黒猫荘
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オバQといっしょ
オーナー:かい賊

ミステリ&ラノベ&コミック etc
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133. 2006年08月06日 15時44分47秒  投稿:かい賊 
北森鴻「支那そば館の謎 裏京都ミステリー」光文社文庫

元怪盗(と言っても華々しいやつじゃなくてとっても着実な泥棒、みたいな)で現在
「知る人ぞ知る裏(マイナー)名刹」大悲閣千光寺の寺男通称アルマジロ(ああ、別に
怪盗時代の通り名というわけでもありません)こと有馬次郎が主人公です。

ひょんなことで、巻き込まれたり、転がり込んでくる事件に時にはあたふたと取り乱し
ながら、解決に奔走します。京都という土地柄、元怪盗というキャラクターにふさわしい
捜査・推論を展開します。

北森鴻を読む楽しみの一つ。

『我々のやりとりが一段落したのを見越してか、大将が小鉢を二つ出してくれた。
「去り行く冬と、一足早い春とを同時に味おうてもらいとうてね」
 蓋を取ると、蕪の芳香がぷんと香った。
「鰆と蕪を蒸してみたんやけど」
 という大将の言葉が終わる前に、我々はすでに小鉢の中身に箸を付けていた。
「餓鬼やね。きみら」
「ほっといてんか。うまいものに能書きはいらん」
「ああそないに食い散らかして」』

いいねえ、おいしい文章は。
132. 2006年08月06日 14時45分06秒  投稿:かい賊 
鯨統一郎「とんち探偵・一休さん 謎解き道中」祥伝社文庫

外出時でも文庫が手元にないということはここ数年ありません。ただワシはうっかりさん
なので、たまに(しばしば?)ちょうど読み終えた本をそのままにしていたり、既読本を
鞄につっこんだり、まあ珍しくもありません。読むべき本がないことに気づくととりあえず
恐慌におちいり、ふらふらと駅売やコンビニへ。いやあるもんですね、買った記憶のない
お得意様が。

「金閣寺に密室」の続編にあたります。今回は短編集ということで“お約束”の山です。

犯行者は大体予想をはずれない(わかりやすく書いてくれていますから)のですが、毎回
証拠固めや推理の裏づけのための調査に悪者が横槍を入れます。かんならっず、「これが
できれば……」という条件が出てきます。サービス、サービス♪


「それほどまでに言うのなら会わせてやらぬ事もない」
 彦太郎が後ろの障子を開ける。そこには二十畳はあろうかという広い部屋があった。
「彦三は今この部屋の向こうの部屋にいる」
「さよか」
「この部屋を通って奥の部屋の襖を開けるがよい」
「おおきに」
 一休が草鞋を脱いで上がり框に足をかけた。
「ただし」
 彦太郎が鋭い声を発して一休の足を止める。
「決して畳の上を歩いてはならぬ」
「なんですって」
 茜が思わず声をあげる。
「そんなこと、できるわけない」
 この広い部屋を、畳を歩かずに通り抜けるなんて。
 彦太郎はにやりと笑みを浮かべた。
「京で評判の智恵者の一休殿、さぞ造作もなくやってのけるであろうな」
 彦太郎が小馬鹿にしたような笑みを一休に向ける。』

それらしく、わかりやすいところを引いてみました。

ワシがその立場だったら「ダメ、ダメ、絶賛ダメーッ!」だけどな。
131. 2006年08月06日 13時41分50秒  投稿:かい賊 
高殿円「神曲奏界ポリフォニカ エターナル・ホワイト」GA文庫

“ポリ白”です。そもそも「ポリフォニカ」自体がキネティックノベルとやらで、PCに
よるテキスト付きのドラマCD(逆か?)らしい。榊“ポリ赤”が舞台がほぼ現代の神曲
楽士(要は精霊使いですね)が主役のSFファンタジーで、大迫“ポリ黒”が精霊課刑事
たちが主役の異色ミステリー(安易に「変格」って使っちゃおうか? ってそもそも本格
風でもないか)。そしてこの高殿“ポリ白”が過去編(現代と神話の時代の間?)と言う
べき学園ファンタジーですね。

主人公は元孤児の旧家のお嬢様付きメイド。ところがこのスノウ、全く楽器の素養がない。
神曲楽士の条件は精霊に報酬として音楽を供給すること。まあそれでも構わない。彼女に
神曲楽士になるつもりはさらさらない。恩人であるお嬢様のお側にいられればそれだけで。
さてお約束の展開ですが、「お嬢様」プリムローズはコンクールに入賞して精霊島への入学
資格を得てしまいます。「お側」もこれまでかと思いきや、押しかけコントラバス精霊の
ブランカのおかげで、スノウも精霊島へというお約束展開。しかしまあこの主人公、たく
ましいんだか、ズレてるんだか、かわいいんだか、とにかく元気で見ていて全く気持ちが
いい。


「おい、ベッドから降りろ。押しかけコントラバス」
 怪訝そうな顔をしたブランカに、スノウは“ささめ”切っ先をつきつけた。
「なんでだ」
「貴様がそこで寝てしまっては、わたしはどこで寝るのだ」
 しかし、ブランカはまったく動じた様子もみせず、いったいいつの間に持ってきていたのか、
梅干の入った壺を小脇に抱えぱくつきながら、床に転がっているコントラバスケースを指さす。
「そこ」
「ふ、ふぬー!」
 スノウはいきり立った。
 前言撤回、やっぱりこいつは、ただの迷惑千万な押しかけクソコントラバスだ。
「どけといったら、絶賛どけーっ!!」』

ぬ、絶賛、は彼女の愛すべき口癖間投詞です。

「銃姫」の魔法詠唱、「カーリー」の学生寮、それぞれ思わせて大変心地よい。

ひとつの作品世界を複数の作家が著すと様々な違和感を感じるものだが、このシリーズは
それぞれ独立していながら時間や場所の差はあれちゃんと「同じ世界のなかに」ある。

赤黒白それぞれ楽しみだなあ。8月は黒だそうな。ぜひとも「月間ポリフォニカ」で。
130. 2006年08月05日 23時39分35秒  投稿:かい賊 
大迫純一「神曲奏界ポリフォニカ インスペクター・ブラック」GA文庫

おやあ? 榊一郎じゃないぞう? 初めて目にする名前だ。なんでポリフォニカ?

世界設定をそのままに別シリーズを展開。榊ポリフォニカ「ウェイワード・クリムゾン」で
登場した精霊警察がメインのミステリー色が強い作品。

のっけから殺人で犯人も最初から明らか。おやこれは、と思ったらやっぱり倒叙もの。


「コヅカ先生、あなたも大したもんです」
 心底から敬服したような、半ば尊敬の眼差しだ。
「え?」
「あなたも、人並み外れてらっしゃる」
「どういうことでしょう?」
「だって先生、早朝に電話を受けられたんでしょ? ニウレさんから」
「ええ」
「朝お屋敷に来てみたらオゾネ先生が亡くなってた、って」
 こいつ、何が言いたいんだ?
「私だったら、寝てる間に何かあったんだろう、って思い込んじゃいますよ。だから
寝室でしてたんです。でもコヅカ先生、まっすぐ書斎においでになった」
 コヅカ・ケイズニーは、真正面からマナガの顔を見据えていた。
 目尻に皺を刻んで、巨漢の警部補はにこにこと、にまにまと笑みを浮かべている。
その小さな瞳の奥の真意を透かして見ることは出来なかった。』

いかにもコロンボですなあ、巨漢だけど。精霊特有の“技”はいくつか登場しますが、
犯人コヅカと精霊刑事ペア(巨漢の相方が少女で警部すなわち上司)のやりとりは中々
見ごたえがあってGOODです。SFファンタジー設定やラノベが鼻につかない人には
ぜひともお勧めですね。

この大迫ポリフォニカは“ポリ黒”、榊ポリフォニカは“ポリ赤”という通称だそうで。

続いて“ポリ白”の登場です。

[NAGAYA v3.13/N90201]