?そして中井に降り掛かった「女難」の
演出者とは?
シリアスでいくのか、ユーモアでいくのか定まらないうちに
あっさり終わってしまう軽さが「魅力」です。
只管長さに走る昨今の旧・新本格系の皆さんの本も
悪くはないのですが、この分量(文庫で180頁)でも
ミステリは書けるということに、今更ながら新鮮さを
覚えてしまいました。
重厚長大だと「時間泥棒」の罪は重いですが、
こちらだと「軽犯罪法」違犯程度でしょうかしらん。
(褒めてない、褒めてない)
また、自著文庫解説で、出版当時の辛い評を紹介する作者の
姿勢は称賛に値すると思いました。
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16. 2004年10月17日 07時10分58秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
昨日のこと、積録ビデオを整理していたら、
心理探偵フィッツの第8話(「孤独な男」の第1話)を取り損ねていた
ことに気がつきました。
ビデオを初めて購入した頃(あれは、そう20年以上前のこと:遠い目)
であれば、まるで世界が終わったように感じた事でありましょう。
しかし、最近ではCSも普及して、DVDでも「へえ、こんなものまで」と
呆れるくらいに沢山のタイトルが適価で販売されてます。
撮りそこねたフィッツの第8話も、レンタルで見る事ができるでしょうし、
好事家の友人の誰かはもっていそうです。
従って、メジャーな人気シリーズについては、「俺が残さねば、誰が残す?」
という憑き物は落ちてしまっています。
とはいえ、収集の鉄則である「マイナーな方を残す」ということを
突っ張ってみても、そちらはそちらで、
「クリスマス・キス〜イヴにあいましょう」だの
「FBI特別捜査官マンクーゾ」だの
「レイモンド・バーの法廷への招待」だの
「デニス夫妻の華麗な事件簿」だの
絶対見ている暇なんかないんだろうなあ、と思うと、積録ビデオを前にして、
身体の中を秋風が通りすぎていくのでありました。

読了した本はボール・アルテの「赤い霧」(ハヤカワポケットミステリ)
冒険小説大賞受賞作という鳴り物入りで、満を持しての登場です。
時代はヴィクトリア朝。ところはイギリスの片田舎。
新聞記者を騙り10年前の不可能犯罪を調査する謎の青年。
衆人環視の開かれた窓とカーテンに挟まれた空間から消え失せた犯人。
次々と関係者を襲う新たな死。そして新たな不可能。
恋の罠が仕掛ける心の迷宮に立ち込める赤い霧。
被害者である女達が最期に見たものは果して?
といったお話で、とにかく「これでもかっ!」という程、人が死にます。
部屋からの消失トリックはまずますですが、袋小路からの消失は肩透し。
二重三重のフーダニットについても、綾辻作品を読みつけた人間に
とっては想像を超えるようなサプライズに乏しく、
「賞取り作品というだけで、この作品から日本に紹介されなくてよかった」
というのが本音であります。
かろうじて、某有名私立探偵のカメオ出演については、某ラット・キングな
作家の類書よりも好感が持てるといったところでしょうか。
これは、年間ベストでの高得点は期待できないかも。
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15. 2004年10月16日 05時41分48秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
ポケミス新刊のアルテと007が出ていました。
アルテは今年も年間ベスト投票のシーズンには間に合ったようです。
年間複数冊出版して票が分かれるよりは、一作を丁寧に売る、
という方針でもあるのでしょうか?
ファンとしては、もっと(せめて年に2冊は)出して欲しいものです。
梗概を眺めると、今回の「赤い霧」(山口百恵ドラマみたいな題名
だな)は、どうやら番外編のようです。

「ツイスト抜きでツイストを」

で、その2冊の挟み込みやら帯を見て

「リーバスよ、おまえもか」

なんと、リーバス警部の最新作「血に問えば」はポケミスではなく
ハヤカワ・ノヴェルズで出版されるのだそうです。
スペンサー、競馬シリーズ等に続くポケミスからのスピンアウト。
今やダルジールや87分署に並ぶポケミスの看板シリーズになったと
思っていたら、そうきましたか。
確かに、ランキンの本はポケットにねじ込むと、型崩れどころか
ひっちゃぶけかねない分厚さではありましたが、、
初期作は文庫オリジナルで出るとかいう話をどこかで見掛けましたし、
ポケミス愛好家からすると一抹の寂しさを覚えます。
が、ここはハードカバーへの成り上がりを祝すとともに
末永き繁栄を祈念して

「転籍苔むさず」

と唱えておきましょう。

本日読んだのは鳴山草平「柔道社員」(春陽文庫版)
昨日200円で買った本です。一応、昭和39年の初版。
いかにも昭和30年代を思わせるサラリーマン柔道家の
恋と鬱屈と冒険の日々を描いた純情明朗小説。
掴みはなかなか読ませるのですが、中盤以降は
行き当たりバッタリのプロットに翻弄され、
「伏線などない!」と開き直るかのような唐突な
「ハッピーエンド」にはただ呆れるばかり。
ヒロインの方程式から逸脱したサプライズエンディング
でありました。
恐らくは連載小説だったのでしょうが、章の終わりで引くだけ引いて
おいて、次章は何事もなかったかのような日常が始まったのには、思わず

「落丁か?だから200円だったのか?」

と焦りました。
読み飛ばされ、消費された「娯楽小説の時代」の香気を漂わせた、
ちゃらんぽらんなイッピンです。とほほ。
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14. 2004年10月15日 05時09分30秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
某古書店のプレミヤ文庫棚に鳴山草平の「柔道社員」が並んでいました。
おお、ついに鳴山草平の春陽文庫がプレミヤ化する時代がきたのかっ!
時代は明朗なのではないかっ!
と思い、手にとって値段を確認したところ、
200円でした。
元値の定価が90円なので、そりゃあプレミヤ価格には
違いないですけど。

「滅入ろう」と「明朗」、同音逆義語。

読み終えた本は、ディーヴァーの最新刊「魔術師」。
御存知リンカーン・ライム・シリーズ第五作。
「逆転に次ぐ、逆転」のインフレーションを支えきった
ハイカロリーのノンストップ・ジェットコースター・ノヴェル。
劇場型犯罪者を敵役に配することで、逆転に淫するディーヴァーが
陥りやすい<「なんて、面倒な事を!」の罠>を回避した作品、てな
御託はツボを押えた法月解説に任せて、素人は

「ああ、面白かったあ!」

とだけ申し上げておきましょう。

原題は THE VANISHED MAN。
シリーズ第3作までは翻訳を放棄した邦題だったものが、
第4作は堂々の直訳。そして遂に第5作では、超訳に!
「消えた男」だとチェスブロのモンゴ・シリーズ第1作
Shadow of a Broken Man とかぶると思ったのでしょうか?
「魔術師」と書いてわざわざ「イリュージョニスト」とルビを
振ってあります。
ところがどっこい、作中でライムたちが容疑者に与えた通り名
「魔術師」の原語は、Conjurer(手品師)だったりします。
マジシャンでもない、イリュージョニストというルビは
「デヴィッド・カッパーフィールド+ハンニバル・レクターを
目指した」とする作者の言葉を受けた超訳なのでありましょう。
(どうでもいいことですが、マジシャンというと、どうしても
ビル・ビクスビーが主演したテレビシリーズの景気のいいテーマ曲
のブラスが頭の中に鳴り響いてしまう庵主でした。)

ところでアメリアの昇進を巡るサブプロットで、
自分がNYPDの仕組み誤解していた事が判りました。
そうか、そうだったのか。
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   181〜200件(保存数204件) 

[NAGAYA v3.13/N90201]