黒猫荘
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オバQといっしょ
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93. 2006年02月08日 21時39分03秒  投稿:かい賊 
熊谷雅人「ネクラ少女は黒魔法で恋をする」(MF文庫J)
第1回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作受賞作

ネクラでなんともぱっとしない女の子が、悪魔の召還に成功し「宇宙で一番可愛い黒魔法少女」
にしてもらうかわりに「彼氏つくっちゃダメ」という誓約をさせられるという一見矛盾に
満ちた契約を結ぶことに。しかし少女は嬉々としてそれを受け入れる。なんせ、

『そもそも、男なんかと付き合いたいとは思わない。面倒だし、馬鹿だし、男は私を嫌って
いる。そういう気配というか、オーラというか、空気をビシバシ感じるわけですよ。
 だから、嫌だ。特に最後が重要。何が悲しくて、自分のことを嫌っている人間と一緒に
いなければならないのか。そこ大切。世界中の人間が私の前に跪くようなことがあれば、
考え直してやってもいいけどな。
 家の近くの坂道で、またため息が漏れた。ため息をつくと幸せが逃げるというけれど、
もともと幸せを内包しているような人間はため息をつかないに違いない。それとも私は枯渇
しかけている幸せすらも吐き出しているのかな。やせ細った幸運貯蔵タンクから、最後の
一滴まで搾り取るようなため息。この幸せよ、世界中の恵まれない子供たちに届け。
 ……やっぱり嘘。利子がついて返ってこい。』

という調子ですからねえ。お約束ですよ、あとあと後悔する展開になるのは。物語は予想
通りの進展を見せます。自分は世界に拒絶されているのではなく、臆病で一歩を踏み出せ
ないだけだったということに気がついていく、ってやつですね。

序盤の主人公の壊れっぷりというか、毒の吐きっぷりが大いに気に入っていたので、話が
進むのと反比例して主人公の人格がどんどん丸くなっていってしまうのがこの手のお話の
残念なところなのです。

ただし、終盤切ないけどカッコイイおとなが出てきて物語を引き締めてくれました。大団円も
含めて大いに楽しませていただきました。

サブキャラ「とりあえず」雛浦さんも大好き。これまたオススメ。
92. 2006年01月30日 22時33分50秒  投稿:かい賊 
つうことで、GA文庫創刊記念、ひととおり読み〜の、感想書き〜の、でした。

4冊とも非新人で読み応えのある作品を揃えたところはさすがソフトバンクというところですか。

ところが実は初回配本の冊数は5冊だったらしく折り込み広告には「廃墟ホテルへようこそ。」も
ラインナップされているのです。しかし欄外には、『廃墟ホテルへようこそ。』の発売日が変更と
なりました。読者の皆様、関係各位にご迷惑を……云々、とあり、ネットでも2月の新刊が4冊で
あること(同折り込みでは3冊)を確認しました。

ま、これだけならある意味よくある話なのですが、ワシ行き付けの非BOOKOFFな地元新古書店で
この「廃墟ホテルへようこそ。」を見ちゃってるんですよね。なんで買ってないかなあワシ。明日
使う小銭がなくなるからたらいうホンマしょうもない理由で購入せんかったような気が。収集欲
云々なんて偉そうなこと言えんぞ、いやマジで。無事刊行されることは当然のことながら、
『幻の未改変版』なんて代物がこの世に沸いて出ませんように。んなことになったら、なったら、
泣いちゃうぞ〜♪ (本当はもっと過激なことを考えていますがアップは自制しました、ってったく
コレクター気質ってやつぁ、自分でも嫌気が差してくるワイ)
91. 2006年01月30日 22時04分13秒  投稿:かい賊 
榊一郎「神曲奏界ポリフォニカ ウェイワード・クリムゾン」(GA文庫)

そしてこちらは“精霊”のいる世界。ワシ的な解釈ではこの“精霊”とは世界にあふれる
浮き上がってきた(余剰した)力が意識や意思をもって具現化したもの。彼らは人間が
考えるところの、超常的な力、を持ち、人間は彼らと契約することによってその力による
恩恵を受けることができるようになる。契約とは妖精が好むものを与えることであり、
それが“神曲”の演奏にあたる。主人公のフォロンは“神曲楽士”であり上級精霊のコーティと
タッグを組んでいる。

大きな事件は起これども、まだまだ序章という感じ。神曲世界と精霊の周辺紹介が主眼と
いう印象。物語としてはこれからでも、この主人公二人のやりとりというか関係性がよい
のだなあ。第一章よりいくつか、

『「出来たか?」
  そう最初にコーティカルテが問うたのは、フォロンが卵を二つフライパンに落とした
 瞬間であった。
 「まだ」
  振り返らずに笑顔で告げるフォロン。
  これもいつもの事である。もう慣れた。
 「むう。私は空腹だ」』

『 ではどうして、彼女はわざわざ人間の様に朝昼晩の食事の形式を守るのか。
  それはやはり彼女にとって、食事が嗜好品であるからだ。』

『 そういう訳で――彼と同居人の紅い少女は今朝も同じ会話を繰り返すのである。
 「出来たか?」
 「まだ」
 「むう」』

お互いが違う存在であることを芯では理解しながら、しているからこそお互いの疎通を
大事にしようと“自然に努力”している様子が非常に愛らしくてお気に入りです。

それから、

『そう――これは単身楽団だ。
 自走式可変単身楽団(ホイールド・トランスフォーマティブ・ワンマン・オーケストラ)』

こんなんもGOOD。

ツンデレ属性の人にもオススメです。
90. 2006年01月30日 21時25分57秒  投稿:かい賊 
神野オキナ「虚攻の戦士『ナツ』ノキオク」(GA文庫)

タイトルや口絵(イラストは田沼雄一郎)からアキバ系デブオタ少年がヴァーチャルワールドで
大活躍! というようなお話かと思ったらちょっと違いました。

平行宇宙の存在を前提とした舞台設定です。1975年8月に滅亡した宇宙(作中:消滅宇宙)
からの脳内情報(残留思念というべきものと思われる)の影響を受けた者たちが、滅亡して
いない世界の中で復活を遂げようとする、その為に世界を表から裏から揺さぶっている。
まあ、そんな話であるとワシは解釈しましたが。

そう、で、この「裏」が面白い。

『関節部分がバキバキと音を立てて切り離された。
 頭蓋骨の結合線の部分がぱっくりと口を開け、脈動する脳と、その中にビッシリ埋め
込まれた小指の先ほどの眼球を見せていても、手足が細い神経節だけで繋がって巨体を
支えることが可能なのも、彼らがこの世の物理法則からある程度開放された証拠であった。
 力の象徴、思考もなく、ただただ全てを「捧げ」るだけの存在、究極の情報集積システム
「集積者」の「端末」。
 通常、「虚数僧兵」と呼ばれるその異形の怪物は咆哮した。』

「裏」という電脳世界に似た状況を“虚数”と表現し、その中での力のランク付けを“僧兵”とか
“騎士”などとチェスのような用語で行っている(ああ、サンデーの「MAR」かいな)のが
面白いです。イメージの具体化がしやすいので、実体の危うい世界を表現するにはうってつけ
なのでは、と考えます。

今後が楽しみではありますが、これはこっちもむこうも果てしなく強くなるパターンではないかと。
大風呂敷を畳む手際もじっくりと拝見したいところ。

サクサク読める電脳神話好きの方(いるんか? そんなん)にオススメ。

[NAGAYA v3.13/N90201]