黒猫荘
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41. 2005年10月30日 21時00分15秒  投稿:かい賊 
紀田順一郎「第三閲覧室」(創元推理文庫)

神保町を書かせたら右に出るものは皆無というワシの大好きな作家さんの一人です。
この人の書く古書店からは、あの古書特有のすえた、というか黴臭いニオイがプンプンと
漂ってきて、封切りたての新茶並みに「もうたまらん」な気分にさせてくれます。

この長編作品も舞台は大学の図書館ながら持ち味が存分に発揮され、雰囲気満点。
学長の半ば私物化された閲覧室で女性職員の変死体が発見されます。殺人か否かは不明なまま、
この世に一冊の「天下の弧本」(きたきたきたーっ)が登場し、その真贋を巡り物語は
進行します。

「書」の魔力に取り付かれた人間たちの姿を浮き彫りにしながら徐々に謎が解体されて
いく様は、切れ味抜群でラストまで一気に読ませてくれます。

「われ巷にて殺されん」が大好きだったのですが、甲乙付けがたい面白さで、もっともっと
読みたいなあと願って止まないのですが、冷静に考えれば、こんな作品を量産するのは
難しいことかなあと思えてもくるのでした。
40. 2005年10月30日 20時27分25秒  投稿:かい賊 
続き
橋本崇載「アマプロ平手戦 自戦記」(週刊将棋10/19&10/26)

対局当日朝の様子。
『私はお気に入りのピンクのシャツとロザリオのネックレスを身につけて、鼻歌混じりに
部屋を出た。

時間が早いので大好きな歌舞伎町をのんびりと歩く。男と女の欲望にあふれた魅力的な街。
勝ちたかった勝負に負け、悔しさのあまり家に帰ることができずに何度ここへ足を運んだか
わからない。』

棋士というとビシッと和服を着て畏まりながら駒を持つ、というようなイメージがありますが、
現代棋士はこんなもんです。橋本五段は髪の毛も真っ金々に染めています。買うはどうか
わかりませんが、飲むと打つに関しては昔ながらのイメージどおりです。もちろん昔と
較べれば格段におとなしくなったようですが。

『これではひどい。序盤の指し手に全く関連性がない。第3図の大作戦勝ちの局面を
前にして、私はある思いが頭をよぎった。
「なぜ、亮介は負けたのだろう」』

プロは巧みにアマの駒組みの隙をつきながら、着実に優勢を築いていきます。

『そうか、まあ油断はするなよとだけ彼に言い、まさか亮介が負けることはないだろうと
思っていたのだが、ある日亮介が負けたことを知って呆然としてしまった。
「亮介のバカたれが・・・」
このとき私に“敵討ち”という言葉が頭に浮かんできた。』

プロは心に期するものを持ち戦いに臨みます。そして優勢に戦いを進める中・・・、

『さて、この後どう料理してやろうかな、とりあえず一服するかと煙草に火を付けて
チラリと時計を見た瞬間、飛び上がった。そう時間がないのである。この時点で私の
残りは10分、対して天野さんは1時間近く残していた。



これは推測だが、天野さんはプロ相手に作戦勝ちをできるとは思っておらず、初めから
得意な中、終盤の追い込みにかけていたのではないだろうか? だとすればこれぐらいの
作戦負けは“想定の範囲内”だったはずで、途中で私が首をかしげた手も、天野さんに
してみれば“時間を使わせるための軽いジャブ”だったのである。完全にだまされていた。
全く恐れ入った勝負師である。』

勝負にアヤが生まれます。

『とにかく1分将棋になる前にトイレをすませておかなくてはと思い駆け足で対局室を出たが、
その瞬間高い駒音が聞こえてきて慌てて戻る。私は精神的にも追い詰められてしまった。』

時間攻めというのは、食らうと死ぬほどつらいです。プロは残り一分を切ると自動的に
秒読みが始まる1分将棋になりますが、アマチュアの対局には「切れ負け」という
ルールがあり、時間がなくなった時点で勝ちの一歩手前でも負けになってしまう恐ろしい
ものです。こういった将棋では相手の持ち時間が少なくなってきたと見るや最も長手数に
なるであろう局面に優勢・劣勢を問うことなく誘導するということもあるくらいです。
当然天野さんもそういう修羅場の経験がある指し手で、その作戦にプロはどっぷりと
はまってしまったのでした。

『そんなことを考えながら秒読みに追われ一瞬の判断で指した手は▲6五歩だった。これは
悪手、というより考えられない手である。天野さんは当然△5五桂と打つ。その間わずか
5秒。たったの5秒であれだけよかった将棋は逆転してしまった。』

一手ばったり、という言葉があるのですが、将棋にも人生と同じく取り返しのつかない
一着というものが存在します。

『以下の手順は放心状態で指した手順である。私の思考は完全に停止していた。そんな中で
頭をかすめたのは、
「阿久津がこの将棋を見たら、どう思うのだろう?」』

あまりのことに反射でしか手を指せなくなっている中、プロはライバルのことを思います。
そしてこのライバル阿久津主税五段は同じくこのアマプロ戦で四段を勝ち抜いたアマ強豪の
秋山太郎さんに勝利しています。プロの心中いかばかりか。

『本局は私の完敗であった。



打ち上げも終わり、私はとぼとぼと歌舞伎町を歩いていた。昼間の平和な雰囲気はもうなく、
街のネオンが敗者の私をいつまでも切なく照らし続けていた。』

どんな勝負であれ負けは負け。敗者を癒すものは勝利しかない・・・というのは嘘で、
実は癒すものは何もなく、ただ敗北という結果のみが重くのしかかるのみです。後悔
しても時すでに遅く、「せいぜい」捲土重来を胸に期するぐらいなのです。橋本五段には
今後決してアマの方に負けることなく、会心譜の実戦記を書き続けてくれれば、と勝手
極まりないことを妄想しています。
39. 2005年10月30日 18時19分59秒  投稿:かい賊 
>語弊だらけ様
こんばんは。書き込みありがとうございます。

この話に出てくる人物は実は同一人物
…なるほど、そんな見方もありますか。小説の構造上少なくとも「彼女」は別人でないと
具合が悪いかなと思いましたが・・・。

それは作者だ!
…多かれ少なかれ登場人物は作者の投影像となるので、当然といえば当然なのですが、
作者は神の視点を持つ「神」なので、たとえ私小説であっても別のものとして考えるのが
ワシの小説作法です。やはり他者からの働きかけを受けて成長する少年と猫の物語であると
読みたいです。

矛盾だらけ
…不可思議な点はいくつかありますが、そこまで辛いことはないかなと。むしろ矛盾に
見える世界や心情を描きたいからこそファンタジーという形態をとったのでは?
まあ、もちろんわかりませんが。

小説家としてはどうか
作家としては最低
…大きなお世話かもしれませんが、語弊だらけ様、表現が強烈過ぎます(笑)。
物語世界というものがどう表現されているかということは、作者や物語の必然に支配
されているとワシは考えます。難解であったり説明不足であるのは、少なくともそれを
書いた時点での作者の必然であったことと思いますので、そこまで一刀両断にしてしまうのは
むごいのではないかと。

好きな一冊
…ならばなおさら。
38. 2005年10月28日 22時37分16秒  投稿:かい賊 
>語弊だらけ様

コメントありがとうございます。
↓てなわけで、あらためてレスいたしますので、よろしくお願いいたします。

[NAGAYA v3.13/N90201]