黒猫荘
(mobile版)

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THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚

WELCOME TO “THE TELL−TALE HUT”

  69〜72件 
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147. 2005年03月05日 10時32分46秒  投稿:庵本譚 
2月6日「ロッポンギより愛をこめて」東郷隆(角川文庫)

読んでいるようで、実は最初のドクター・プーハオしか読んでいなかった定吉七番
シリーズの第2巻。(第2作は、第1巻収録の「オクトパシーたこ焼娘」)
関西経済滅亡を目論むNATTOが、関西財界面目丸潰れ計画の標的に選んだのは
大阪商工会議所所属、殺しの許可書を持つ丁稚・定吉七番。
東京から大阪まで、女子大生警護の任務の裏に仕組まれた罠また罠。
襲い掛かる殺人マシーン・赤坂一号。そして、色仕掛けで定吉に迫る赤坂5号。
定吉七番、危機一髪!
聖典のプロフェルドに相当するNATTO幹部の生き様がなかなかのもので、
更に、その相方を務める老芸者の妖怪ぶりがなんとも素敵です。
存分に聖典の設定を活かしながら、性典に昇天せしめた技はお見事の一言。
本歌が007映画の中でも、最もファンに支持されている作品なだけに、作者の
力量が問われるところを、鮮やかな包丁さばきで乗り越えています。やんややんや。

そやけど、ほんまの世界に目え向けると関西経済はNATTOの策謀もへったくれも
なく、凋落の一途を辿っており、その落ち込みようたるやMI6の比ではおまへんねん。
ああ、定吉七番、かむばっくや。らいんばっくは阪神や。
146. 2005年03月05日 10時32分23秒  投稿:庵本譚 

2月6日「最高の悪運」ドナルド・E・ウエストレイク(ミステリアスプレス文庫)

オールスターキャストで描くドートマンダー・シリーズの(翻訳された中では)
最新作。プロの泥棒が、空巣に入った先で主人の逆襲に遇い、警察に突き出された挙句、
自らの幸運のお守りである指輪まで奪われるという屈辱、その恨みを晴らすために、
ドードマンダーは全米でその名を知らぬものなき大実業家に戦いを挑みます。
徐々にエスカレートしていく盗みの規模、けちな空巣に始まり、最後はラス・
ヴェガスの一流ホテルのカジノ襲撃で幕を閉じるというエスカレーションぶりは
「ホット・ロック」を思わせる展開。そして、この物語の最大の魅力は、
ドートマンダーが指輪奪回にしくじるたびに、余録の方が膨れ上がっていくという
ドートマンダー・シリーズ「らしからぬ」展開にあります。
自己パロディの感もありますが、やはりこういう話を書かせるとこの作者の
右に出る人はいないなあ、と思い知らされました。
145. 2005年03月05日 10時31分52秒  投稿:庵本譚 
2月6日「喪失の儀礼」松本清張(新潮社)

「松本清張の本格推理を探せ!」キャンペーンでのオススメ本。

舞台は名古屋で開かれた学会。事務局の用意した宿をキャンセルした壮年の勤務医が、
別のホテルの一室で死体となって発見された。死因は失血死。手首を切ったうえ、
浴槽につけ時間を掛けて命を奪う、そんな手の込んだ殺害方法の意味とは?そして、
被害者を呼び出した謎の女の正体とは?捜査陣は、被害者が選者を勤めていた俳句
同人の一人の女性に的を絞るが、彼等の前に姿をあらわしたのは、刑事たちの
想像を裏切る人物だった。やがて捜査が暗礁に乗り上げた頃、都内に住む開業医が
土地鑑のない場所で殺害される。二つの事件を繋ぐ細い糸を辿って、名古屋と
東京の捜査陣は関係者を洗うが、そこには鉄壁のアリバイが待ち受けていた。

なるほど、これは大当たりでした。
クロフツや鮎川哲也とは一味ちがうクリスティー流の仕掛けが鮮やかに決まった
快作です。と、書いてしまうと、勘のよい人には判ってしまうかなあ。
「社会派」の「社会派」たる所以を逆手にとった作品で、清張作品を読みつけて
いればいるほど、サプライズが大きいかもしれません。幕切れが非常にあっさり
しているところも、本格推理としての潔さを感じます。未読の方は是非、
お試しください。
144. 2005年03月05日 10時31分29秒  投稿:庵本譚 

2月5日「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎(東京創元社)

創元フロンティアの第一回配本として叢書の船出を支え、吉川英治文学賞を獲り、
昨年のベストを総なめにした一昨年の作品。
時制をシャッフルして、超絶技巧の奇跡をみせた「ラッシュ・ライフ」に比べれば
随分と普通のバリンジャータイプのお話なのですが、さすがに小説巧者の伊坂先生、
背中に苔の生えたミステリ読みの度肝を抜くだけの仕掛を施しています。
主人公たちの奇矯さ、悪党どもの冷酷さ、話が見えない展開、いつもながらの
伊坂節にネパールを加えて切り刻み、広辞苑を重しにして二年間寝かせると
アヒルと鴨のコインロッカー蒸し、神様仕立てのできあがり。風に吹かれて
お召し上がりください。

なお、個人的には、昨年のベストとは思えない作品でした。

[NAGAYA v3.13/N90201]