黒猫荘
(mobile版)

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カフェ「白梅軒」
オーナー:川口且真
(OPEN:1999年7月19日)
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4749. 2012年02月23日 02時49分08秒
投稿:かわぐち
珍しく購入本から。
山田英春『不思議で美しい石の図鑑』(創元社)
瑪瑙を中心とした、ちょっと信じられないほど美しい石を集めた本。
予想をはるかに上回る美麗な写真満載で、私にとって「宝物」と呼べる本となるであろう。
これまで鉱物趣味はあっても、それほど瑪瑙に関心は寄せてこなかった。
なぜなら、私にとっての鉱物の魅力はその結晶の形が重要であったからだ。
しかし、本書ほどの美しさとなると、これはもう魅了されずにはいられない。
読了本
ジャン・ピエロ『デカダンスの想像力』(白水社)
これまで本書を読まずにいた自己の不明を恥じ入るばかり。
フランスデカダンス文学について、実に要領よくまとめられた本である。
いいたいことはすべて訳者あとがきに書かれているので、いまさら加えるべきものもないが、
プラーツ『肉体と死と悪魔』と比較して、「(プラーツは)大講堂で碩学の講演を聞いているような感じを味わったが、
それにひきかえ、この本(ピエロの本書)を読んでいると、こじんまりしたセミナー室で、
身近な先輩の充実した発表に耳を傾けているような親しみを覚える」というのは、まったく同感。
訳文がこれまた読みやすく、この手の本にしては一気に読んでしまった。
あえて重箱の隅をつつくようなことをいえば、文学作品はともかく、取り上げられた絵画作品は、
図版がないので、ある程度その絵がすぐに浮かぶだけの親しみがないと、多少きつい面もあるかも。
ウェンディ・ムーア『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』(河出書房新社)
18世紀イギリスの解剖学の祖ともいえるジョン・ハンターの伝記。
ジャーナリストの筆によるだけに、興味深いエピソードが、関心をひくように紹介されている。
解剖に使うための死体を入手するくだり、有名人との交際など、当時の医学界の状況を交えながら、
繰り出される話に頁を繰る手が止まらないほど。
本書の問題は、「おもしろすぎる」ことだ。
あまりにおもしろくて、「ホントかよ!」と突っ込みたくなり、伝記としての信憑性が疑われてしまうんじゃなかろうか。
2007年に翻訳が出されながら、これまで読まなかったことを悔いる。
少なくとも、昨年のハンター博物館訪問の前に、なにがなんでも読んでおくべきであった。
4748. 2012年02月15日 00時31分40秒
投稿:かわぐち
2月12日
三鷹市美術ギャラリー「フェアリー・テイル 妖精たちの物語」展へ。
井村君江の旧コレクションで、知らなかったけど、宇都宮に「うつのみや妖精ミュージアム」が、
福島県に「妖精美術館」なんてのがあるらしく、そこの所蔵作品。
妖精画の展覧会としては、1998年に東京・神戸・京都の大丸で各約2週間の短い期間で「妖精たちの世界」展が開かれたことがある。
今回の三鷹の展覧会、実はこの大丸の展覧会と半数以上、印象としては7〜8割は、同作品の展示である。
自宅に帰ったあと大丸の図録を見たら、ほとんど同じなので驚いた。
もっと驚いたのは、ということは、私はこれらの大半の作品をすでに見たことがあるはずなのに、記憶に残っていなかったことだ。
で、大丸も今回も会場にいて思うのは、なぜだかわからない居心地の悪さ。
きっと私にはこれらの妖精画を見ても陶酔するような回路がないのであろう。
今回の展覧会で驚かされたのが、最後に「コティングリー妖精写真事件」の原版と、撮影に使用したというカメラが出品されていたこと。
すごい! こんな世界で唯一のものを「うつのみや妖精ミュージアム」は所蔵しているのか。
その後は、せっかく三鷹まで来たのだから山本有三記念館へ。
山本有三なんていっても、いま読んでいる人がどれくらいいるのだろうか?
『路傍の石』『真実一路』あたりが代表作であろうが、私は読んでいない。
ここは大正15年頃に建てられた洋風建築なのだ。
読了本
アヴラム・デイヴィッドスン『エステルハージ博士の事件簿』(河出書房新社)
パトリシア・ギアリー『ストレンジ・トイズ』(河出書房新社)
マイリンク『ゴーレム』(河出書房新社)
クロソウスキー『歓待の掟』(河出書房新社)
なぜか河出の本ばかりになってしまった。
『エステルハージ』は架空の三重帝国を舞台に、数多くの博士号を持つエステルハージ氏が出会う怪事件というものだが、
ミステリのような殺人が起きるわけではなく、オカルティズムのペダントリーに満ちた幻想小説。
結局解決されなかったり、頭の悪い私には話が理解できなかったり。
『ストレンジ・トイズ』は、異色ダークファンタジーといえばよいのだろうか。第1部はとんでもない傑作の予感がしたのだが、
第2部・3部と読み進むにつれ、期待ほどではなくなってしまった。
しかし、こういう小説が読めるのは幸せだと思う。
4747. 2012年02月02日 22時54分39秒
投稿:かわぐち
1月31日
仕事を早めに終わらせて、汐留パナソニックミュージアム「今和次郎 採集講義」展へ。
過去を探る考古学に対して、今が打ち立てたのは「いま」を探る考現学。
展覧会は、柳田國男に協力した地方に残る民家の調査記録、そして「考現学」を実践した記録の展示、建築家・デザイナーとしての作品など、
今の軌跡をたどる興味深いものとなっている。
なかでも驚かされるのは、その肉眼ではほとんど読めないほどの細かいスケッチ群。
ちくま文庫『考現学入門』は今の入門書としてはぴったりなのだが、同書に収載されているスケッチの実物が多数見られる。
銀座を往来する人々のメガネ、帯、帽子などを事細かに記録したものなどは、現在でいえばマーケットリサーチにもなるだろうが、
道を歩く犬の模様まで記録するとなると、もはやそこに調査の「意味」なんてものはなく、「こういうことが好きなんです」という今の声が聞こえてきそうだ。
展覧会は3月25日まで。前期2月26日まで、28日より後期になるそうです。
読了本
フランソワ・リヴィエール&ガブリエル・ヴィトコップ『グラン=ギニョル 恐怖の劇場』(未来社)
真野倫平編・訳『グラン=ギニョル傑作選』(水声社)
1897年、パリ・シャブタル通りに開かれた小さな劇場。ここの売り物は残酷劇であった。
この猟奇的な出し物は人気を博し、グラン=ギニョルの名称は独り歩きを始めたことは周知の通り。
これまで、「グラン=ギニョル的」なんて形容され、私自身も使ってきたが、その実、それがどういうものであったのかは知るはずもなかった。
前者は翻訳は1989年に刊行。当時手にはしたものの、パラパラと見ただけで、「そのうち読もう」で終わっていた本。
実際読んでみると、文章が何が書いてあるのかわかるのも難しく(これは訳文だけのせいでもなく、おそらく原文も相当・・・だと思う)、
なにより知らない作家の知らない作品が出てくるばかりなので、本書1冊ではその実態をつかむのは困難であろう。
そして、2010年に刊行された後者。こちらはその実際の作品の台本のアンソロジー。
本書を読んで、ようやくイメージなりとも、その実体に触れることができた気がする。
ルヴェル、ルルーといった知った名前もあるが、ほとんどは未知の作家。
私個人では最後の「怪物を作る男」の悪趣味さに心動かされた。ミルボー作を改作したシェーヌ「責苦の園」もいい。
さらに巻末には主要作品60編の概要を紹介するなど、よくぞ翻訳してくれたと快哉を叫びたくなるほど(って1年半も経ってからですが)。
後者を第一に読み、さらに深めたい場合は前者に手を伸ばすのが順当であろう。
4746. 2012年01月30日 02時01分03秒
投稿:かわぐち
読了本
M・J・S・ラドウィック『太古の光景』(新評論)
子供向け科学の本で当たり前のように見ており、特に意識したこともないが、
人類誕生以前、恐竜や絶滅哺乳類が跋扈している世界の絵、あれはいつごろ、誰が始めたのか?(当然見たことのある人間はだれもいないはず)
こうした疑問から出発したかどうかはいざ知らず、著者は17世紀のショイヒツァー『神聖自然学』を皮切りに、科学読み物に描かれた絵と、古生物学の歴史を走破する。
類書のない古生物画の図像学研究書。
実は、原書"Scenes From Deep Time"は1999年に購入していたのだが、読まず(=読めず)に放置していた本。
翻訳が2009年に出ていたことを知り、ようやく読むことができた。
ウンベルト・エーコ『バウドリーノ(上下)』(岩波書店)
これも2009年に翻訳が出ながらも、小説を読む習慣をすっかりなくしていたため未読であった。
ようやく読みました。エーコの小説第4作目。
舞台は中世イタリア。農民の子の主人公はローマ皇帝の養子となり、西洋・東洋にまたがる冒険をするというのが骨子の成長小説。
正直申し上げると、前半は、ヨーロッパの歴史事情、さらに地名がわからなくて、読み通すのが苦痛であった。
しかし、後半、東洋への旅が始まると俄然面白く感じられた。
養父フリードリヒ皇帝の死後(ちなみに謎の密室死)、主人公は聖杯を「司祭ヨハネ」に届ける旅に出るのだが・・・・・・。
司祭ヨハネ! ここでわかる人にはニンマリとするはず。
司祭ヨハネ(別名プレスター・ジョン)とは、インド(今のインドではなく、当時は東洋全般を指す)の蛮族を征し豊かなキリスト国を作り上げたとされる伝説の人物。
その東洋はマルコ・ポーロやオドリコ、マンデヴィルの著書に描かれた異形の「怪物」の棲む場所。
当然、本書でもスキアポデス、犬頭人、アマゾネスなど、知ってる人にはおなじみのメンツが続々。
司祭ヨハネについては、彌永信美『幻想の東洋』(青土社、ちくま学芸文庫)という名著が章を割いている。
「怪物」については伊藤進『怪物のルネサンス』(河出書房新社)。
そして、なにより、司祭ヨハネの伝説について、その原典が『西洋中世奇譚集成 東方の驚異』として講談社学術文庫から出版されている。
『西洋中世奇譚集成 東方の驚異』(講談社学術文庫)
というわけで、本書を読んだ。再読。このシリーズ、現在4冊出ているが、監修者・池上俊一氏は「10冊は出したい」と言っている。
私も及ばずながら応援したく、一応、出たら新刊で買うことにしている。
本書は、先に紹介した「司祭ヨハネの手紙」(2ヴァージョン)に、やはり東洋の怪物報告の原典「アレクサンドロス大王からアリストテレス宛の手紙」という、
まさに最強のコンビネーションの基本図書。
そういいながらも、1冊目「皇帝の閑暇」、2冊目「東方の驚異」の2冊は購入後すぐに読んでいたのだが、その後は買っただけに終わっていた。
そこで『聖パトリックの煉獄』『妖精メリュジーヌ物語』と読んでみた。
こういう古典・原典は読んでただちに面白いと言えることはそうないので、先に読みたい本があるうちはなかなか進まない。
特に読みたい本もなく、やることもない私のような暇人には向いている読書だ。
加賀野井秀一『猟奇博物館へようこそ』(白水社)
著者はメルロ・ポンティ等の翻訳で知られる学者。
その著者が好奇心の赴くままにヨーロッパで出会った奇怪なスポットを巡る思索の旅。
都築響一や荒俣宏の旅とは少し違い、思弁的なため、一般読者にどこまで読んでもらうことができるか、多少心配であるが、
私個人としては、教えられることの多い好著であった。
対象が解剖・死体に偏っているのは、著者の好みなのか、今後それ以外の場所の紹介に入るのかは不明だが、続編を期待したい。
せっかくこの材料があるのに、モノクロ図版でこの大きさはないよなあ、と勿体無さも感じるが、そこは扇情的な写真で売ろうという姿勢のない著者のスタンスの顕れなのかもしれない。
購入本(上の図録・読了本以外)
松本晶子編『劇画師伝説 昭和の天才劇画家・植木金矢の世界』(国書刊行会)
中村圭子・三谷薫編『石原豪人 妖怪画集』(復刊ブックコム)
Janice Neri- The Insect and The Image (U. of Minnesota Pr.,2011)
石原豪人の本は、河出の先の本との重複も多いが、このサイズで楽しめるというのはやはり大きい。
本書の解説でも挙げられる「小松崎茂と御三家(石原豪人・柳柊二・南村喬之)」は、南村を除けば、ほぼ紹介はされたことになる。
次はぜひ「南村喬之ペン画集」を出してもらいたい。ウルトラ怪獣よりもペン画にこそ、南村の真髄はあると思う(創元推理文庫のヴェルヌの挿絵を参考)。
[NAGAYA v3.13/N90201]