黒猫荘
(mobile版)
[088号] [090号]
[入居者リスト]
オバQといっしょ
オーナー:かい賊
ミステリ&ラノベ&コミック etc
← 77〜80件 →
[HomePage]
▼ 投稿する
85. 2006年01月07日 23時47分28秒
投稿:かい賊
森絵都「つきのふね」(角川文庫)
中学二年生の特別なところは何もない女の子さくらを主人公に、その(元?)親友莉利、
ストーカー的でしゃばり同級生男子勝田、不思議な青年智の4人を軸にして展開される
ストーリー。
ナイーブでアクティブな中学生の心情がよく描かれているような気がします。「4TEEN」
にも感じましたが、ここのところの中学生を描いた小説はノスタルジックな気分に
浸らされるというより、ええオヂさんである己の中のガキの部分を再投影されている
ようで、むしろイタイ感じがいっぱいです。
『冷たいのね、と担任は雪だるまでも見るような顔をした。
「中園さんと鳥井さん。ふたりは親友。だからいつでも力になってあげるものと思って た
のに……。鳥井さんは中園さんがどうなってもかまわないの?」
この担任といると、ときどき、植物どころか獰猛な野獣にでも変身したくなる。
(中略)
「鳥井さんにならわかってもらえると思ったのに、残念だわ。中園さんのことはやっぱり
ご両親にお話しするしかなさそうね」
担任は失望を隠さずに言った。
「もういいわよ、帰っても」
あたしはうなずいて歩きだしたけど、戸口へ向かう途中でふと思いたって、ふりむいた。
「先生」
「なあに」
「なんで莉利と直接、話さないんですか?」
担任は机上に飾られた愛犬の写真をながめながら言った。
「だってわたし、中園さんにきらわれてる気がするんだもの」』
ワシは簡単に作者の挑発に乗ってしまいます。
許す。ワシが許すから獰猛な野獣になったれい、さくら。
でも世の中嫌な大人ばかりじゃない。へび店長の描き方も秀逸で、まだまだ未熟な中学生の
「ものや人の見え方」をうまく表現しているように思います。
なんか、文庫化がラッシュしそうな半ば希望的予感。
84. 2006年01月03日 20時28分09秒
投稿:かい賊
皆様、あけましておめでとうございます。
公私共に試行錯誤の一年が終わり、あっと言う間に新しい年を迎えてしまいました。
今年も無理をせずマイペース(好きなように、我慢せず、無理せずやる)で行こうと
思っています。
昨年の読書(単行本)についてですが、概算で、ラノベ約100冊、ミステリー約50冊、
その他ジャンル約30冊、合計で約180冊というところですね。これ以外に漫画が
単行本で約120冊、雑誌モリモリ、漫画&文芸の同人的作品群となっていくので、
ミステリーの約50冊は限界ラインか思われ、やっぱり文庫読みで精一杯だなあと
再認識しました。
本年の目標としては、せっかくこの長屋に入居させていただいた以上、矛盾する
ようですが、ミステリーを月6冊ペースにして年間約70冊、合計200冊読めたら
いいですね。近くにBOOK-OFFでない新古書店ができまして、そこに出入りしている
うちに「これ読んでなかったなあ」という物件がボチボチと浮かび上がってきて……
(まあ、漫画のほうが多かったりしますが)。
何にせよ焦らず実のある読書を心がけてまいります。
あらためて本年もよろしくお願いいたします。
※新年早々訂正です。前回の米澤穂信「氷菓」「愚者のエンドロール」はともにただの
角川文庫で“スニーカー”が余計でした。むう、みっともない先入観だにゃあ。
83. 2005年12月31日 19時57分45秒
投稿:かい賊
米澤穂信「春季限定イチゴタルト事件」(創元推理文庫)
奥付には2004年12月24日とある。ワシがこの作品を未読なのは犯罪に等しいと自分で
勝手に思っている、に加えて「氷菓」「愚者のエンドロール」(ともに角川スニーカー
文庫)も本作を読んでからなどと積んでおくのも嫌気が差してきた今日この頃ひょんな
ことで転がり出てきたクリスマスプレゼント。……全然素敵じゃねえな。
高校1年生の二人組がメインで、「ぼく」小鳩常悟朗が元名探偵で主人公の一人称。
小佐内ゆき「灰色狼(from GOSICK@桜庭一樹)」という渾名はこの娘のためのもの
なのでは、と思わせる元復讐鬼。
二人は中学時代の自分と訣別しひたすら小市民を目指す求道者。特に恋愛関係でも
なければ依存関係でもないが、一つの互恵関係らしい。んが、解かれるべき謎が目の
前に飛び込んできたり、理不尽な不幸という火の粉が我が身に降りかかりやすい体質
(としか思えない)だったりで、とても道は窮められそうにない。
『 誰かが一生懸命考えて、それでもわかんなくて悩んでいた問題を、端から口を
挟んで解いてしまう。それを歓迎してくれる人は、結構少ない。感謝してくれる
人なんて、もっと少ない。それよりも、敬遠されること、嫌われることの方が
ずっと多いってね!」
「……そんなことはないだろう。お前の思い違いじゃないか」
「健吾にはわからないかもしれないね。健吾も、健吾のお姉さんも、気持ちのいい
ひとだ。ぼくが多少知恵がまわるのを知ってて、ものを頼んでくれる。解いても、
ナイスファイトと讃えてくれる。でも、自分でも気づいてるだろう? そんな
のは少数派なんだよ。』
和製「クイーンの苦悩」高校生版ですね。
『「いやあ、厳しいねえ、健吾。こっちの事情にも配慮してもらわないと」
「悪いな、常悟朗。正直で売ってるんだ」
笑いが収まると、下手に高揚してしまった気分も随分収まっていた。あとは、選択だ。
小佐内さんの危険を看過して、誓いを守るか。健吾の言うことを聞いて、探偵をやるか。』
ここだけ抜粋したのでは???ですが、実に皮肉でオシャレで照れ笑いな会話です。
それはともかく常悟朗の結論は……
『「じゃあ、始めよう。ぼくが思うに……、これは推理の連鎖で片がつく」』
日常の謎系に分類されるであろう半ラノベ的ミステリーと言えるでしょうが、キャラの
個性が明確で綺麗に役割分担がなされた巧みな人物配置の小説と見ます。
ま、年内に読めてよかった。
82. 2005年12月26日 22時52分40秒
投稿:かい賊
日日日「蟲と眼球と殺菌消毒」(MF文庫)
もともとは考えていなかった「蟲と眼球とテディベア」の続編だそうで。あとがきに
よると作者も意識していなかった前作中の伏線の落とし前をつけるための旅立ちの
ようで、真っ当に旅を終えてほしいと祈るばかり。
前作にも増してストーリーも描写も陰惨になっています。
冒頭主要登場人物宇佐川鈴音は中学時代に気まずく疎遠になってしまった旧友加藤克美と
再会&和解します。旧交を温め、さらなる親交を約した帰り道。
『「もういいや、こんなつまんないんじゃ要らないもんね、ぽいっ」
手長鬼は――。
無邪気に、残酷に。
克美を石塀に叩きつけた。
ぐしゃり、という音。それが自分の肩甲骨や肋骨が潰れた音だと克美が理解するより早く、
痛みで絶叫するような慈悲深い余裕も与えられず。』
「ぽいっ」されたくないなあ。
前にも触れましたが、この作者の言語感覚が大好きで、今回、今後この物語を左右する
“砕け散った神の欠片”たちの名が明らかになります。以下( )内はルビです。
「涙歌(メロディアノイズ)」「破局(ポイズン)」「最弱(アルティメットシールド)」
「不快逆流」「一人部屋」「神蟲天皇(じんむてんのう)」「殺菌消毒」
というわけで今回のメインはグリコVS殺菌消毒なんです。
にしても「一人部屋」ってなんだよ「一人部屋」って。早く正体知りてーっ。
[NAGAYA v3.13/N90201]