黒猫荘
(mobile版)

[078号] [080号]
[入居者リスト]


THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚

WELCOME TO “THE TELL−TALE HUT”

  61〜64件 
[HomePage]   ▼ 投稿する

155. 2005年03月05日 10時48分52秒  投稿:庵本譚 

2月13日「暗闇」(中公Cノベルズ)

日本におけるモダン・ホラーの名水先案内人・尾之上浩司監修による書下ろし
ホラー集。異形シリーズの隆盛ぶりに「イッチョ、うちでも」と安易な企画に
走った出版なんでしょうけど、中身は悪くありません。特に、異形の井上雅彦と
尾之上浩司のロング対談を読むと、出版社の志の低さはおいといて、ホラーに
託した二人の熱い想いがぬらりどろろんでろでろばあと現われていて、悪口を
言う気になれません(>もう、ゆーとる、ってば)ここで紹介されている作品集
はほぼ読み尽している人間としては、頑張れ、もっと頑張れ、闇の宴は東へ、
西へとエールを贈らざるを得ないのであります。

井上雅彦「闇仕事」:農作物窃盗組織に潜入した男の戦慄の一夜を描いた快作。
汁気たっぷりの肉厚の恐怖が、「この作者、巧くなったなあ」と思わせてくれます。
花田一三六「紛失癖」:身の回りのものをすぐに紛失する癖が暴走した時、最後の
選択肢が鏡の向うから迫ってくる。軽いアイデア・ストーリー。最後の描写には
もう一工夫あってよかったのではないでしょうか?
奥田哲也「ダンシング・イン・ザ・ダーク」:東欧の秘密警察残党に遺された
血の呪いとは?ダン・シモンズを読んで一捻りしたつもりでしょうが、切れ味
がよいとはいえません。
山下定「ブラインドタッチ」:「自動書記」をテーマにした「悪魔との契約」もの。
キーボード社会が可能にしたアイデアですが、その実、古典的な復讐譚だったり
するところが、読者の共感を呼びます。直ぐにでも「世にも奇妙な物語」で
映像化されそうな一編です。
宝珠なつめ「棲息域」:虐められ少女が、闇の存在と友情を育みはじめたとき、
恐怖は後からやってくる。闇というよりも血塗れの作品。愚かしさと痛みが
なんとも哀切です。
友成純一「おごおご」:新婚夫婦が遭遇する南洋の奇跡の夜。余りといえば
余りの展開に、よっ!トモナリ!すぷらった日本一!と声を掛けたくなって
しまいます。ただ、エピローグを読むと、随分と丸くなられたものだ、とも
思いました。
菊地秀行「戦場にて」:頭角をあらわしてきた一雑兵の錯乱、信長の訊問が
暗い貌に闇を見る。菊地秀行、朝松健の縄張りに乱入。祟りじゃあ〜。

154. 2005年03月05日 10時48分13秒  投稿:庵本譚 

2月12日「氷の収穫」スコット・フィリップス(早川ミステリ文庫)

映画化されたという話題につられて、このMVA候補作を手にとってみました。
暗黒のクリスマス・ストーリーでした。

元弁護士で、今は歓楽産業の手先となった男が主人公。
一攫千金の夢、ストリップティーズへの深情け、裏切りに次ぐ裏切りのイブ、
へし折られる指、切り取られた指、氷漬けの指、
猥雑な肉と血のしがらみ、殺られる前に殺る、殺戮ゲームの勝者に与えられた
クリスマスの朝のプレゼントとは?

徹頭徹尾、終始一貫、楽しくないお話です。
人間の屑を描いたゴミのような本です。
なんとも救いようのない作品で、こういう類いの小説を評価する人とは絶対に
友達になれない、と感じました。
オチに至っては、読者を馬鹿にするのもいい加減にしろと叫びたくなります。
これが「文学的」というのであれば、文学なんか要りません。
不快になりたい人、現代ミステリを馬鹿にしたい人は是非お試しください。
ホントにこれを映画化するんでしょうか?
心からお蔵入りを薦めます。暗いよ〜、寒いよ〜、怖いよ〜
153. 2005年03月05日 10時47分39秒  投稿:庵本譚 
2月11日「灰色の視点」楠田匡介(青樹社)

図書館で借りた楠田本1冊目。
創元の「ミステリーズ」でおーかわ師匠が再評価していたので、楠田作品を
読んでみました。が、これは作者の中でも本格味0の作品群に属する本でした。
「長編推理小説」と銘打たれていますが、看板に偽りあり。長編でもなければ
推理小説でもありません。警視庁捜査一課の宇野と吉川という刑事が主人公を
勤める「事件小説」集で、11編収録。後半は、狼谷という新聞記者がサブ・
キャラクターとして絡みます。
「四十八人目の女」「謎の窒息死」「浴槽の怪屍体」「屍体紛失」
「幽霊の屍体」「拳銃を持つ女」「俺は殺さない」「犯人は誰だ」
「首のない屍体」「連続殺人」「冷凍美人」と、題名だけみれば、それなりに
そそるものがあるのですが、ただもう頭が悪くて貧乏臭い殺人劇が、刑事達の足の
捜査で解決を見るというだけの作品ばかりです。唯一、一部倒叙形式をとった
「俺は殺さない」だけが読むに耐えるといえましょうか。こんな本でも市場に
でれば、数万円で取引されるかと思うと「再評価も罪作りよのう」と感じず
にはいられません。こんなもん、探している暇があったら、島田一男を読め、
島田一男を!と古本市の真ん中で叫びたくなります。

なお、(成田さんの密室系の過去ログから判断するに)この作品集は同光社
からでていた「犯罪の眼」の異装版にあたります。また、(フクさんのサイト
の過去ログから判断するに)「謎の窒息死」「浴槽の怪屍体」「屍体紛失」
「冷凍美人」の4編は、最初期の作品集である「人肉の詩集」にそれぞれ
『密封された尼僧』『依託殺人』『屍体の殺人』『冷蔵庫の中の屍体』という
別題で収録されているようです。
とりあえず「犯罪の眼」を持っている人は安心してください。
152. 2005年03月05日 10時47分01秒  投稿:庵本譚 
2月10日「検屍官の領分」マージョリー・アリンガム(論創社)

論創社海外ミステリ第3回配本の目玉商品。この叢書では珍しく「帽子オジサン」
マークをあげてもよいユーモアフーダニットで、開巻からシチュエーション・
コメディーを思わせるドタバタぶり。唯我独尊の上流夫人と気のいい下働きが、
戦時極秘任務で留守にしていたキャンピオンのフラットに女性の死体を担ぎ込み、
タオル一丁の名探偵に遭遇してしまう冒頭から、公爵家の結婚と名誉を巡る男女
模様になだれ込み、更には一旦退場した筈のキャンピオンが謎の男に拉致されて
しまう。わけも判らぬままに解放されたキャンピオンのもとにワインと美術品に
絡む厄介事が持ち込まれるや、新たな「殺人」が、、
創元推理文庫最凶の効き目(にして余り面白いとは言えない)「反逆者の財布」
に続く戦時ミステリ。「戦争が犯罪に与える悪しき影響をぐちる警官」といった
あたりに大英帝国の「余裕」が感じられます。「英国の階級社会」をダシに使いな
がら、卑劣な「裏切り」の真相解明に向けて、物語は螺旋状に進みます。
実はアリンガムも食わず嫌いで、読了本はこれで三冊目なのですが、初めてその
真価に触れた気がしました。軽い筆致でありながら、キャラクターの一人一人に
命が吹き込まれており、崩れゆく「古きよき時代」を描きながら、充分に現代の
読者も満足させるだけの膨らみをもった作品です。アリンガムは面白くない
と思っている人は是非、もう一回騙されたと思ってこれを読んでくだされ。

[NAGAYA v3.13/N90201]