黒猫荘
(mobile版)

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カフェ「白梅軒」
オーナー:川口且真

(OPEN:1999年7月19日)

「白梅軒」へようこそ。

  5〜8件 
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4806. 2013年12月26日 23時33分03秒  投稿:かわぐち 
R・ウィトカウアー『アレゴリーとシンボル』(平凡社)読了。再読。ヴァールブルク・コレクションの一冊。
20年ほど前に読んだときとの違いはエル・グレコやデ・フォスについて述べられた後半の美術論が多少なりともわかるようになったことか。
それでも本書の「東方の驚異‐怪物誌に関する一研究」は怪物の記述の歴史を知る上で実によいレジュメであることを再認識。この部分だけでも読んでおきたい。

帰りに本屋で風間賢二『怪奇幻想ミステリーはお好き』を購入。来春からNHKラジオで放送のテキストだ。
これまで風間氏といえば幻想文学の第一人者のイメージだが、今回はミステリについてだという。
氏らしくゴシック小説から語りは始まるが、ホームズとルパン、押川春浪、谷崎、そして乱歩、正史とごくごく「まっとう」に幻想ミステリの歴史が語られるようだ。
もちろんラジオというメディア上、マニアには多少は…かもしれないが、テキストをぱらぱら見た限りでは、ところどころに「こんなものまで取り上げますか、風間先生」と言いたくなるところも。




4805. 2013年12月24日 21時46分16秒  投稿:かわぐち 
『百一夜物語』(河出書房新社)読了。
『千一夜物語』同様、シャハラザードが王に物語を聞かせる、という骨子を持ちながら、語られる話は一部重なってはいるものの別物という、「もうひとつのアラビアンナイト」だ。
『千一夜』が東方アラブで流通していたのに対し、『百一夜』は北西アフリカで伝承。こうした貴重な文献がアラビア語から訳されたというのは嬉しい。
しかし、正直な感想をいえば、面白さという面では『千一夜』に劣ると思わざるを得ない。
本書を読んでわかったのは、『千一夜』の入れ子状構造(Aの物語中でA'の物語が語られ、さらにそのA'中でA''の物語、さらにB''が始まり…)が構成の奥行きをつくっているということ。
さらに、一つの話が終わると、『千一夜』では「しかしこの話(前話)も、○○に起こった話ほど不思議なものではありません」「それはどういう話なのだ?」という具合に〈引っ張り〉が上手い。このあたりが『千一夜』が長年にわたって編成され語り継がれてきた〈進化〉なのであろう。

さしずめ『水滸伝』の次回へのつなぎ方−−「武松がこの人に出会ったために、やがて陽穀県に屍、血に染まって横たわり、はては鋼刀の響くところ人の首はころがり落ち、宝剣のふるうところ熱い血は流るるという次第になるのであるが、いったい武都頭をよびとめたは、いかなる人であったか。それは次回で。」を想起させる。
こういうのが語り物の上手さだなと。
4804. 2013年12月21日 18時59分27秒  投稿:かわぐち 
『ボルヘスと推理小説』(エディション・プヒプヒ、自費出版)読了。
ボルヘスによるミステリ書評を中心に編まれた本。「新刊」として、イネス、カー、クィーンなど黄金期(1930年代後半)が語られる。その他、カイヨワとの論争、対談、詩とミステリと充実の内容。造本も良いセンス。
惜しむらくは訳文が硬すぎて、ちょっと読書の気負いを削がれる箇所も。しかし、商業出版の物差しで自費出版物を計るのは酷というものだろう(これよりひどい訳文が商業物の中にいくらでも見つかる)。私は発行者に感謝と敬意を表したい。
なお、ネットで調べても、今現在でも入手可能かどうかはわからなかった。私は先日、古書ドリスにて購入。

4803. 2013年12月21日 00時07分42秒  投稿:かわぐち 
ピエール・マッコルラン『アリスの人生学校』(学研)読了。緑色のインクも美しい本。
アリスが友人から借りたヴォルテール『カンディード』(禁書)、それがこんな事態に発展していこうとは…。
翻訳題名からてっきり性の好奇心、偽善への風刺等を描く艶笑・好色小説だと思っていた。しかし、話はかなり笑えぬ被虐小説。児童虐待(アリスは18歳ですが)とさほど変わらない。
本書は「奇談クラブ増刊号」1953年に掲載されたもの。名はよく知られており、澁澤龍彦も『読書の快楽』中「ポルノグラフィー ベスト50」に入れている。そこで澁澤は「まあ上品なマゾヒズム小説というべきかもしれない」と書いているが、虐待を受けるアリスはなんら快感を覚えているようにはみえず、むしろ彼女を虐げる側のサディズムの悦びであろう。
これまで何度も書いてきたが、私はポルノ小説の面白さは、我々が縛られている道徳・通念への疑義だと思っているので、そういう意味では本書は期待に適うものではなかった。しかし、かといって私は本書を夢中になって読んでしまったのだ。

もののついでに言っておくと、私に価値転換を引き起こさせた傑作小説として、サド『悪徳の栄え』とならんで挙げたい本がある。それは池田得太郎『家畜小屋』だ。この人が自ら豚として生きる(比喩ではない)ことを選び取る小説は私の心に今でも楔となって打ち込まれている。

[NAGAYA v3.13/N90201]