Elements of Flame side E "HEART"
多くの仲間と行動を供にし、そして同じだけ別れも経験してきた。
去っていく彼らの言葉は、いつも同じ。
これからは家族のために第2の人生を。
第2って何?そんなに簡単に区切れるの?人生は1度きり。そうでしょう?
誰かの為に生きようとか、誰かを守ろうとか、そういう気持ちが、まったく理解できない訳ではない。
大切な人、守りたい人は私にだっている。
でもその為に自分を犠牲にするの?
お互いに制約しあって、本当に幸せなの?
今の生き方には何の不満もない。
いろんな土地をまわって、いろんな人とあって、いろんな知識、いろんな経験を得て…。
楽しくて仕方ない毎日。
それでもまだまだ全然足りない。確かめたいこと、追うべきものは尽きることなくあって、いつだって前へ前へと向かおうとしている。
それをすっぱり切り離して隠居生活なんて、私には絶対出来ないわ!!
石切場跡。
ここは通常人間の住まう場所よりはやや高い地帯にあるため、熱帯気候に属するロードレスランドにあってそれを忘れされる澄んだ空気が辺りを包んでいた。
かつての役割から何のひねりもない名で呼ばれ続けているこの地は、過去の残骸をいくつも残しながらも、おおよそ当時とはかなり異なった様相を呈している。
既に異形の生物達の住み処となって久しいが、激化してきた近隣での戦争の余波を受けその荒廃は一段と激しくなった。ひやりとした風の色も、少し薄暗い。
エレノアは、ときどき襲いかかるものたちを一蹴しながら、この荒野をひとり進んでいた。
何か特別な目的があったわけではない。ただ己の欲するまま求めるまま、たまたまここに足が向いたというだけ。数々のモンスターも、世界を揺るがす戦争も、尽きることのない彼女の探究心の前では、余りに小さい。
進みたいから進むだけ。
敢えて言うなら、それが、彼女の目的であった。
その先に待ち構える「何か」に出会うために。
「?!!」
突如、頭上に今までのものとは比べ物にならない程の激しい殺気が迫った。見上げずとも判る、この燃え盛るような強いアニマは、グリフォン。
その名を冠された有翼の猛獣が、鋭い爪を彼女目掛け降り下ろしてくるのだ。空を裂く勢いで迫る自然の凶器は、あらゆる生命を瞬時にして奪う死神の鎌となる。
それでも、エレノアが本気になれば決して勝てない相手でもない。だがまだこの距離ならば避けたほうが無難………。
そう思い、グリフォンの軌道から外れるよう彼女が僅かに後退しかけた時、その声は響いた。
「危ない!!」
凛とした、良く響く声。だけど決して甲高い訳でもなく、叫び声であるのに、妙に心地好かった。
思わず振り返りそうになるが、最初、それが自分に向けられたものだとはエレノアは気付かなかった。
確かにグリフォンは非常に獰猛で、危険な生物だ。この生態系の王者の為に散った命は数えきれない程なのだろう。
だが彼女は術士エレノアである。いかなる猛獣であろうともその生態や行動パターン等、あらゆるデータを熟知していれば大抵の場合はやり過ごすことが出来、また例え戦いになっても負けはしない。その為の知識も経験も自信もそして実力も、彼女にはあった。
だから「危ない」なんて、誰かに言うことはあっても言われるのはごく稀で、例えグリフォンが頭上寸前まで迫っていようとも、自分が「危ない」状況にあるとは微塵も思っていなかったのだ。
ただその声に、惹かれただけで。
その後に起こったことは、本当にエレノアにとって予想外、と言うよりむしろ信じ難いものであった。
危ないと叫んだ声の主は、警告を発すると同時に彼女に飛び掛かり、頭を抑えて地面に伏せさせた。そしてそれとほぼ時を同じくしてグリフォンの巨大な爪が空を掠め、僅かばかりの鈍い音。
頭をあげると、抑え込まれた衝撃と猛獣の滑降の風圧とで舞ったエレノアの白い帽子が空に散っていくのが見えた。
それは本当に一瞬の出来事であった。
しかし忘れられない、大きな、一瞬。
「怪我は、ないですか?」
そう言って手を差し伸べた声の主は、少年であった。精悍な顔だちと使い込まれた装備品、多少は戦い慣れしているようである物腰から少々大人びて見えるが、実年齢はまだ14、5歳といったところだろうか。にこりと笑ったときの表情がとても初々しい。
少年はエレノアの手を軽く取ると、ゆっくりと起き上がらせた。
なぜか茫然としているエレノアを、恐怖の余りと思ったのか、落ち着かせるように近くの平らな小岩に座らせると、あれは並の技では倒せない、この辺りは危険で、とても女性が一人歩けるようなところではない、自分は近くの村に住む者で、モンスター退治を兼ねてここに迷い込む旅人を助けたりしているのだというようなことを彼女に話した。
奥地の小さな村ならどこにでもあるような話である。
子供の国の英雄鐔。
だが誇らしげに語る少年の姿は歌劇でも観ているようで。希望に輝く瞳を飾る睫毛は意外と長い。思わず見とれる自分に気付き、エレノアははっと我に返った。
「怪我、ってねえ………私は平気だけど」
軽く溜息をつくと、エレノアは呆れたように少年の肩当てに手を掛けた。勢い良く地に伏せた時に打ったらしく僅かに赤くにじんでいる。本人はどうやらエレノアには隠すつもりだったようだが、下手な芝居は彼女には通用しない。
まったく…一人前に騎士を気取るつもり?
苦笑しながら、しかしエレノアは自分が今驚くほど浮かれていることを意識し始めていた。お気に入りの帽子が台無しになったことなど、すっかり忘れてしまうくらいに。
エレノアの手慣れた手つきや旅慣れた様子をを目の辺たりにし、少年は真っ赤になって彼女に訊ねた。
「あの…もしかして俺、余計な事しました?」
それには答えずエレノアは、少女のような笑みを返した。
余計な事?とんでもない、私には大収穫だわ。
エレノアは簡単に治癒の術を施すと、肩当てを元どおりに直し、ぽんぽんと軽く少年の肩を、何かのおまじないのように叩いた。
「ま、骨には異常ないみたいだからこれ位で大丈夫でしょ。あんまり無理しないようにね。」
それを子供扱いととったのか、少年はちょっとだけ拗ねたように、そして悔しそうに、ほんの僅かだが上にあるエレノアの顔を見上げた。
「これでも、村じゃ一番なのにな」
そんなこと判ってるわよ。
今までに何人もの戦士を見てきた。だから僅かな仕草一つでもその人の強さ…力量とか能力とかそういったものは大体判るつもりだ。寸前にグリフォンの迫った人間を避けさせる芸当は偶然に出来るものではない。
…でも貴方は判っていないでしょう?その若さでここまで強くなった自分の才能を。
そして今私が味わっている高揚感を。
今はまだ覚束ない部分も多いけれど、貴方はまだまだ強くなれる。もっともっと強くなる。
きっと世界を動かすくらいに。
それはもう直感である。だが確信に近い。最高級の原石との出会いに酔いしれるこの気持ちを、恋と言うのならそれは正しく一目惚れだ。
これだから探究心は止まらない。
だから私はやめられない。
少年の頭をくしゃりとひと撫でし、エレノアは一言だけ言った。
「世界は、広いんだから」
結局企画倒れになってますが実はこれは三部作にしようと思ってたものです。
そのくせsideとか言ってるのがわけわからない感じですがそれは気にしない方向で。
第2部はサルゴン視点で、エレノアと別れてエーデルリッターになるまでの話。
朝目覚めたらもうエレノアはいなくなっていた、とかそんなベタなノリ。
そして第3部はロベルトの話になる予定でした。
子供の頃にエレノアと会っていて、その術士としての魅力に惹き付けられて…みたいな感じの。
最終パーティの中で唯一何のしがらみも持ってないロベルトに、本人も気付かないところで
そういう形でしがらみがあったら面白いかもしれないとかそんなことを考えてました。