黒猫荘
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113. 2006年06月25日 00時38分51秒  投稿:かい賊 
米澤穂信「さよなら妖精」創元推理文庫

まあ、やはり分類すれば“日常の謎”になるんだろうな。主要登場人物が学生というのも
「古典部」シリーズ、「限定」シリーズとも共通。またまた眠そうな目の主人公がちょっと
面倒くさそうに謎解きに挑みます。真剣なのは異邦人のお国さがし。全編を通じてストー
リーを追いながら、手がかりを拾っていきます(拾うのは読者ですが)。

異邦人、これがきっと“妖精”にあたりますが、ユーゴスラヴィア人のマーヤ。好奇心旺盛な、
だからこそのトンチンカンな解釈ややりとりがいっぱいで、とても魅力的な女の子です。

これに加えて真の名探偵(?)“見晴るかす”女の子の太刀洗、主人公と同じ部活(弓道部)の
文原、マーヤを泊める旅館(とはいってもお客さんではないのですが)の娘の白川。この五人が
物語の中核を成します。

全体的に淡々とした印象ですが、それだけにマーヤが光っているというか、浮いているというか。
紅白大福を目の前にして、


「いいや、これこそ、『哲学的理由』ってやつだ」
 マーヤは首を傾げる。
「日本では、白と赤は一組で広くめでたいことを表す。これは祭りで出たものだから白と
赤なんだ。『めでたい』とか『祭』とかはわかるか?」
「Da.はい」
「この二つの色が並んだ場合、『紅白』という特別な呼び方をする。それに、これは餅だ。
餅も日本では、めでたいときの食べ物なんだ」
 マーヤのくちびるから、深い溜息が漏れた。改めてまじまじと、紅白大福を見つめる。
深い敬意と畏怖のこもった眼差し。伸ばしかけていた手を引っ込めて、
「……面白いです。では、これは神聖な食べ物ですね……」
 おれは慌てた。それは解釈が過剰だ。
「いや、それほどでもない。『めでたい』は『神聖』よりもっと俗っぽい」
 そう早口に言って、大福の白い方をつまみ一口で食ってしまう。
「このように」
 不思議そうに、マーヤはおれと大福を見比べる。そして突然表情を輝かせると、自分も
大福をつまみ口に放り込んだ。よく噛んで、飲み下すと、舌を出した。
「だだ甘、です」』

ワシは一刀両断、クールな切れ味の太刀洗によりいっそう魅かれます。そうそう、絵の
イメージが眠そうな主人公も併せて冬目景なんですね。現代モノの風景が、田舎とも
都市ともつかない(決して大都会ではない)ところなんかもお似合いではないかと。

「犬はどこだ」と「クドリャフカの順番」を読んでないので片手落ちですが、今のところ
この作者では一番面白かったですねえ。好きなのは「限定」シリーズかもしれませんが。
本作はミステリーとしてもジュヴナイルとしても完成していると思います。
112. 2006年06月22日 00時12分26秒  投稿:かい賊 
新井輝「さよなら、いもうと。」富士見ミステリー文庫

時間ループものでも、存在しないはずの異空間ものでもありません。日日日「蟲と眼球」シリーズを
思わせる黄泉帰りものでした。

遺体は見ない方がいいと言われた、大型トラックによる交通事故で妹が死んでいる冒頭です。
正確にはなぜかその死んだはずの妹のお風呂シーンに遭遇するのがファーストシーンですが。
妹は由緒ある魔法の日記に「お兄ちゃんと結婚したい」と書き続け、その魔法の効力が発揮
された結果、生き返ってしまったらしい。ほんの数日間の物語で、妹を突然亡くしてしまった
主人公を励まそうとする幼馴染やなんとなく親友。交流の中で主人公は限りある時間の中での
他者とのつながりを、なんとな〜く、まったりと考えます。それなりの紆余曲折やハプニングの
末、最後に訪れる「さよなら」とは?

「〜気がする」がメチャ多い新井輝らしく、ほんわかと進んでいきます。しかし、どうしても
予定調和と言うか何と言うか、あー、吉野朔美「月下の一群PART2」の屈折姉ちゃん主子の
セリフに「与えておいてから、取り上げる、云々」というのがありましたが、非現実を受け入れ
させられるというのは実にタマらんことだなあと思うわけですよ。いつか旧現実に引き戻される
ならば、その揺り戻しのギャップが大きすぎるし、非現実のままならば実際問題登場人物が語る
リアルは空虚なものでしかなくなります。だから、よほど物語の世界観がしっかりしていないと
「非現実が見え隠れする日常」はご都合主義場面増産装置でしかなくなっちゃうんですねえ。

なんか長々語っている割には普通のことしか言ってない? いや悪いことではないけど、全然。
さて、次は<さよなら>つながりで……
111. 2006年06月21日 00時52分48秒  投稿:かい賊 
有栖川有栖「スイス時計の謎」講談社文庫

短編三本と表題作の中篇一本という構成。短編はそれぞれ、ダイイングメッセージ・首切り・
密室倒叙とバラエティに富んでおり、犯罪者を憎み倒す火村の冴え渡る推理が楽しめます。

とは言え、出色は表題作の中篇。犯罪そのものは極めて地味(殺人事件をつかまえてなんて
言い草!)ですが、犯人限定の論理が素晴らしい。さあ、プロの手を借りよう。

『被害者の腕から消えていた腕時計。そこから展開される推理の素晴らしさ。火村による
謎解きのシーンを読んでいるとき、論理の緻密さ、そして堅牢さに大袈裟でなく震えてしまった。』

太田忠司の解説です。最近は、安心して読めはするが貪るほどのことはない作家さん、に
堕していたワシの中の作者でしたが、「マジック・ミラー」「双頭の悪魔」に並ぶ有栖川
ベスト3に赤丸初登場です。いやあ、ほんまナメたらあかんわ、イイ意味で。

もう一つ、ワシにとってのこの作品の魅力は、アリスの元同級生集団「リユニオン」です。
実に鼻持ちならぬ厭味な奴らで、「他の奴等と俺達は違うんだ」と言わんばかりの特権階級
意識丸出しで、発言の一つ一つが醜悪極まりなく、とても他人とは思えません。多かれ少なかれ
高校時代の友人グループなんてのはそんな意味合いを持っているのかなあなどとも思います。
集団としての得意分野は違えども「俺達は(ちょっと)違う」という意識を持っているからこそ
感じる楽しさもあるのではないかと思います。

『「……、十七歳のガキに戻ってしゃべっているんだ!……」』

すべては「リユニオン」の一人のこのセリフに集約されていると思います。

ニワトリか卵かはわかりませんが、精緻なロジックを展開するためにも舞台は必要。舞台も
素晴らしいに越したことはないですよね。作家アリスの苦悩と原点も見られたし、満足満足。
大変おいしゅうございました。
110. 2006年06月18日 00時55分07秒  投稿:かい賊 
芦辺拓「グラン・ギニョール城」創元推理文庫

いやあ、面白かったですねえ。ここが、あそこが、と言ってたら、あっという間にネタバレ
しそうで怖いので、いつも以上にあんまり語らないようにします。てことはほとんど何も
書けなくなってしまうんですけど、ちょっぴり。

ワシにしては珍しくトリックが2つもわかったので嬉しかったですねえ、第一の事件と
後ろから二番目の意味ですね。早々に気がついたので、丹念に読み返しちゃいました。

それにしても。好きなんですよ。このなんとも言えない浮遊感が。非現実感というか
(でもちがう)、メタ的というか(でもちがう)、なんなんだろう「感覚がリアル」なんだ
よなあ。出来のいいSFやラノベに出会ったときの、ゼロリアルの中の絶対的リアリティ。
そのとき確かにワシの中に森江やナイジェルソープはいる。山道や古城の床石を踏みしめて
いる。すんごく素敵に感じているんだけど、関口さんの試食並みに伝わんないね。トホホ…

しっかし何気に創元不滅のスタイル、中表紙概略からすでにハメられていたのかと思うのは
被害妄想かしらん?

[NAGAYA v3.13/N90201]