黒猫荘
(mobile版)

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カフェ「白梅軒」
オーナー:川口且真

(OPEN:1999年7月19日)

「白梅軒」へようこそ。

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4737. 2011年12月29日 00時12分30秒  投稿:かわぐち 
12月26日
某社の単行本校閲を終え、届ける。代わりの仕事を受け取り、結構シビアな締め切りなのだが、森アーツギャラリーの「歌川国芳展」へ。
前期・後期あわせて四百数十点の作品が並ぶ大展覧会。まずは入場者の数に驚かされる。
驚くほど状態がいい。国芳の肉筆画を観るのは初めてではなかろうか。
展覧会としては充分満足のいくものであった。ただ、同館の係員は絶えず笑顔で、言葉遣いこそ丁寧なものの、端々に「客ごときが私たちの円滑な業務の邪魔になるようなことするんじゃないよ」という臭いを感じさせた。
最近、こんな経験って(海外を除いては)あまりしたことなかったな。
図録(2500円)、絵葉書、クリアファイルを購入。
その後、京王百貨店の古本市(初日)へ。某氏も書かれていたが、やはり買ってもいいけどレジに並んでまでは・・・・・・という気がして、何も購入せず。

読了は、
フリッツ・ライバー『跳躍者の時空』(河出書房新社・奇想コレクション)
しばらく読むのを中断していたシリーズを再開。でも、今年は1冊も出なかったようだ。
本書とテリー・ビッスンで刊行分は追いつくが、このシリーズ自体、『たんぽぽ娘』で終わってしまうのかな(ちょうど20冊になるし)。
ガミッチという名の猫を主人公にした連作5編と他5編。
本来ならヒューゴー賞・ネヴィラ賞ダブル受賞の「骨のダイスを転がそう」がイチオシの傑作なんだろうけど、いかんせんギャンブルを知らない私には、ルール自体がわからない。
読んでいて「ああそうだ、こういう本が好きだったんだ」と思い出させるような、なつかしい気持ちになりました。
「異色作家短編集」の続巻を読むような気持ちというのが一番近いかも。

DVD「35大スーパー戦隊主題歌全集」購入。
年齢的にもほとんど観ていないシリーズですが、唄は結構好きで、携帯音楽プレーヤーに入れて聴いています。
で、どうにもこれが気になって注文しちゃいました。はまってます。
4736. 2011年12月23日 00時11分57秒  投稿:かわぐち 
12月17日
茨城県近代美術館へ。開催中の「ウルトラマン・アート展」を観るためだ。
会場入り口には撮影可能な人形たち。ちゃぶ台のメトロン星人もある。さすがに並んで撮ることはしなかったが、それでもカメラには収めた。
展示はデザイン画や撮影に使用されたもの、あとから復元したものも含めて撮影小道具が並ぶ。
三鷹の「怪獣と美術 成田亨展」や練馬の「高山良策展」で観たものが多かったが、それでも感動。
ずらりと並んだ放送台本のレタリングにさえ感動してしまう。
ショップでは図録のほか、今回復刻された駄菓子屋の5円ブロマイド(値段は30枚2625円もするけど)、クリアファイル、科特隊のピンバッヂ、絵葉書を購入。
こうしたサブカルチャー関連の展覧会は、単なる客寄せのイメージもつきまとい、デパートならいざしらず、公立美術館での開催には賛否両論あることも確かだが、今回の企画は良かったのでは。

読了本。
由良君美『椿説泰西浪漫派文学講義』(青土社) 再々読。やはり名著。
ハンス・H・ホフシュテッター『象徴主義と世紀末芸術』(美術出版社) 再読。名著。

ブラム・ストーカー『ドラキュラ』(水声社) 4回目か5回目の通読。今回は、新訳の「詳註版」である。目当てはこの註のほうであった。
古い怪奇小説の古典のイメージがある同書であるが、実は書かれた当時の最新の世相が反映された小説なのだ。
エジソン発明の蝋管による録音機、電信が登場、狙われるミーナは、速記もタイプもこなすキャリアウーマンである。
私がそういう面からの研究を知ったのは高山宏『世紀末異貌』(三省堂)であったが、現在の読み方としてはこれが「当たり前」のようだ。
ホームズ談も時代を同じくするだけあって、両者に通底する文化的コンテクストは少なくない。
ストーカーのミスか、なにか吸血鬼伝承の意味づけがあってのことか、ルーシーが吸血鬼に襲われたあとは金髪が黒髪に変わったことは、これまでに気づかなかった「発見」であった。
といっても、註を読むまでは見過ごしていたんだけど。
それにしても小説のドラキュラは、本当に活躍の場面が少なく、最後もあっけなく倒されてしまう。どの吸血鬼映画よりも見せ場が少ない気がするぞ。

ウィリアム・コッツウィンクル『ドクター・ラット』(河出書房新社)
何年も読みたいと思っていた本であった。原著が出版されたのは1977年。
私は知らなかったが、サンリオSF文庫が創刊されたときの刊行予定にも挙がっていたそうだ。
コッツウィンクルといえば、ノベライズ『E.T.』ばかりが長らく日本では有名であった(実際、これは傑作!)。
その後も数作翻訳されてはいるが、こちらが小説離れをしていたため、読んでいない。
さて、本書だが、実験動物の悲惨さを描く場面はグロテスクな描写が続く。主人公「ドクター・ラット」はその研究室の実験材料としていじくられ、知能は異常に高くなったネズミである。
物語は、このドクターの語りを中心に、虐げられた動物たちがやがて人間に反旗を翻し、その結末を描く。
期待が大きすぎたのと、正直、現実に起こっている動物実験を止める手段も持たない私には、読んでいて決して愉快な体験とはいえなかった。
問題作ではあるが、難民問題や宗教紛争の話を好んで読みたい気がしないのと同じだ。
文章は美しく、それだけに悲壮感が漂うものになっている。私は丸山健二『千日の瑠璃』の文体がオーバーラップしてならなかった。


4735. 2011年12月03日 21時02分43秒  投稿:かわぐち 
■ヘンリー・ウェルカム・コレクション(Henry Wellcome Collection)
薬物商ウェルカムが世界中から集めた医学・民俗コレクション。
その内容は"MEDICINE MAN"(The British Museum Press,2003)ISBN0-7141-2794-9にもなっており、クエイ兄弟の「ファントム・ミュージアム」では映像として紹介されている。
日本でも一昨年末「芸術と医学展」でそのコレクションの一部が来日・公開されたが、MEDECINE MANを見ている私には、全貌を伺えない失望気味の展覧会であった。
今回、ようやく本家を訪れたわけだが・・・・・・感想は、「え? これだけ?」というものであった。
先にピット・リヴァースやハンタリアンを見てしまうと、その量の少なさにがっかり。
よく工夫された見やすい展示であることは確かなのだが、そこには「管理」という言葉がただよっている。
一般的な啓蒙にはこのほうがふさわしいのであろうが、私が求めている「驚異の部屋」には「狂気の部屋」と置き換えてもよいだけの情熱が不可欠であったのだと、同コレクションを見ることで、逆に知ることができたようだ。
ショップは充実しているが、目に付くような本はほとんど所持していることを持ってしても、前回との情報伝達の格差がわかる。
昔はこうしたところで知らない本はないかと探し回り、重い本を抱えて、高い郵送料で送ったり、腕がちぎれそうになりつつも持って帰国したものだったが、今はほとんど必要ない。

■ジョン・マーチン展(於テート・ブリテン)
今回の旅行の発端となった展覧会。やはり実物は画集とはまるで違う。
面白かったのは、マーチンの絵は音楽やライトで演出され黙示録を説く「見世物」的に使用されたことがあるのだが、今回の展覧会ではその再現があったことだ。
日本でも地獄絵などが仏教の教えを説くという「見世物」になっていたことと同様だ。
念願かないジョン・マーチン世界を堪能できた、私にとり有益な展覧会であった。
ショップには、日本の河出や京都書院から出版された「マーチン画集」も販売されていた。
そういえばモンス・デシデリオの画集も英語版はないらしく、米国アマゾンでは河出版が売られている。
こうした画家の展覧会が日本でなぜ開かれないのか不思議にさえ感じる。
デシデリオはケンブリッジ・フィッツ・ウィリアム美術館に代表作「聖堂の崩落」があるのだが、同館では絵葉書も売られておらず、Scalaから出版されている美術館の美麗ガイドブックにも載っていない。
どうも評価(人気というべきか)にかなりの隔たりがあるようなので、いっそ人気の高い日本でのみの展覧会してもいいのになぁ(権利・交渉等わからぬシロウト考えですが)。

そして、どうしても言いたいことは、テート・ブリテンの常設。
ターナーを中心とした「英国ロマン派」のコーナーは確かに充実している。
しかし、せっかく「テート・モダーン」を新設したのに、現代美術を多く置き、ラファエル前派やフランシス・ベーコン、リチャード・ダッドの絵を掛けない姿勢に強く疑問。
ダッドは同館は11点を所蔵しているはずだが、かかっているのは特におとなしい「自画像」1点のみ。代表作「フェアリー・フェラーズ・マスター・ストローク」も掛かっていない状態だった。
家人はわざわざ職員をつかまえて問いただしたようだが、新しい館長の方針で、所蔵はしているものの掛けていないとのこと。
だったら「モダーン」と別にした意味がない。とにかく、テート常設は、今回の旅行の中でも最大の「ガッカリ」だった。

■ロイヤル・パビリオン(The Royal Pavilion)
イングランド南のリゾート地バーミンガム(ロンドンから電車で1時間と少し。日本いえば江ノ島?)にある、ジョージ4世による宮殿。
その外観はアラブ=イスラム風、そして内部はといえば、シノワズリー(中国趣味)の極地ともいえるものでした。
その徹底振りがすごい。特にバンケティングルームという大食堂は内装・家具・照明にいたるまで鳳凰・蛇・龍の意匠を尽くしている。
ベトナムのカイディン朝の宮殿は、東南アジアにありながらヨーロッパ様式を過剰に取り入れた建築であったが、こういうものを見られるのは人生の喜びだ。
ショップで購入したガイドブック"The Royal Pavilion Brighton: The Palace of King Geoge IV" ISBN0-948-72321-1は5.95ポンドと廉価なれど、美しい写真も豊富な本。
ちなみに隣接したブライトン博物館、どうせ地方博物館、ウェイクフィールドのようなものだろうとタカをくくって入ったら、意外なほど質が高く、展示方法も気が利いたセンスのある博物館でびっくり。

その他、もちろん有名な観光地もまいりましたが、そちらはたぶん家人が書くでしょうから、私は省略。

出発から帰国していままでの読了本は、
長谷川如是閑『倫敦!倫敦?』(岩波文庫)−岩波『長谷川如是閑集』にも抄録であったものの完全版。でもこれを文庫にするほど広い需要があるとは思えないんだけどな。もちろん文庫になっていなかったら、私も読むことはなかったとは思いますが。
由良君美『ディアロゴス演戯』(青土社)−再読。イギリスロマン派の知識の整理のため。あらためて由良氏の本が絶版というのは惜しい気がしてならない。いま再々読している『椿説泰西浪漫派文学講義』など、いまでも教えられることが多い名著だと思う。この本なんて、筑摩、講談社学芸、岩波現代、どの文庫に入ってもおかしくない気がするのだが。
4734. 2011年12月03日 21時02分02秒  投稿:かわぐち 
なにはともあれ、これで一安心したので、イギリス印象記でも。
以前にも書きましたが、私が前回訪英したのは21年前。そのときはロンドンのみ14日。
今回は、ブリットレイルパスを購入。ロンドンのホテルを起点に鉄道で東西南北日帰り旅行を繰り返してきました。
私なんかがいまさらカンタベリ大聖堂やストーンヘンジ、聖ポール寺院などを見てきた話を書いても仕方がないと思うので、観光客がそうは行かないだろうと思われる場所の記述に留めます。

■ベスレム王立病院(The Bethlem Royal Hospital Archives and Museum)
ロンドン郊外にある最古の精神病院。日本でいえば松沢病院?
そこにはここに入院していた患者による、いわゆるアウトサイダー作品がある。行ってみると10畳くらいの1室があるだけ。
当然、作品が数多くあるわけでもなく(所蔵は多いようだが展示できない)、駅からわざわざバスに揺られていくにはちょっとおすすめしかねるというのが正直な感想。話のネタにはなりますが。
リチャード・ダッドファンには聖地なのかも。私はWilliam Kurelekという人の作品に惹かれました。山下菊二に似てるかな。もちろんジョナサン・マーティンの作品が観られたことも満足。
ただそこで購入したパンフ、本は充実の内容。
パンフは"The Bethlem Royal Hospital: An Illusutrated Hinstory"(ISBN0-9511782-6-1)
本は"BETHLEM HOSPITAL 1247-1997: A Pictorial Record"(ISBN1-86077054-1)
著者はどちらもPatricia Allderidgeという人で、同館のキュレーターらしい。特に本のほうは同館所蔵の作品の図版が多く掲載されている。

■Pitt Rivers Museum
今回知らずに行った最大の<発見>がここ。場所はオックスフォード自然史博物館の内部に入り口があるという、博物館内博物館。
『地球の歩き方』はもちろん、私の最大の「ネタ本」ともいえる"Weird Europe"にも紹介はなかった。
19世紀の英国軍人ピット・リヴァースが世界で集めてきた物をオックスフォード大学に寄贈したことから始まったコレクション。
いま「物」と言ったのにはわけがある。本当にこれは武器、楽器、衣装から歯ブラシ、櫛、お守り、阿片パイプにいたるまで衣食住すべてに関わる「ごった煮」状態のコレクションなのだ。
アフリカの民族の化粧に使われる染料の隣にはインドで子供が遊びで使うらしい「化粧セット」が並んでいる。
私が見ていて思い出したのは、昔、浅草に白熊の剥製があった骨董屋をご存知であろうか、あの雰囲気である。
なかでも最大の呼び物となっているらしく、私もまた目を見開いたのは「干し首」のコレクション。
これについては単独のパンフレット"Shrunken Heads"も発行されている。
とにかくまさにWunderkammer(驚異の部屋)と呼ぶにふさわしく、今回の旅行はここを見ただけでも来た甲斐があった気になった。

オックスフォードといえば、アシュモリアン美術館があるが、こちらも予想以上の充実ぶり。じっくり観ていたのでは1日がかり(実際、家人はここに1日いました)。
特に絵画部門がここまで充実しているとは思いも寄らなかった。

■ウェイクフィールド博物館(Weikfield Museum)
ヨーク州ウェイクフィールドにある地方博物館。実際、展示は古びた地元の歴史を紹介するものがほとんどで、わざわざここに足を運ぶ観光客はまずいないはずだ。
しかし、ここには他の博物館にはない特別のものがある。
それは、19世紀初頭の探検家チャールズ・ウォータートンのコレクションだ。
なかでもウォータートンはフェイク怪物のコレクションを持っており、それを実見することは長年の私の夢のひとつであった。今回レイルパスのおかげでそれが実現できたわけだ。
大きな怪物剥製は4体。そのうち3体は『万国怪物大博覧会』(南方堂)にも写真があり、他の本でもよく見る「おなじみ」のもの。1体はジャイガー(大映『ガメラ対ジャイガー』の怪獣)に似ているかな。
その上にいうのはバラゴン似。写真撮影はOKでしたが、光源が悪く、ガラスケース越しなのでストロボもうまくいかない。
特に暗いノンディスクリプト(ギアナの雪男のような類人猿)は懐中電灯を口にくわえての撮影。地元の親子連れくらいしかこない場所でこんなことしている東洋人は、さぞかし変にみえたでしょうね。
残念ながら博物館で買える絵葉書も資料もなし。
ウォータートンについては、Brian Edginton "Carles Waterton: A Biography"(The Lutterworth Press, 1996)が出ている。

■ハンタリアン博物館(Hunterian Museum)
この博物館のことは21年前に訪英したときから知っていた。どうしても観たくて電話をしたが埒があかない。それでも諦めきれずに住所を頼りに出かけたが、結局観ることはできなかった。
その後、観たという話を目にすることがしばしばあり、不思議に思っていたのだが、どうやら2003年くらいにリニューアルして一般に公開するようになったようだ。
21年目のリベンジとして出かけた。
こ、こ、これは・・・・・・圧倒される標本壜の数。その中には人体、両生類、昆虫、節足動物にいたるまで解剖標本が。
一見何だかわからずに見ていた標本が、足の甲から先だけの標本だとわかったり・・・・・・。
この手のものは決して少なからぬ数を見てきたはずだが、それでも夢に出てきそうだなと衝撃を受けました。
サンクトペテルブルクのクンストカマーを軽く上回る質・量。きちんと数を数えたわけではないのですが、標本に記されているナンバーは3000を超えていました。
ショップでは絵葉書や本も売っていますが、さすがにエグイ写真が載っているものはなく、同館のガイドブック"Hunterian Museum at the Royal College Surgeons" ISBN978-1-904096-79-1にも普通の医学博物館的な写真しかありません。
なにより驚いたのは、その人気ぶり! こんなところ、私以外は1人か2人しかいないだろうと思っていたのに、平日の昼間2時だというのに20人は超す人間が、それも年配女性が一番多く来ているではないか。

[NAGAYA v3.13/N90201]