黒猫荘
(mobile版)

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THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚

WELCOME TO “THE TELL−TALE HUT”

  73〜76件 
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143. 2005年03月05日 10時31分00秒  投稿:庵本譚 
2月4日「ふたりで泥棒を」ホーナング(論創社)

オールド・マニアにとっては、創元推理文庫のシャーロック・ホームズのライヴァル
たちで唯一未刊に終わった作品として記憶されている「ラッフルズの事件簿」。
ある意味で「幻の逸品発掘」という論創社の新叢書を代表する作品かもしれません。
原典に忠実に3巻本にした理由は読めば分かりますが、薄手のハードカバーを
見た際には「けちけちせずに1巻本で出してくれよお」と思ったものです。

かつて原書で一編だけ読んでみたのですが、怪盗ルパンの颯爽を期待したばかりに
はっきり言って失望に終わりました。ですが、改めて日本語で読んでみると、
それなりに楽しめてしまうから不思議です。確かに、謎は小ぶりだし、盗み技が
華麗なわけでも、ツイストが効いているというわけでもありません。
なにせ所詮、学生バイトのアマチュア盗人ですからして、失敗も多いですし、
しくじった挙句に、非業の死まで遂げてしまいます。あららら?
ただ、バーニーとラッフルズの長閑な友情関係は、どこまでも微笑ましく、
このシリーズをヤオイ向き(意訳)と喝破した横井司解説には大いに首肯して
しまいました。
ベスト作品は、プロの盗賊の技が冴える「リターンマッチ」でしょうか。
長きにわたって「東京創元社は『ラッフルズの事件簿』を出せええ!」と
知ったかぶりで叫んできたマニアは、3巻、耳を揃えてこうてもらいまひょ。
142. 2005年03月05日 10時30分26秒  投稿:庵本譚 
2月3日「トフ氏と黒衣の女」ジョン・クリーシー(論創社)

下層階級とのお戯れが趣味の貴族探偵と彼に連れ合いの命を奪われた女ギャング
のつばぜり合いを描いた古式ゆかしいクライム・ノヴェル。「トフ氏」という
キャラクターの紹介編としての意味はある、といった程度の作品で、2000円
のハードカバーで出す必要はなかったんじゃないでしょうかね。ただ、期待値を
下げて読んでいたので、最後の一捻りには少し驚かされました。さすがに多産作家
にも多産作家なりの意地はあるといったところでしょうか?
余り続きを読みたいという気にはならず、勿論ジョン・クリーシーを原書まで
あたって読む必要も(わたしにとっては)ない事も判って、それはそれで意味の
あることなのかもしれません。
141. 2005年03月05日 10時29分57秒  投稿:庵本譚 


2月2日「ふたりジャネット」テリー・ビッスン(河出書房新社)

ラファティのトンデモに日常のエッセンスを加えた法螺話系小説集。
スーパー中国人ウィルスン・ウーが活躍(?)する連作3中編の騙り口が圧巻ですが、
大西洋を巡航するイギリスやら、田舎街にわらわらと集う著名小説家やら、奇想と
いうよりはバカ話を支えるのほほんとした雰囲気に癒されます。
かと思えば、ヒューゴとネヴィラを獲得した出世作「熊が火を発見する」や、
臨死実験に巻き込まれた<盲目の画家>を描いた「冥界飛行士」のように、死を巡る
ざらっとした読み心地の作品も巧みで、ユーモアSF作家のレッテルを拒否している
ようにも感じました。
マキャモンのイマジネーションが紡ぎ出すどこにもない「南部」や、ざっくりと
鋭利なナイフで切り出されたようなトム・フランクリンの荒ぶる「南部」とは異なる
天然「南部」のイメージもありますが、要は器用な人なのでしょう。

140. 2005年03月05日 10時29分33秒  投稿:庵本譚 
2月1日「ドクトル・マブゼ」ノルベルト・ジャック(ポケミス)

銀幕を代表する犯罪王のドイツ代表、ドクトル・マブゼの原作本登場。
南米での「一大帝国」建設を夢見、催眠術を操り、欧州諸国の経済を逆手に
とって荒稼ぎする犯罪界の黒幕ドクトル・マブゼ。その手口は冷酷非情、
そして神出鬼没の変装の達人。滅びに向う共和国の正義の権化・ヴェンク検事
との智謀と体力の限りを尽した闘いには、なるほど今なお読むに耐えるだけの
エンタテイメント性があります。原文の大時代がかった味をそのまま置き換えた
訳文が、これまた「珍」。「鋼鉄!鋼鉄!鋼鉄!」ですもんね。
また哲学的(?)な会話がなんとも独逸文学であります。こういう小難しい
言辞を弄しながら、国家社会主義独逸労働者党の躍進を許してしまう国民性と
時代の空気を伺うには格好の読み物でありましょう。とはいえ、万人にオススメ
できるものでもなく、心の広いすれっからしのミステリマニアが、待望論のつけ
を払うために読んでおけばいいお話なんでしょうね。

[NAGAYA v3.13/N90201]