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4810. 2014年01月30日 00時31分21秒 投稿:かわぐち |
『定本 久生十蘭全集』第1巻(国書刊行会)読了。本年の読書計画の柱のひとつ。 香山滋全集、日影丈吉全集と読んできたので読み終えられる自信はあるのだが、寄る年波で重い本がどんどん苦痛になっていく。 「ノンシャラン道中記」から見事な文体に陶酔。これがデビュー作ってどういうこと? さらに「黒い手帖」「湖畔」「魔都」と続くあたりは文学の奇跡ともいえる。 特に「湖畔」はマイ・フェイバリッツのひとつだが、この文体は私の理想そのもの(もちろんこんな文章、逆立ちしたって書けないけど)。 でもやはりこれまで収録されていなかった作品はそれなりのものだね。未収録にはわけがあるということですか(『日影丈吉全集』第8巻ほどではないが)。 個人全集を新旧2度にわたって読むのは三島由紀夫に続いて2人目。まあそんなに個人全集が何度も出る作家はそうはいないであろうけど。 |
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4809. 2014年01月25日 22時00分04秒 投稿:かわぐち |
『中子真治SF映画評集成』(洋泉社)読了。副題「ハリウッド80's SFX映画最前線」が内容を全て語っている。 さて、誤解のないように前置きしておきたいのだが、私は氏の業績は高く評価している。特に『フィルム・ファンタスティック』(全7巻)は、いまだにこれを超えるSF映画のリファレンスブックは日本には存在していない(と思う)。いや海外にだってそうはない気がするし、当たり前だが、たとえあっても日本公開題は記されていない。 当時の私は年間250本以上の映画を見ており、この本で取り上げられる映画も8割以上は見ているはずだ。しかし、その私でも本書を読んで、この本の出版意義を考えたとき、疑義を呈さずにいられなかった。 確かに当時のSFXスタッフの経歴等を知る上では資料になるだろう。だが、「SF・ホラー映画80年代専攻」という人でもない限り、本書の内容は古く、そして今これを知ることが必要なのだろうかと思わずにいられない。当然、その後、30年間の情報はアップデートされていない。通史でもなく、その時点を切り取ったものなのだ。 中子真治の足跡をとどめるという点では意味はあろう。しかし、商業出版物としてはこれを読んで感想を抱ける層(もっと言ってしまえば読み終えれる層)が果たしてどれだけいるのだろうか。 厳しい言い方になってしまったのは、自分でも残念だが、40代以上の相当のSF映画ファン以外にはお薦めしかねるのが正直な感想。 ひとつ付言しておくと、本書の文章は大体86年くらい前まで。キャメロンが『エイリアン2』を撮り終え、『ターミネーター2』撮影以前ということだ。 ここでSF映画にはとてつもなく大きな変化が挟まれている。そうCGの登場だ。 まさに「以前」と「以後」に分かれるエポックメイキング。 氏の文筆活動がこの時点でほぼ終わったことは関係があるのかどうかは私は知らない。 大橋博之『少年少女SF美術館』(平凡社)読了。といっても主体は本の表紙絵であるから、それほど時間も苦もなく読めてしまう。 もちろん、私の生まれる以前の本も多く、その全てを知るはずもないのだが、やはり当時の本は魅力的。 昭和50年代以降の本は、こちらが読んでいなかったため(もうジュブナイル卒業していた)、感慨がわかないな。 ご存知の通り、児童書は古書価が特に高く、美本も少ないので、「ようし自分も」とはなれないが、それだけにせめて本書でその世界に浸りたい。 |
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4808. 2014年01月14日 23時04分39秒 投稿:かわぐち |
木下直之『戦争という見世物』(ミネルヴァ書房)読了。 舞台は明治27年12月9日東京。日清戦争の連戦連勝に沸く東京では上野公園で祝捷大会が。著者はなんとタイムトラベルして、当時の様子を見聞することに。 著者が再現する明治東京、これが実に面白い。当時の書物はもとより、新聞記事(これがその場でスリに出くわすエピソードに)なども巧みに使いながら、あたかも読者までもその場に居合わせたような気にさせてしまう筆は名人芸! しかも、さらに感心したことは、主題をタテ線とするならば、直接は関連のない、いわば脱線のようなヨコ線、これの張り方が実に見事。 さりげない参照文献への言及、未来を知っている著者ならではのその後の展開からトリヴィアまで、私は種村季弘並みの名文だと思う。 たとえば、著者は入った施設の入場料を細かに記述しているのだが、これはそれがどのくらいの階層の人が楽しむものだったかが如実にわかる情報だと思うのだ。 もちろん戦争当時のことであるから、イヤな気分にならざるをえない話もある。 近代民主主義を生きてきている我々には眉をひそめるような光景もある。しかし、それを当時の常識として受け止めることもまた必要なのだ。 このほかにヤン・コハノフスキ『挽歌』、アダム・ミツキェーヴィチ『ソネット集』を読了。いずれも未知舎で刊行が始まった「ポーランド古典叢書」。まあはっきりいって、私にわかるようなものでもないのだが、とりあえず読んでいきたい。 古典は読んだときは面白くなくても、結局はあとでいろいろ「助かる」ことは、長さだけは生きてきて学んだことだ。 |
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4807. 2014年01月08日 21時23分29秒 投稿:かわぐち |
夢野久作『ドグラマグラ』読了。5度目の通読。前回もそうだったが、何気なく手にしたところ止められなくなり。 日本人なら読んでいて当然、と思っているので、紹介するまでもないが、今回は著者になったつもりでどのように筋を運ぶか、どうしたらこんな構想が立てられるのかを意識してみた。 しかし、やはり凡夫の私には想像できるはずもなく、気の利いたことを言えるはずもない。より深くこの異形一大絵巻を探ろうと思うのであれば、『伝奇の匣5 夢野久作 ドグラマグラ幻戯』(学研M文庫)を読まねばならない。 とにかくこのまったく類のない小説を書き上げた著者は「異常」だ。 あえて比肩させるならラブレー『ガルガンチュアとパンタグリュエル』、ドフォントネー『カシオペアのΨ』、マチューリン『放浪者メルモス』、そして沼正三『家畜人ヤプー』くらいか。 翻訳してパリ国立図書館の書庫に潜ませておけば、未来のレーモン・クノーが「大発見」してくれるかもしれない。 これまで角川文庫、創元推理文庫「日本探偵小説全集」、ちくま文庫「全集」、ポケミスと違う版で読んできたが、今回は青空文庫(定本はちくま版)。存命のうちにもう一度読めるか。 奇しくも本日、『ドグラマグラ』原稿が発見された報が。この成果を入れた版で読みたい。 グレゴリー・クレイズ『ユートピアの歴史』(東洋書林)読了。 ユートピアの思想について幅広く材を求めた本。本書の特徴は、なんといっても200点を超す美麗図版であろう。 古典文学に表されたユートピアについては、私は類書とそれほど違いが見出せず、「またか」の気持ちがあった。しかし、第8章以降、都市計画、産業組織、共産主義、カルトといったユートピアの現出を扱った部分は、これまでの「文学史」研究ではない面が説かれ、新たな視点を加えることができた。 アレゴリーだが、現実にユートピアを造ろうとするならば、そこは厳格な規律の厳守と排他性が不可欠ということ。思いのまま自由に生きていては、ユートピアは崩壊してしまうという、なんという矛盾! 文学・思想としてのユートピアは、ジャン・セルヴェ『ユートピアの歴史』(筑摩叢書)、川端香男里『ユートピアの幻想』(講談社学術文庫)が必読の基本書。岩波書店「ユートピア旅行記叢書」(全15巻)も一次文献の宝庫。 2000-01年にパリ・NYで開かれたユートピア展Utopia: The Search for the Ideal Society in the Western Worldもすばらしい図録が出ている。 |
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4806. 2013年12月26日 23時33分03秒 投稿:かわぐち |
R・ウィトカウアー『アレゴリーとシンボル』(平凡社)読了。再読。ヴァールブルク・コレクションの一冊。 20年ほど前に読んだときとの違いはエル・グレコやデ・フォスについて述べられた後半の美術論が多少なりともわかるようになったことか。 それでも本書の「東方の驚異‐怪物誌に関する一研究」は怪物の記述の歴史を知る上で実によいレジュメであることを再認識。この部分だけでも読んでおきたい。 帰りに本屋で風間賢二『怪奇幻想ミステリーはお好き』を購入。来春からNHKラジオで放送のテキストだ。 これまで風間氏といえば幻想文学の第一人者のイメージだが、今回はミステリについてだという。 氏らしくゴシック小説から語りは始まるが、ホームズとルパン、押川春浪、谷崎、そして乱歩、正史とごくごく「まっとう」に幻想ミステリの歴史が語られるようだ。 もちろんラジオというメディア上、マニアには多少は…かもしれないが、テキストをぱらぱら見た限りでは、ところどころに「こんなものまで取り上げますか、風間先生」と言いたくなるところも。 |
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4805. 2013年12月24日 21時46分16秒 投稿:かわぐち |
『百一夜物語』(河出書房新社)読了。 『千一夜物語』同様、シャハラザードが王に物語を聞かせる、という骨子を持ちながら、語られる話は一部重なってはいるものの別物という、「もうひとつのアラビアンナイト」だ。 『千一夜』が東方アラブで流通していたのに対し、『百一夜』は北西アフリカで伝承。こうした貴重な文献がアラビア語から訳されたというのは嬉しい。 しかし、正直な感想をいえば、面白さという面では『千一夜』に劣ると思わざるを得ない。 本書を読んでわかったのは、『千一夜』の入れ子状構造(Aの物語中でA'の物語が語られ、さらにそのA'中でA''の物語、さらにB''が始まり…)が構成の奥行きをつくっているということ。 さらに、一つの話が終わると、『千一夜』では「しかしこの話(前話)も、○○に起こった話ほど不思議なものではありません」「それはどういう話なのだ?」という具合に〈引っ張り〉が上手い。このあたりが『千一夜』が長年にわたって編成され語り継がれてきた〈進化〉なのであろう。 さしずめ『水滸伝』の次回へのつなぎ方−−「武松がこの人に出会ったために、やがて陽穀県に屍、血に染まって横たわり、はては鋼刀の響くところ人の首はころがり落ち、宝剣のふるうところ熱い血は流るるという次第になるのであるが、いったい武都頭をよびとめたは、いかなる人であったか。それは次回で。」を想起させる。 こういうのが語り物の上手さだなと。 |
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4804. 2013年12月21日 18時59分27秒 投稿:かわぐち |
『ボルヘスと推理小説』(エディション・プヒプヒ、自費出版)読了。 ボルヘスによるミステリ書評を中心に編まれた本。「新刊」として、イネス、カー、クィーンなど黄金期(1930年代後半)が語られる。その他、カイヨワとの論争、対談、詩とミステリと充実の内容。造本も良いセンス。 惜しむらくは訳文が硬すぎて、ちょっと読書の気負いを削がれる箇所も。しかし、商業出版の物差しで自費出版物を計るのは酷というものだろう(これよりひどい訳文が商業物の中にいくらでも見つかる)。私は発行者に感謝と敬意を表したい。 なお、ネットで調べても、今現在でも入手可能かどうかはわからなかった。私は先日、古書ドリスにて購入。 |
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4803. 2013年12月21日 00時07分42秒 投稿:かわぐち |
ピエール・マッコルラン『アリスの人生学校』(学研)読了。緑色のインクも美しい本。 アリスが友人から借りたヴォルテール『カンディード』(禁書)、それがこんな事態に発展していこうとは…。 翻訳題名からてっきり性の好奇心、偽善への風刺等を描く艶笑・好色小説だと思っていた。しかし、話はかなり笑えぬ被虐小説。児童虐待(アリスは18歳ですが)とさほど変わらない。 本書は「奇談クラブ増刊号」1953年に掲載されたもの。名はよく知られており、澁澤龍彦も『読書の快楽』中「ポルノグラフィー ベスト50」に入れている。そこで澁澤は「まあ上品なマゾヒズム小説というべきかもしれない」と書いているが、虐待を受けるアリスはなんら快感を覚えているようにはみえず、むしろ彼女を虐げる側のサディズムの悦びであろう。 これまで何度も書いてきたが、私はポルノ小説の面白さは、我々が縛られている道徳・通念への疑義だと思っているので、そういう意味では本書は期待に適うものではなかった。しかし、かといって私は本書を夢中になって読んでしまったのだ。 もののついでに言っておくと、私に価値転換を引き起こさせた傑作小説として、サド『悪徳の栄え』とならんで挙げたい本がある。それは池田得太郎『家畜小屋』だ。この人が自ら豚として生きる(比喩ではない)ことを選び取る小説は私の心に今でも楔となって打ち込まれている。 |
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4802. 2013年12月19日 21時57分22秒 投稿:かわぐち |
よしさださま おおっ、『オリンピア・プレス物語』が貸し出し中とは、別に私には何の損得もないのに嬉しく思います。 実はいまだから言っちゃうと、以前、『ファントマ』が新宿区図書館にあるけど貸し出し中とおっしゃっていましたが、その時、あれを借りて読んでいたのが、何を隠そう私です。 いい本なので、その後、すぐに購入しましたが。 『哲学の歴史』別巻(中央公論新社)読了。総索引・年表以外にも、エッセイ、本巻の補遺に当たるコラム19編、監修・執筆者を中心とした書物アンケートとバラエティ豊か。 ただし、先のエッセイには個人的には面白くもなんともないものもあったし、補遺は良かったが、よく考えたら「どうして本巻のほうにこれを入れなかった?」と感じもした。 体系的な素晴らしい哲学史だとは思うが、補遺を見て、「ああ、そういえば、なんでこの人入ってなかったんだ?」と思える人(ユング、エリアーデ、シュタイナー、シモーヌ・ヴェイユ等など)が結構いることに気づいた。 とにかく全12巻を読んだ上で、初めて必要になる本だと思う。 正直な感想を言えば、全巻購読のプレゼントにふさわしく、買って読むような本ではない気もします。 |
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4801. 2013年12月17日 12時27分33秒 投稿:よしだ まさし |
ああ、そうだ、そうだ、そうでした。 『オリンピア・プレス物語』は、出た時に「これは面白そうだ」と思って、ちゃんと書名をメモまでしておいて、それっきり読む機会がないまま今日に至っているという本なのでありました。すっかり忘れてました。 さっそく新宿図書館で検索をかけてみると、閉架書庫にしまいこまれている本で、なおかつただいま貸し出し中なのでありました。予約を入れたけれど、まさか貸し出し中とは思わなかった。誰か、かわぐちさんのお勧めを読んで、ひとあし先に借りたわけじゃないだろうな? |
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4800. 2013年12月16日 22時22分42秒 投稿:かわぐち |
『女哲学者テレーズ』(人文書院)読了。1748年初版刊行のポルノグラフィーの古典。サド『美徳の不幸』にも本書への言及あり。 訳者による解説は実に示唆に富んでおり、私自身は大変ためになった。 本書の異版の挿絵の考察は微に入ったもの。そして「リベルタン文学」というジャンル。これは生殖の意味を持たない快楽のためのセックスを悪とみなすキリスト教文化に対して、教会批判・政治批判を含む小説だという。 ポルノ文学史について関心を抱いたわけだが、そういえばリン・ハントの名著とされる『ポルノグラフィの発明』(ありな書房)を未読であったことに気づいた。 私としては「文学史」ではないが、ジョン・ディ・セント・ジョア『オリンピア・プレス物語』(河出書房新社)をポルノ出版史の名著として強く推したい。 その他、艶本研究刊行会編『日本艶本大集成』『世界艶本大集成』の2冊は座右の書ともいえる。 さらにフランス国会図書館で開かれた禁書の展覧会の図録L'Enfer dela Bibliothequeも買っておきたい1冊だ。 |
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4799. 2013年12月12日 23時41分45秒 投稿:かわぐち |
『哲学の歴史』全12巻(中央公論新社)読了。多少遅れはあったものの、平均して月1ペースで完読に持ち込めた。私の今年の読書の4分の1はこのシリーズに使ってしまったなぁ。 なにもドヤ顔したくて報告しているわけではない。大学生以上の人には読んでおいてもらいたいと思えるほどよい叢書だったからだ。私はこれ全冊なら、へたな新書60-70冊分以上の価値はあると思う。 あくまで「西洋哲学の歴史」だが、かなり見通しが良くなったのでは。これまであまり紹介・翻訳されてこなかった思想家も取り上げられているし、刊行年も新しいので、知見も新鮮で、そして参考文献が非常に役に立った。 記述はかなり各人の裁量に任されているようで、通り一辺な通史より筆者により差が出ているところが面白い。こうした本はなかなか出版は難しいだろうが、各社頑張ってほしいな。 もちろん全巻通読するのが一番だが、3中世、4ルネサンス、7ドイツ観念論、9マルクス・ニーチェ・フロイトあたりは単独の単行本として読んでも面白いのでは。 別巻は「年表・総索引」とのことであったが、日本の哲学史、アンケートなど、これも読み応えがありそうなので、来週読んでみるつもり。 |
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4798. 2013年11月30日 23時59分08秒 投稿:かわぐち |
>よしださま ああ、こんな本の紹介まで面白がってくださるのは貴殿のみです。 でも私からみたら、貴殿のほうがよほど面白本読みの天才だと(もっとも貴殿の場合は、本の内容より紹介の文がそれ以上に面白いのかもしれませんが)。 ちなみにこの本の刊行は昭和43年。国枝史郎『神州纐纈城』が刊行されたばかりで、「大ロマンシリーズ」開幕前でした。 野村恒彦『探偵小説の街・神戸』(エレガントライフ)読了。神戸の出版社から出たご当地本。 横溝正史、西田正治、山本禾太郎など、神戸と関係の深い探偵小説作家たち、あるいは神戸を舞台にした探偵小説など、地元の人でなければわからないエピソードを交えて綴られる裏話が楽しい。 もちろんその地元民でない私にはわからないのだが、それでもこうした楽しみ方があるのかと新鮮であった。鷲尾三郎『過去からの狙撃者』が「青春の一冊」なんて感想が持てる人、他にいますか? 不勉強にしてよく知らないのだが、こうした視点は各地で持てるもののはずなんだが、やはり出身作家、舞台にした作品の数がないことにはどうしようもない。 私にしても便宜上、愛知県、名古屋市とすればまだしも、真に故郷が登場する作品となれば、島田荘司『夜は千の鈴を鳴らす』以外は聞いたことがない。ちなみに島田氏がこの地を舞台にしたのは日本でただ1箇所という特徴があったから。子供の頃から見ていたが、それが特別なものとは思ってもいなかった。 |
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4797. 2013年11月08日 12時27分53秒 投稿:よしだ まさし |
うわっ、また面白そうな本を!と思ったら、古い本でしたか。 少なくとも新宿区の図書館にはありませんでした。 ちなみに「ファントマ」はたいそう面白い本でした。 内容の面白さもさることながら、著者はどうやってあれだけの資料にあたれたのか、そこに一番圧倒されました。 |
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4796. 2013年11月07日 22時59分54秒 投稿:かわぐち |
石川雅章『松旭斎天勝』(桃源社)読了。 明治から戦前にかけて絶大な人気を誇った美貌の女奇術師の伝記。 著者は天勝一座の構成・演出を担当した人物であって、文献に頼らない人物像となっているところは頼もしい。文中、なんと松井須磨子、天勝、二人の「サロメ」を観たという記述があり驚いた。明治の話だよ。 師匠天一についての記述も多く、名古屋市博物館「マジックの時間」を見る前に読んでおきたかった。 実はこの本、買ったのは20年くらい前だ(三宿・江口書店)。 本書で知ったのが「魔術の女王」という映画。天勝引退前に記録に残すためにつくられたとあって、その奇術がふんだんに観られるそうだ。なんとかして観たいものだ。 |
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4795. 2013年11月02日 00時15分06秒 投稿:かわぐち |
ルタン・モネスティエ『【図説】世界三面記事全書』(原書房)読了。 前文50頁は実に要領よくまとまっており、同分野に関心があれば、この部分だけでも図書館利用でもよいから読んでおきたい。 特に私にとって新鮮だったのは挿絵について。三面記事は写真メディアが普及したあとでも挿絵がよく用いられたという。なぜか。 それは写真は「後追い」だからだ。犯罪現場、事故の瞬間など、偶然性がなければ映像に収められるものではない。 しかし絵なら、その「瞬間」を視覚化でき刺激を与えられる!というわけだ。 本書では「世界最高の三面記事挿絵画家」というアンジェロ・ディ・マルコの絵、さらに50年代の挿絵を多く収載。 本書のメインは実際の三面記事(たぶん800くらい?)なのだが、それらは2000年前後のもの。したがって、挿絵と本文に関連性はないのだ! この場当たり的なつくりが対象にふさわしいといえば、贔屓の引き倒しか。 そういう意味では先に読んだロミの『三面記事の歴史』のほうがよほど「図説」と呼ぶにはふさわしい。 メインの三面記事の数々は、本当に下世話な好奇心をくすぐる内容で、本当かな?と眉に唾付けながらも無類に面白いことは確か。 ツイッターというのはシロウト発信のこの「三面記事的出来事」にあふれた世界なんじゃないだろうか。 |
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4794. 2013年10月28日 20時49分46秒 投稿:かわぐち |
川井ゆう『わたしは菊人形バンザイ研究者』(新宿書房)読了。 2012年9月に出版された本書を私は迂闊にも最近まで知らなかった。 菊人形の研究書なんて類書はなかなかあるまい。本書により知ったことも多く、私個人としては有益な本であった。例えば、菊人形の菊は、この用途のためにだけ特に改良・栽培された「人形菊」というものが使用されていることなどさえも私は知らなかった。 で、大抵の本はこれで終わりなのだが、本書は「研究書」(著者は否定しているが)としてははなはだ異色。 というのは事実・調査を単に述べるのではなく、いたるところに素顔の著者が姿をみせるからだ。たとえば、カメラが苦手の話が実に具体的に記される。もちろん、菊人形の歴史とは何も関係ない。こうした文章はとっつきやすいが、「低く」みられるのは間違いあるまい。それをあえて辞さず、自分をさらけ出す著者に私は関心を覚えた。 私が類似として思い浮かぶのは、藤森照信の「建築探偵シリーズ」かな。あまりに堅苦しくなく、それでいて資料のマニアックさから、私は「よくできた同人誌」の印象さえ(もちろんこれは誉めているのです)。 でも、こういう文章、真似しようとしても私にはできないな。こうして見ると、「○○年、××があった。これは『△△』の史料に記述がある」の類のほうが、どう・どこまで出してよいやらを考えずに済むだけラクなのかもしれない。 先に読んだ『性欲の研究』内の文によると、著者は「菊人形についての関心が低い以上、私がストリップするしかないと思いました」とインタビューで答えたそうだ。痛快ではないか。 とにかく、これで高浜の「等身大人形」の展覧会が一段と楽しみになった。 |
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4793. 2013年10月26日 14時00分06秒 投稿:かわぐち |
ウラジミール・ソローキン『親衛隊の日』(河出書房新社)読了。 2028年、皇帝を戴くロシアの親衛隊士の周りに起きる奇妙なイマジネーションが綴られる。 スートーリーはないようなものと感じたが、これでも訳者によれば「二〇〇〇年代に入って彼が従来の実験的な作風から物語を軸にした古典的ともいえる作品作りに転換した」そうだが、本書は2006年の作。えっ、これで「物語を軸にした古典的」作品なの?と戸惑いを覚える。 難解なイマジネーションは、「面白い」と思えるよりも困惑に近いが、それでも似た作品は思い浮かばない独自性・個性の強い作風であることは確かだ。 近未来を舞台にしているとはいえ、作品中には絶えず政治臭が漂う。もちろん現ロシアを肯定するわけでも否定するわけでもない、プロパガンダ小説とは一線も二線も画する小説であるが、政治意識の強さは、我々にはうかがい知れないほど深いものであるようだ。 永嶺重敏『怪盗ジゴマと活動写真の世界』(新潮新書)読了。 先に赤塚敬子『ファントマ』を読んだため、どうせならと一読。 『ファントマ』とはボリュームも違うが、なにより対象の捉え方が違うので両書を比較することは無意味かも。 『ファントマ』は原作小説に始まり、絵画モチーフやTVドラマまで形を変えながらも使われるファントマという<作品>に対する論考。 本書は、やはりサジイの原作やさらに上映禁止を受けて登場した和製ジゴマに至るまで紹介はされているものの、著者の関心は「怪盗ジゴマ」という<現象>にある。 したがって、著者がジゴマ作品自体を愛するものとは思えない。私が読んでいて不満だったのは、著者が「なぜこの本を書こうと思ったのか」がさっぱり伝わってこないことであった。 確かに「反道徳的」な作品が大ブームを起こしたことは社会的にも興味深い事象かもしれないが、当時の世相の分析が深く成されているともみえないし、活動写真の興隆を描くことに主眼があるとも感じられない。 そのあたりが、本書を読むに当たり「ふ〜ん」ですべてが終わってしまうことになったのでは。 |
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4792. 2013年10月25日 00時09分50秒 投稿:かわぐち |
川村伸秀『坪井正五郎 日本で最初の人類学者』(弘文堂)読了。 この人の名前をどれだけの人が知っているのだろう。明治の人類学者。異端好きには「先住民=コロポックル説」で有名かな。日本で人類学創立の立役者の一人であり、世界を回り、最期はロシアの万博見学で客死。 そんな男の業績を著者は根気強く資料を掘り下げ明らかにしている。その作業を思うと気が遠くなるほどだ。 著者は、国書刊行会で「知の自由人叢書」(全5巻)も編集、その中に坪井の『うしのよだれ』も入っている。 とにかくその知のネットワークは読んでいてこんなところにもつながりが!とわくわくする。 ちなみに本年は坪井没後100年の年に当たる。 |
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4791. 2013年10月22日 22時58分51秒 投稿:かわぐち |
ロミ『三面記事の歴史』(国書刊行会)読了。 注意しておきたいのはここでいう「三面記事」とは新聞マスメディアの記事を必ずしも指すのではなく「三面記事的出来事」であるということ。 したがって、本書の前半では中世の歴史奇談が中心となる。私はこの前半を読んでいて正直ガッカリだった。 歴史に名の出てくる有名人の話なら類書はいくらでもあるわけで、(私の考える)「三面記事」とは、そうした歴史の表舞台には登場しない市井の人々の巷談だと思っているからだ。後半、大衆紙が登場してからは、ようやくそうした記事が紹介される。 読み終えての感想は、もちろん面白いことは面白いのだがそれだけ。 こうした三面記事をいくら拾ってきても、新たな事件は次々に起こるし、それを網羅することなど当然不可能。 私の関心事としては「人はなぜ三面記事に惹かれるか」であり、それがどのようにエスカレートし、競争となり、逆に社会に影響を与えたか、である。そうした面には本書は応えてはくれなかった。 いまモネスティエ『世界三面記事全書』(原書房)も手元にあるが、きちんと読んだ上でないと判断はできないものの、こちらのほうが私の期待には応えてくれそうな気がしている。これは近いうちに読みます。 |
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4790. 2013年10月21日 23時15分38秒 投稿:かわぐち |
井上章一編『性欲の研究 エロティック・アジア』(平凡社)読了。 正直言って期待はずれだった。まあ、「期待」というか、私の関心とマッチしていないということかもしれないが。 こうした複数の筆者の文を集めた本はどうしても散漫になるのは避けられないし、当然、それほど突っ込んだ話もできずサワリで終わるのは仕方がないこと。 結局、参考文献で知らない本を知り、読んでみようという気になったことが収穫か。 |
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4789. 2013年10月20日 21時25分34秒 投稿:かわぐち |
高橋豪仁『スポーツ応援文化の社会学』(世界思想社)読了。 総じておもしろい本であった。スポーツの応援を社会学の様々な理論を使って分析。ちょっと牽強付会な点はあるものの、それがかえって「おいおい」と思いながらも楽しめる。 著者がここで例に出しているのはプロ野球の私設応援団。たしかにあのような鳴り物入りで、みんなが同じ歌を歌うというタイプの応援は、海外のスポーツゲームで見た記憶がない。 さらにその私設応援団も一つの球団に複数が存在し(当然そこには数々の軋轢も)、さらには近年は球団側に個人情報・写真までもを提出し、応援団のIDカードが発行されているとか、私には全くうかがい知れない世界の話であった。 先に「総じて」と言ったのは第4章。ここでは著者の所属する広島東洋カープ応援団の神戸中央会の話が描かれているのだが、実にめんどうくさい人間関係の話。やはりどんな世界でもこういうことはあるのね、と最初は思って読んでいたが、100頁(本書の2/5)にもわたる軋轢話にいささかウンザリ。まあこれは私に応援にそこまで情熱・生きがいを見出す回路が備わっていないからだろう。 本書はプロ野球応援団に話を限っているが、人間の特性として、他分野のスポーツでもこうした考察は有効かと。 |
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4788. 2013年10月19日 18時59分04秒 投稿:かわぐち |
八木福次郎『書痴斎藤昌三と書物展望社』(平凡社)読了。 書物展望社でいわゆる「好事家本」を出版し続けた斎藤昌三の歩みを古書通信の八木氏が描く。 もちろん私はリアルタイムでその出版を見ていたわけではないが、登場する人物、書名を目にするとノスタルジアを感じてしまう。 これらの多くは市井の読書家である。山口昌男いうところの「知の自由人」だ。 こうした好事家の系譜は見ていて様々なことを考えてしまうのだが、山口昌男『内田魯庵山脈』、さらに江戸の「知の自由人」を描く中村真一郎『木村蒹葭堂のサロン』はぜひ読んでほしい。 ベアント・ブルンナー『水族館の歴史』(白水社)読了。挿絵の美しい粋な本。 しかし、題名はちょっと。原題「海が室内にやってきた」は副題にもなっているが、公共水族館が登場するのは半分以上過ぎてから。それまでメインは家庭で魚を飼う水槽の流行にあるからだ。「アクアリウム」を無理に「水族館」としてしまったのがいけないのでは。 水族館に関する本はたくさんあるが、多くは「水族館に行こう」的な流行スポットの紹介の域を出ぬものがほとんど。 公共水族館の文化史としては、鈴木克美『水族館(ものと人間の文化史)』(法政大学出版局)がなんといってもベストだと思う。それに本書を併読すれば歴史面ではほぼOKかなと。鈴木氏の本にはない、魚の運搬コンテナの発達など、新知見があったことは言っておきたい。 |
[27.143.86.128][Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729; McAfee)] |
4787. 2013年10月15日 23時38分32秒 投稿:かわぐち |
>よしださま おおっ、そうですか。かなりの労作ですのでお楽しみに。 ハヤカワ文庫の原作(最初の3冊)は、マーケットプレイスでも相当な値段ですね。 どうしても私の世代では、まず最初に出てくるのがジャン・マレー版なのは仕方なし。 R・J・W・エヴァンズ『バロックの王国』(慶應義塾大学出版会)読了。 あの『魔術の帝国』でルドルフ2世の世界を克明に描き出したエヴァンスの著書で、ハプスブルク帝国の歴史が詳細に描かれる。 しかし…本書は私なんかには歯が立たないほど高度なものであった。 なにせ出てくる固有名詞がほとんどわからない。喩えて言えば、つるつる滑るガラスの上を脚を引っ掛けることもできずになんとか渡り切った昆虫のような心境。 第3部「知的基盤」が少しだけ〈わかる〉程度でした。やはり所詮シロウトと己の分を思い知らされました。 |
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4786. 2013年10月11日 12時19分03秒 投稿:よしだ まさし |
いつもお世話になっている新宿区の図書館に「ファントマ」があったので、ついつい予約しちゃいました。 楽しみ、楽しみ。 |
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