黒猫荘
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THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚

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  57〜60件 
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159. 2005年03月05日 10時52分24秒  投稿:庵本譚 
2月17日「まほろ市の殺人 冬 蜃気楼に手を振る」有栖川有栖(祥伝社文庫)

初期の「マジック・ミラー」の設定を彷彿とさせるような悪夢的倒叙推理です。
短い頁数で「本格」にこだわると倒叙という形式に辿り着く。クロフツの
「殺人者はへまをする」や鮎川哲也の中期作を読むとその感を強くしますが、
この有栖川中編は頂けません。設定の下敷きになっているのは、クイーンの
某長編なのですが、それを捨て駒に使って、とんでもトリック(?)に走った
凡作です。これが、まほろ市連作のトリを務める作品というのはいかにも残念
の極み。誠実な芦辺拓あたりに前3編も貫くアクロバティックな神業をみせて
頂きたかったものです。
158. 2005年03月05日 10時51分45秒  投稿:庵本譚 
2月16日「疑惑の星」楠田匡介(青樹社)

図書館で借りた楠田本の4冊目。とりあえずこれでおしまい。

「分譲地ゼロ番地」新興住宅地に念願のマイホームを建てた若い夫婦ものに、
新居の売却を破格値でもちかける年増美人。宗教に嵌まった彼女の夫が、お告げ
を受け、どうしてもその土地に住みたい、というのだ。だが、その裏には恐るべき
欲望の奸計が潜んでいた。ダイヤモンドに眼が眩んだ、悪党どもの末路とは?
香山紅子もの。お手軽な通俗ものかと思いきや、中盤以降、したたかな女の
闘いに転じる破格推理。少々無理が祟ってギクシャクとした印象は免れませんが、
どうやって読者の裏をかいてやろうかという作者の稚気は買えます。

「殺人設計書」冷遇を受け、思い余った貧乏作家が、悪辣な出版社社長とその愛人
秘書、そして冷酷な編集長に復讐を仕掛ける。だが、その計画書がとある人物に
漏れた事から悲劇の幕は上がる。剽窃された殺人計画を巡り、滅びに向う北帰行の
果てに待つものとは?作者の代表作の一つ「地獄の同伴者」の改題版。作家の
食い詰めぶりが今の時代からみるとギャグの領域で、クイーンの「Yの悲劇」
のネタを割ってしまっているところもマイナス評価。ただ、操りトリックや、
足の捜査と名探偵の閃きを組み合わせた展開など見るべきところも多く、復刊
するに足る作品かと思います。香山紅子登場編。「二つの穴」の小松も登場します。

「五ツの窓」一度は勘当した娘と盲目の孫娘を奴隷のように扱った老人が
アパートから忽然と消えた。有り得ざる消失トリックが殺人トリックに変じる
時、哀切な真相が虚空に踊る。「五つの窓の物語」という異題もあるそうです。
純和風のウエットなドラマガチガチの不可能トリックというコンビネーション
ですが、「悲劇」と呼ぶに相応しい展開に暗澹たる思いのみが残るお話で、
知恵を絞ったであろうトリックの方がどうでもよくなってしまいました。

「雪の犯罪」これも様々なアンソロジーに採られている名作中の名作。
トリックも余りにも有名な「アレ」ですが、ビブリオマニアな被害者像にも
そそられるものがあります。実に愛すべき作品でありましょう。
157. 2005年03月05日 10時50分56秒  投稿:庵本譚 
2月15日「逃亡者」楠田匡介(青樹社)

図書館から借りた楠田本の三冊目。
「逃亡者」作者の代表作の一つ「追いつめる」の改題版。香山紅子登場編。
裏商売に精を出すホテル経営者の懐に飛び込んできた一人の男。その逃避行は
札束と死に彩られていた。そして、ある朝、男は完全密室の中から「自然死」状態
で発見される。鉄壁のトリックに挑む、田名網警部と香山紅子。悪党ばかりの
ピカレスクと不可能犯罪を絡めた快作。カットバックして綴られる拐帯犯の
殺人逃避行がなかなか読ませます。更に、正々堂々たる密室殺人。時代の要請に
応えた作品として、長く読み継がれるべき作品でありましょう。
「二つの穴」香山紅子登場編。語り手は、鮎川法律事務所に拾われた工兵上がりの
食いつめ帰還兵・小松。選挙の落選者に繰上げ当選を持ち掛ける女探偵事務所長代理の
狙いとは?一人の当選議員を葬り去るために、探偵達は闇の仕掛に入る。殺された
犬が騙る陰謀の顛末とは?サスペンスフルな幕開け、ピカレスクな展開、そして
意外なまでに本格推理なドンデン返し。ああ、びっくりした。短い割りには
ハイカロリーな一編です。埋れた傑作と呼んでよろしいかと。
「ボリショイの熊」ボリショイ・サーカスの熊に話し掛けられた男の過去、
そして「動物」たちの真の企みとは?落語「動物園」を思わせるユーモラス
な犯罪幻想譚。トリック・メーカーの意外な一面を窺い知ることのできる異色
短篇でした。
156. 2005年03月05日 10時49分27秒  投稿:庵本譚 
2月14日「犯罪への招待」(青樹社)

図書館で借りた楠田本の2冊目。こちらは「当たり」でした。
東都タイムス記者・乾信一が登場する作品を集めた中短篇集。新婚旅行先で
新妻の祐子が事件に巻き込まれる中編「替えられた顔」は「逃亡者」(=「追いつめる」)
と同名の拐帯犯が登場するのですが、どちらが先なのかは勉強不足で判りません。
中編「殺人設計図」には「替えられた顔」のエピソードが紹介されていますので、
この2編の順序は見当がつきますが、その他の3編では、乾記者に妻の影が
見えません。むらむらとビブリオマニアの血が疼こうというものです。
「殺人設計図」ミステリ映画に刺激を受けたアプレな若者たちが企む机上の殺人。
仲間の一人の叔父を密室で殺害するトリック、実行犯、アリバイ、事前準備の
すべてが整った時、計画は何者かに乗っ取られた。開く筈の鎧戸は開かず、
用意した筈のアリバイは消され、そして老人は完全密室の中で撲殺された。
乾記者は、殺人設計図の存在を知らされるが、その時既に、第二の殺人が起きて
いた。動かせぬ証拠が示した犯人とは?そして、その裏に隠された秘め事と奸計
の正体は?錯綜するプロット、テンポのよい語り口、平凡なトリックながら
読者の意表をついた真犯人、と三拍子揃った快作です。探偵役の記者が、大詰め
を前に田舎に調査に行くあたりなんざあ、金田一耕助はだし。オススメの一編
であります。
「替えられた顔」乾記者は新妻の祐子と遅めの新婚旅行に出かける。その温泉宿で
祐子は、乾と後ろ姿が似た男を夫と勘違いしてしまう。それが、骨と死体に囲まれた
恐ろしい顛末を招くとは露知らず。仕組まれた親交、忍び寄る追手、隠された
殺意。新妻は消え、見知らぬ女の死体が褥で待つ。走れ、事件記者!新婚サスペンス
に流れるかと思いきや、意外に凝ったプロットの作品でした。ただ、表向きは
新婚サスペンスなんですよねえ、これが。
「アリバイを探せ」代議士たちが密会に使う料亭からさ迷い出た一人の美女。
だが、表に出た頃には既に事切れていた。見えない人の鉄壁のアリバイに挑む
乾記者。作者のやりたい事は判りますが、これでは乾記者はただの見込みだけ
で突っ走る暴力記者です。
「吊るされた美女」才媛を絵に描いたような政界の女傑。だが、嵐の夜が明ける頃、
尖塔に吊るされた姿からは、溌剌たる生気も凛冽たる才気も奪われていた。
記者と政治家の推理と告発合戦の末に現われた驚天動地のドンデン返しとは?
世が世なら年間バカミス大賞に選ばれたかもしれないお話です。推理合戦の
出来がよいだけに、このオチには呆れました。うーん。
「殺された男」衆人環視、プロ野球の試合中に刺殺された塁審。そして容疑は
走者に向けられる。怨恨の連鎖が招いた不可能犯罪に挑む乾記者。謎は魅惑的
ですが、幾らなんでも無理目のトリックです。今の球場では更に不可能性が増す
ことでありましょう。

[NAGAYA v3.13/N90201]