黒猫荘
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129. 2006年07月21日 03時05分31秒  投稿:かい賊 
水城正太郎「せんすいかん その1」HJ文庫

『しかし現実は非情。
 お互い殺し合うようにボスから命じられる二人。
 武器で戦うには忍びなくて生身で戦うのだけれど、戦闘力はマングースのほうが上。
しかし、その殴り合いがいつしか……。
「ふふふ……もう抵抗する気力もないだろう?」
「うう……好きにしろ」
「ああ、好きにさせてもらうさ」
「待て、マングース、何を……」
「どうせ死ぬなら気持ちよくなってから死にたいだろう?」
「やめろ、この変態……!」
「何が変態だ。お前の三角頭はもうこんなになっているじゃないか」
「畜生、わかっているくせに」
「ああ、ハブ、ハブ」
(以下、掲載するに忍びないので、さわやかなデスメタルをお楽しみください)
 ♪ヴぉーヴぁーぶぶぶぶげぅあぁぼぅあ〜!』

のっけから引用しまくりですが、これは登場人物の一人、演技の天才すずみ(水泳部員)の
やおい妄想です。

『さよりはめだかの頭をなでた。天才と呼ばれるのはつらいことのほうが多い。とくに
物語作りというめだかのような才能は。
「だ、だけど……めだかは、この世界の果て、水平線と空の間にあるインターゾーンから
やってきたお姫様なのでしゅ。インターゾーンが悪魔であるドク・ベンウェイによって
毒ムカデに覆われてしまう前に、この地球から争いごとをなくし、希望を増やさないと
インターゾーンは滅びちゃうんでしゅ」
「ははは、めだかちゃんは優しいな。そのお話を聞いた子供が希望を信じてくれるといいね」』

このめだか(水泳部員)は物語作りの天才ではありません。

『そのときこそ、ひばりが観客席に向かって湯たんぽを投げたその瞬間だった――。
 いつも酔っぱらってニコニコしているしいらが声に応えて一升瓶を持ち上げ――。
 ――その一升瓶が見事に湯たんぽをたたき落としたのだ。
 かつーん。
 甲高い音が響く。
 湯たんぽは世界記録保持者川相のバントのように正確に投げたひばりの許に飛んでいく。』

しいら(水泳部員)は酔っぱらいの天才らしい……。


「先生! 初芝さんがまだです」
「あー、初芝か。また死んだか?」
「みたいです」
 さよりと生徒はなんとも怖ろしい会話をかわす。
 ほどなくして初芝こちの居場所は判明した。
 空港の片隅に人だかりができていたからである。
 その人だかりの中央では、一人の少年がひざをついて、髪の長い美少女を助け起こそうと
している。その美少女が空港でばったりと倒れたものらしい。
「助けてください!」
 少年は叫んでいる。
「助けてください!」』

こち(水泳部員)は幽霊の天才。

どいつもこいつもだが、やっぱりいちばん濃いのは……。


「カーカカカカカカカ!」
 上空から不気味な笑い声が響いてきた。
 その笑いこそ不気味だが、声だけはセクシーな女性のそれなのが不自然だった。
 さよりと教頭が同時に顔を上げる。
 なんと一人の女生徒が手足をくの字に曲げ、まさに蜘蛛のごとくにべったりと天井に
貼りついていたのだ。
「さよりちゃーん、今度ばかりは逃がさないから!」
 彼女は首だけを器用にさよりに向け、もう一度「カーカカカカカ!」と笑う。口の端が
三角形につり上がっている。ものの見事に悪魔超人か天才料理人のような表情だ。』

『その美少女は他人に有無を言わせぬ鬼の目をしていた。
「ご苦労」
 かじかの呼びかけに、すぐさまジョージは反応していた。
「サー、イエッサー! 全速で沖縄にお送りいたします!」
 背中に鬼の顔こそ浮かばないが、魅了させることも畏れさせることも思いのまま。
かじかはやはりカリスマの天才なのであった。』

『少年が跳んだ。
 鋭い回し蹴りをかじかに向かって放つ。
「ぐはっ!」
 顔面を蹴られたかじかが顔を中心に回転しながらふっとび、顔面からざしゃあ! と
ホームに突っ込む。顔面から突っ込んだ瞬間、身体は垂直に突き立っているという見事な
『車田落ち』だった。』

とても語りつくせませんが、かじか(水泳部長)です。ちなみにジョージ君はただの
厚木基地の海軍エースパイロットで、本編とは一切関係ありません。

さて彼らを束ねるのが主人公のさより(水泳部顧問)です。タンジール(!)の大学で
飛び級の末、女子校「聖バロウズ学園(絶対かわいい娘には通わせたくない名だ)」の
教師となります。彼は先読み(スキップ思考⇒風が吹けば桶屋が儲かる思考とも言う)の
天才です。

猟奇王の衣鉢を継ぐ者たちがこんなに……。猟奇シスターズが一般人に思える。

本当になんでもアリです。各章のサブタイトルがまた……。

1 天才女学生西へ
2 地底ゴゴゴゴゴゴゴゴ………

たまらんなあ。
128. 2006年07月17日 02時21分45秒  投稿:かい賊 
小森健太朗「グルジェフの残影」文春文庫

まず最初に、ワシの中ではミステリーとは認識されませんでした。小説としての目的が
謎解きではないと感じられたので。もちろんこれは読了後の感想です。

とりあえずこの作者に関してワシに失策があって、「コミケ殺人事件」と「メヌウェンラーの
密室」しか読んでいないんだな。「ローウェル城の密室」と「大相撲殺人事件」が未読という
のは痛すぎる。「大相撲」はまだ文庫にオチてないからしかたないけど、「ローウェル城」は
家のどっかに埋もれているだけだからなあ。トホホです。「大相撲」は爆笑モノらしいので、
ぜひとも読まねばなるまい。

以下ネタバレかもしれません(トリック等ではありません。読む楽しみを削ぐ可能性が
ある、という意味でです)が。

さて肝心の本書はというと、面白かったですね。いつミステリーになるか戦々恐々と読み
進めた挙句、とってつけたような(悪口じゃないです、巻末対談で奥泉光もそう言って
ますし)殺人事件が起こり、しかもそんなところに重きは全くない。ウスペンスキーと
グルジェフという二人の思想家兼実践者がロシア革命前後にどのような足跡を残したのか
ということを克明に追っていきます。その思想の変遷が史実と絡み合って展開され実に
面白い。

冒頭に近い第二章では、山田正紀「チョウたちの時間」を連想し、ここからSF的展開を
期待しましたが、軽く肩透かしを喰らい…。

そう、意図的なんだか、たまたまなんだか、「これ(この人)どうなったんだろう」と思った
その先が全く語られないことが多いんだよなあ、この作者。ウマいんだか、意地悪なんだか、
ええ、ええ、術中にはまってますよ。はい、はい、「ローウェル城」探しますよ。
127. 2006年07月13日 02時03分47秒  投稿:かい賊 
木村航「串刺しヘルパー さされさん 〜呪われチルドレン〜」HJ文庫

RPGを中心としたゲーム世界には聖属性・闇属性なる言葉がある。各キャラクターは
その属する性質によって、特定の種類の攻撃値や防御値を高め、逆に弱点を持たされる
ことになる。属性は聖闇に限らず、木火土金水などの自然系が代表的でお互いに効果を
相殺したり助長しあったりしている。一つのRPGをやりこむ楽しみの中には“育て”の
要素がからむことが少なくない。技や効率にこだわり始めると、ゲーム攻略の初期には
気にならなかった攻撃回数や技の繰り出しスピードに目にも明らかな差が見受けられる
ようになり、必然として意味のあるレアアイテムやこの属性とやらに振り回されることと
なる……らしい。

ワシは憧れはするけれどもやりこみゲーマーではない(トゥルーエンドが一回見られれば
充分)ので、属性のありがたみは今ひとつ感じることが少ないというか、ない。そもそも
聖闇のイメージはま〜んま神&魔ばっかりだから、キャラクターやスキルなどの体系が
実に単調極まりない。要はつまらんのだ。

『――人々の精神が生み出すエネルギーを、精気(プネウマ)と呼ぶ。
 そのポテンシャルを表す単位が精気圧だ。
 個人の精気圧が、社会の平均値より高ければ、それは「ついてる」と呼ばれる状態だ。
むろん、精気圧が平均以下ならば、逆の状態になるのは言うまでもない。
 普通、個人の精気圧は、社会全体の平均値前後でゆるやかに変動を続ける。
 一定の精気圧を保つために、依代に精気エネルギーを込め、魔法のアイテムに加工する
方法がある。これがプネウマ・テクノロジー、いわゆるプニテクだ。日本のお家芸として、
現在も世界のトップを独走している先端技術である。』

『高精気圧の依代に憑依された者は、「祝命者」または「ついてる人」と呼ばれる。
 低精気圧の依代に取りつかれれば、「呪感者」または「呪われた人」だ。』

いわゆる闇属性が「呪」として扱われている。また、その呪われ方がハンパじゃない。
われらが主人公江戸っ娘菊呪感者(菊とは呪の等級を表します。もちろんこれは最上級)
佐々岡支恵の呪いはというと、胸の真ん中正面から、剣が背中へと突き抜けています。
文字通り「串刺し」です。だから「さされさん」です。この剣はさされさんのピンチに
なると、窮地を脱するための聖剣と化しさされさんの手と頭脳になる…わけでもなんでも
ありません。ピンチだろうが、ヘルパー従事中だろうが、お風呂中だろうが、構うことなく
ささりっぱなしなので、ただ邪魔なだけです。

他にも家族の誰かといっしょでないと家に近づけもしない運動靴とか、少女の魂?写し身?
(妙ちくりんなタコだけど)を生臭い海水に封じる金魚鉢、とか、なんじゃそりゃあな
物件ばかりです。

呪われようが呪われまいが人間です。まだまだ未熟な子どもです。呪いとは別個に様々な
悩みを抱えています。憤懣やるかたない運命や自分自身と戦ったり逃げたりであります。
さされさんは懸命に生きるものの味方です。そりゃあ江戸っ娘ですから、たまにやる
こた無茶苦茶ですが、それも立派なご愛嬌。今後のドタバタが楽しみです。
126. 2006年07月10日 02時50分31秒  投稿:かい賊 
在原竹広「ブライトレッド・レベル」HJ文庫

大きく言えばSFです。もうちょっと絞って言えば“異能者もの”です。本人(元の人格)の
意思とは無関係に他者への攻撃を義務付けられてしまった者の物語です。はい、ありがちと
言えばありがち。特に目新しいところがあるわけでもないのですが、キャラの右往左往ぶりが、
「こなれていないブギーポップ」という感じで、ちょっとだけ新鮮に感じるかな?

既存の類型が山ほどあるので埋もれてしまわないよう頑張って欲しいなと。
⇒かなり偉そう。

[NAGAYA v3.13/N90201]