第1回パソコン要約筆記講習会の記録

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発表原稿

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発表原稿


パソコン要約筆記講習会

1.はじめに

 私はパソボラ・サポート群馬の副代表で、講習会などの企画およびパソコン要約筆記担当の種子田信宏と申します。
 パソボラ・サポート群馬はパソコンを通じて障碍者の社会参加を支援するグループです。以前よりパソコン要約筆記(以下PC要約筆記)に興味を持ち、研究をしてきました。また会のミーティングでPC要約筆記の試みを行って来ました。
 今回は講習会と銘打っていますが、まだ我々はとても講習といえるレベルのことを行える状況ではありません。今回はPC要約筆記がまずどんなものなのかを体験していただき、これから皆さんと一緒に勉強していきたいと思っています。よろしくお願いします。


2.情報保障とパソコン要約筆記

 視覚障碍者は視覚情報の認識が出来なく、聴覚障碍者は音声情報を認識出来ないために、不利益をこうむることが非常に多いわけです。そのような障碍者の知る権利のことを特に情報アクセス権と呼んでいます。そしてその情報アクセス権を保障するという意味で、情報保障と言葉がよく使われています。有名な情報保障活動には点訳や手話通訳があります。
 ところで聴覚障碍者にも様々な人がいます。生まれつきまたは小さいときから耳が不自由ですと手話が得意な人も多いので手話通訳は大いに役に立ちます。しかし中途失聴や難聴の人は手話は理解出来ない人も多く、日本語の文章なら理解出来る、という場合が多いのです。
 そのような人のための情報保障として、従来から幾つかの方法が取られてきました。
 まずノートテイクというのがあります。これは文字通りノートや小型のホワイトボードなどに講義の内容などを聞いて書きとっていく、という方法です。しかし1度に書く人は1人で、相当に要約しなくては話しに追いついていけない、沢山の人に見せることが出来ない、という欠点があります。
 次に手書きの要約筆記があります。これはオーバーヘッドブロジェクタの周囲を筆記者が囲んで、要約した内容を記述していきます。ノートテイクよりは速く書くことが出来て、沢山の人に伝えることが出来ます。
 そしてPC要約筆記があるわけです。しかしPC要約筆記と言ってもいろいろな方法があります。
 まずノートテイクをそのままパソコンに移し変えた方法があります。通常1人入力と言いますが、例えば1台のノートパソコンにワープロソフトを起動して、そこへ耳で聞いた情報を記述していきます。外部モニタやプロジェクタを接続して沢山の人に見せることも出来ます。しかし入力者が1人なので入力速度が限られ、疲労も大きいという欠点があります。
 そこで2台のパソコンを接続する2人入力という方法が考え出されました。2人入力ではお互いの画面を覗きこみながら、タイミングを計って聞いた内容を2人で入力していきます。1番単純にはRS−232Cのリバースケーブルで接続します。しかしこの方法では2人が疲れたらどうするかという問題があります。
 そこで今回会場で用意したようなLANを使って多数のパソコンを接続する方法があります。このシステムでは入力者1人に1台のパソコン(入力用PC)と、それぞれのパソコンの入力をまとめて、字幕を作成して出力するパソコン(字幕出力PC)が1台用意されています。
 この場合、2人入力を複数のチーム用意して、一定時間毎、例えば15分交代でチームを交代して入力することが出来ます。
 また今回用意した入力用ソフトでは、3人入力という方法も取ることが出来ます。これは2人が入力した内容を3人目がチェックして、その場で訂正をしたり、または出力されたものを、あとから訂正したりします。 このようにPC要約筆記には様々な方法がありますが、これ以降はこの会場のシステムを中心に話しを進めていきたいと思います。

3.PC要約筆記のハード・ソフト

 まずパソコンのハード面とソフト面について説明します。しかしこの点は実際には入力者全員が詳しい必要はなく、現場で設定出来る人が1人いれば済むわけですので、サラッと流したいと思います。
 パソコンのハードですが、まず必要なのは先ほども説明しました通り、最低限入力者の人数分+1台のパソコンが必要です。入力用パソコンは2台にして交代で入力すれば良いと思うかもしれませんが、パソコンのキーボードは特にノートパソコンでは機種によって違いますし、漢字変換ソフトや変換方式も人によって違うわけで、スムーズに交代して入力するのは難しいわけです。ですから1人1台必要になります。
 次に各パソコンを接続するのにLANの機材、具体的には10BASE−Tという規格のLANカード、ケーブル、そしてハブを用意します。これは後で見てもらいますが、非常に簡単に接続できます。また価格も最近は非常に安くなっています。
 そして液晶プロジェクターです。字幕を見たい人が少数の場合にはビデオコンバータという装置を経由して普通のTVに字幕を出力することが出来ますが、沢山の人が字幕を見る場合には必須となる機材です。PC要約筆記にはだいたい90万円くらいするものが使われます。
 次にソフトについてですが、まずLANにデータを流すときに必要となる通信手順、プロトコルと呼びますが、TCP/IPというものを使っています。これはインターネットでも使われています。 WINDOWSのコントロールパネルでネットワークを選ぶと、TCP/IPの設定について見ることが出来ます。インターネットにモデム経由で接続していると、「TCP/IP−>ダイヤルアップアダプタ」という表示があります。そこへ更にLANカードが入れてある場合「TCP/IP−>LANカード名称」となっています。この表示がない場合には追加ボタンを押して、サービスの中のマイクロソフトからTCP/IPを選ぶ必要があります。
 またPC要約筆記をするときには、LANカードのTCP/IPのプロパティの中のIPアドレスタブを選んで、IPアドレスを設定する必要があります。これは192.168.1.1から192.168.1.254までの間の254個のうちのいずれかの数字で、繋がっているパソコンの間では同じ数字にならないようにします。これはそのときのLANの組み方によって技術面を見る人が決めていますので、その指示に従って設定して下さい。またその下のサブネットマスクは必ず255.255.255.0にしておきます。
 さて、次に字幕出力PCのソフトについて説明します。このパソコンでは現在3つのソフトが動いています。
 1つめがきういです。これはチャットサーバと言われるソフトで、パソコン通信のNIFTYのチャットサービスと同じ仕様になっています。チャットというのは同じ時刻にパソコン通信に繋いでいる複数の人が会話を楽しむサービスです。PC要約筆記はNIFTYの障害者フォーラムという場所のチャットから始まった活動なので、このようなソフトが良く使われています。各パソコンからの入力データは全てこのチャットサーバが処理して出力しています。
 2つめが秀Termです。通信ソフトと呼ばれるソフトで、モデムやLANやインターネットを通じて文字情報をやりとりする、通信ソフトの一種です。きういからの情報のうち、字幕出力したいチャンネルのデータを受信しています。
 3つめがRTDです。これはPC要約筆記のために開発されたソフトです。秀Termのデータを受け取って表示します。その際、字幕として邪魔なWINDOWSのメニューバーやマウスカーソルなどを消したり、文字をスムーズスクロールさせたり出来るようになっています。
 さて、次に入力用PCについて説明します。今回は広島のPC要約筆記サークル、はまかぜさんのはまかぜ菜園セットというのを使っています。各ソフトの名前が野菜の名前になっているのが特徴です。第1入力者と第2入力者がキャベツです。それぞれの入力状況を確認しながら、耳で聞いた内容をタイミングを計って入力していきます。お互いの呼吸合わせが大切です。 キャベツの入力はそのまま字幕出力しても良いのですが、間違いがあった場合に訂正する余裕がないので、3番手の訂正者を用意できます。これがキャロットです。
 キャロットは1番と2番のキャベツが入力し終わるタイミングが違っても、順番を整理して出力することが出来ます。また内容をその場で訂正したり、または後で訂正の字幕を入れることも出来ます。


4.字幕入力者の技術

 PC要約筆記で最も大切で練習が必要なのが、入力者の技術です。そしてこの分野では我々はまだ全くの初心者と同じと言って良いでしょう。
 また入力者の技術には非常に幅広い知識と高い専門技術が要求されますので、今回は初歩の初歩として簡単に説明します。
 まずキーボードの入力は速くなくてはならないのは当然ですね。そこでまず入力者になる方は日常から練習していただかなくてはなりません。市販のタッチタイピング練習ソフトなどを利用するのも良いでしょう。またチャットに参加するのも一つの手です。
 そうやってとりあえずは最低でも、1分間に100文字は入力出来るようになって下さい。
 漢字変換には大きく分けてローマ字変換とかな変換がありますが、速度の面から見るとかな変換に分があります。ローマ字ではかな変換の1.7倍の入力を必要とするそうです。また頭の中でまずかなをローマ字に変換して入力し次に漢字に変換することになりますので、かな変換に比べて1段階余分な変換が入ります。漢字変換は長いフレーズを打ってから変換するのではなくて、1文節を打ってから変換するようにします。もし変換ミスがあったらカーソルキーを操作しなくてはならないので、入力が遅れることになります。
 また音読みで入力して変換しようとすると候補が沢山出てくるような漢字は、訓読みで入力したり、その漢字を1文字めに含む2文字の熟語をパンチして2文字めをバックスペースで削除する、といった工夫をすると速く入力出来ます。
 また話し言葉をそのまま入力しようとするとどうしても追いつかなくなります。そこで要約するわけですが、手書きの要約筆記の技術が大いに役立つそうです。本当にこういった技術は非常に幅広く、いくら時間があっても足りません。今後PC要約筆記の講習会を定期的に出来るようでしたら、じっくりと勉強したいところです。
 字幕入力の技術については、全国中途失聴・難聴者協会主催のPC要約筆記指導者養成講座の講演集に詳しく書いてあります。今回持ってきましたので、回し読みしていただいて、また販売もされるようですので、興味のある方は買ってみてください。
 それからパソコン要約筆記入門という本があります。PC要約筆記関係で非常に有名な東京の太田晴康さんという方の書いた本で、群馬でもカンコ堂のパソコンの棚にあったそうですから、買ってみたらいかがでしょうか。


5.PC要約筆記者は通訳です

 これはとても大事なことです。手話通訳について勉強した方ならお分かりでしょうが、様々な問題が出てきます。
 例えばいくら要約するといっても、会場の雰囲気をよく感じ取らなくてはなりません。会場で笑いが起きるような出来事があったら、それを伝えなくては聴覚障碍者が取り残されてしまい、通訳の意味をなさなくなってしまいます。
 プライバシーの保護についても考えなくてはなりません。どのような場面に行くかも判りませんし、あくまでも通訳なのですから、会議の主催者や字幕を見た人の秘密は厳守する必要があります。
 手話通訳とは違った問題も出てきます。
 PC要約筆記では入力した内容は保存出来るわけですが、この情報はあくまでも主催者や話しをした人のものです。勝手に持ちかえって見せ合ったり、印刷して配布することは出来ません。
 この通訳としての心得もこれから研究していかなくてはならない課題だと思っています。


6.PC要約筆記の活動グループ作りについて

 この項の内容は私が個人的に考えた内容が中心になっています。皆さんと討論して意見を集約して活動グループ作りを進めていかなくてはならないと思います。
 情報保障というのは知る権利であるのですから、活動するために高い料金を取ることによって、字幕を必要とする聴覚障碍者、または会議の主催者に大きな負担をかけるようでは、壁を作ってしまいます。 しかし一方、PC要約筆記には高い技術力と高価な機材、高度な入力技術を持った多くの人員が必要な活動です。無償ボランティアでは土日の活動がやっとでしょう。それでは情報保障になりません。
 また行政がこのようなグループを運営することも考えられますが、その場合公的な会議などにのみ派遣が限定されます。
 例えば大阪のPC要約筆記グループは選挙応援演説会へ字幕つけに行ったりしています。このような活動には行政から派遣することは無理でしょう。
 また東京では企業内の研修に字幕つけに行ったグループもあるようです。これも行政では無理です。
 このような穴を埋める方法が一つあります。それはNPO(特定非営利法人)です。
 NPOは公的な活動しか出来ない行政や、営利を追求する企業では難しい市民活動について法人化するもので、まさにPC要約筆記のためにあるような制度だと私は思います。
 昨年の12月より申請受付が開始され、今年の4月より認可が開始されています。県内でもいくつかのボランティア団体がNPO化され活動を開始しています。
 NPO法人化されることによってのメリットは、まず自治体や企業、団体の助成金や協賛金が受けやすくなります。助成金には任意団体を対象としないものが沢山ありますし、またNPOは活動状況や経理について公開しなくてはならないので、助成/協賛する側にとっても信用度が増すことになります。
 またNPOでは収益事業が認められていますので、何らかの収益事業を行って、本来の事業の活動資金に充てることが出来ます。既にNPO化された団体の話しを聞いても沢山のお金を集めることが出来て、本来の事業を円滑に出来るようになったという話しを聞いています。
 実はパソボラ・サポート群馬では以前からNPOの研究をしていて将来的にはNPOを目指しています。
 PC要約筆記だけのNPOを作ることも考えられますが、パソコンの技術力が必要なこと、マンパワーや資材の分散を避けるという意味からも、団体を分けることによるデメリットの方が大きいと私は考えます。
 ここにあるLANの機材もパソボラ・サポート群馬で用意できたものですし、液晶プロジェクタについてもパソボラ・サポート群馬で確保するメドがたったことを報告しておきます。
 そこで実際の活動のイメージですが、主な活動資金としては各種助成金や協賛金を集め、また何らかの収益事業も行えたら良いなと思います。それらの資金で機材を増やし、沢山の入力者を養成する講習会も企画します。また講習会の企画や派遣調整、技術支援などを行う専従か半専従のスタッフを雇用します。もちろんパソボラ・サポート群馬の中のスタッフなので、そちらの業務も行うことになります。そして入力者にはプロとして、せめてアルバイト代程度の謝礼を渡せるようにします。
 政府でもNPOでボランティア活動をする個人の生活費を補助して職業化する施策をとる検討に入った、と先日報道されました。
 このような仕組みによって、平日でも情報保障活動を行い、また会議の主催者や情報保障を必要とする聴覚障碍者の負担をゼロとするか、非常に少なくすることが可能になると考えています。
 これからの課題として、パソボラ・サポート群馬ではPC要約筆記の入力者を養成する講習会を月1回開き、PC要約筆記者派遣のグループ作りを進めたいと考えています。
 さて、ここまでが私の考えです。
 どのようにこれからの活動を行ったらいいのか、みなさんのご意見を聞きながら進めていきたいと思います。
 またよろしければ、是非パソボラ・サポート群馬の会員になっていただきたいと思います。


7.おわりに

 PC要約筆記については沢山のホームページがあります。とりあえずこちらを参考にしてみてはいかがでしょうか。それぞれリンクもあるので、沢山の情報が得られると思います。

 東京の太田晴康さんのホームページ
 http://www02.u-page.so-net.ne.jp/kb3/haruyasu/
 大阪のO−CAPのホームページ
 http://village.infoweb.ne.jp/~fwje3247/index.html
 広島のはまかぜのホームページ
 http://member.nifty.ne.jp/HamaKaze/

 これはPC要約筆記に直接関係ないのですが、各パソコンにFTPクライアントというソフトを入れていただけるとありがたいです。
 これはLANやインターネットで繋がったパソコンでファイルを送受信するためのソフトです。WINDOWSにもついていますが、DOS窓を起動して手で沢山のコマンドをパンチする必要があるので非常に面倒です。
 FTPを使ってPC要約筆記に使うソフトをお手持ちのパソコンに入れれば、フロッピーの用意の必要がありません。

 いままでのところについて、質問がありましたらどうぞ。
 休憩を挟んで、パソコンの設定の練習と入力練習をしてみたいと思います。

<終わり>


アルバム

 写真がとても重いので別ファイルになっています。


*終了している講習会ですので、申し込みはできません。

パソコン要約筆記講習会に
あなたも参加しませんか?



 パソボラ・サポート群馬ではパソコン要約筆記の講習会を、以下の日程で行います。皆様の参加をお待ちしております。

日  時:5月22日(土) PM1:00〜5:00
場  所:ハーモニー高崎ケアセンター(高崎市柴崎町) 3F会議室
内  容:LANの接続の仕方、パソコン要約筆記用のソフトの設定の練習、および入力練習。
参加申込:人数把握のため種子田までお願いします。
     TEL/FAX  ー削除ー
     電子メール ー削除ー
申込締切:5月20日(木)
備  考:ノートパソコンをお持ちの方はご持参下さい(FDドライブを忘れずに。またLANカードを用意出来る方は持ってきて下さい)。
 聴覚障害の参加希望者には情報保障を行う予定です。

※パソコン要約筆記とは、会議や講習会などの場で耳で聞いた内容をパソコンに入力して、字幕として表示する情報保障のための活動です。
 複数のパソコンを接続してチームを組んで入力していきます。

※パソボラ・サポート群馬とは、パソコンを利用することによって障害者の社会参加を促進するボランティア団体です。サポート会員、利用会員ともに年会費2000円です。サポート会員は連絡のためにインターネットの電子メールを利用出来ることが条件です。
 会のホームページはhttp://www3.wind.ne.jp/psv/です。

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パソコン要約筆記講習会申込書

         氏名:
   パソコン持ち込み:  ○    ×
  LANカードの有無:  ○    ×  (パソコン持ち込みの場合)
    情報保障の希望:  ○    ×


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