黒猫荘
(mobile版)

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THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚

WELCOME TO “THE TELL−TALE HUT”

  77〜80件 
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139. 2005年03月05日 10時28分52秒  投稿:庵本譚 
1月31日「怪人フー・マンチュー」サックス・ローマー(ポケミス)

ずばり、中国人が犯人です。未知の毒薬もでてきます。二十則も十戒もクソ食らえな
「歩く黄禍」、怪人フー・マンチューここに登場!
何が驚いたといって、1960年代の直前までこのシリーズが書き続けられていたこと。
キャプテン・フューチャーのウル・クオルンも、きっとこの怪人が原型に違いありません。
長編ではありますが、今ならさしずめ連作長編と銘打たれるべき内容で、探偵と犯人のみ
が共通で、様々な他の登場人物が不幸な目に逢います。探偵も相当に痛めつけられます。
それでいて、この怪人、なかなか憎めません。ラストで、罠を罠と心得て乗り込んでくる
その動機の「フェアネス」ぶり、その悪の美学に拍手を送る人も少なくないのではない
でしょうか?私は、同じ東洋人として、ついフー・マンチューに肩入れしたくなりました。

138. 2005年03月05日 10時28分23秒  投稿:庵本譚 
1月30日「マスカレード」井上雅彦編(光文社文庫)

異形アンソロジーの21冊目。芦辺拓の探偵幻想譚が、律義な本格ものを書く
時とはまた別の遊び心炸裂でファンとしては堪らないところ。田中啓文の作品は
筒井康隆の「メタモルフォセス群島」を思わせるホラーSFで、生理的嫌悪感
極大。「牡蛎のように口を閉じて」というオチを何故書かなかったのか御本人に
聞いてみたいところ。鯨統一郎は「決戦!プローズボール」を思わせる異形の
「勝負」もの。○○で勝負だ!という馬鹿馬鹿しさを追求するとこんな話に
なりました、といった感じ。都市伝説をマジメに具象化した町井登志男の
「マスク」もアイデアの勝利。演繹的作劇法ですね。倉阪鬼一郎と牧野修は
さすがの出来映え。どちらも再読ながら感心。ベストは高野文緒の偽史もの。
難波弘之作品も悪くないのですが、世界の作り込みで高野文緒に軍配。
貫禄が違います。
137. 2005年03月05日 10時27分27秒  投稿:庵本譚 

1月29日「密猟者たち」トム・フランクリン(創元コンテンポラリ)

巻末の表題作がMVAの短篇賞を受賞したというので、この叢書を初めて手に
とってみました。
結論から申し上げると、この作品集は素晴らしいです。
普通小説も混じっているので、純粋にミステリを楽しみたい人は、暗澹たる
労働者クライムノヴェルである「グリッド」と、オカルト風味のマンハント
小説「密猟者たち」を読んでおけばいいのでしょうが、序として綴られた
懐旧談「ハンティング・シーズン」を読むだけで、「ものが違う」と唸らされる
こと必定。そこに描かれた南部の情景の鮮やかさは、ただのアウトドア好きが
趣味の赴くままに綴ったエッセイとは志の違う、無作為の作為の境地が可能と
するものであります。正しく匂い立つような自然の姿がそこにはあります。
幻想味あふれるガソリン・スタンド奇譚「ダイノソア」も、ブラッドベリの
新作ですよ、と言われればそのまま鵜呑みにして「巨匠健在!」と叫びたく
なってしまう程の出来映え。
いやあ、こういう作品に出会えると、自分の知らない作家を開拓するのも悪く
ないと思えるのでありました。
136. 2005年03月05日 10時27分00秒  投稿:庵本譚 
1月28日「まほろ市の殺人 秋 闇雲A子と憂鬱刑事」麻耶雄嵩(祥伝社文庫)

<まほろ市>4部作の「秋」の部。
まるで山村美紗サスペンスの主人公を思わせる女流推理作家と、名探偵を妻に
もってしまったメランコリーな刑事が無理矢理コンビを組んで、まほろ市を
襲った謎の連続殺人の犯人と動機を追う中編です。
作者のサービス精神は、更に二十面相タイプの怪人も登場させ、事件に花を
添えますが、なにせ、この作者のこと、この短さの中に、きちんと「らしい」
仕事をしてみせています。
連続殺人のミッシングリンクが、明かされた瞬間、お得意の罠が作動します。
まあ、いつもの無茶苦茶です。はい。

[NAGAYA v3.13/N90201]