黒猫荘
(mobile版)
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THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚
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171. 2005年03月22日 07時00分58秒
投稿:庵本譚
2月22日「夢の破片」モーラ・ジョス(ポケミス)
シルバー・ダガー受賞作。まるでヴァインのような、という評ですが、なるほど
言い得て妙でありましょう。「架空家族」ものは、日本でよく見かける設定ですが
海外ものでは始めてお目にかかりました。
長期に屋敷を空ける金持ちのために、住み込みで留守宅を守るサービスがある
というのが、まずもって英国風。主人公は、そのサービス会社から解雇を予告
されたオールド・ミス。これまでの矜持を喪った彼女は、与かった屋敷を我が物
顔に使い始め、遂には溢れる妄想を押さえ切れず、新聞に存在しない「息子」を
探す広告を載せる。その広告にダメモトで応じてきた、施設上がりの小心な詐欺師。
更に彼のもとに転がり込んだ臨月のフーテン娘が、架空の家族に命を吹き込む。
果たせなかった夢を求めて破滅への道を歩む「家族」。裁きの夜は、もう間近だ。
キャラクターの造型が鮮烈で、端役に至るまで脳裏に映像が浮かんできます。
3時間もののテレフューチャー向きの地味なサスペンスです。
最初から破滅が予定されている話なので、どこまでキャラクター達に感情移入
できるかが評価の分かれ目ですが、この主人公の不安定な自己欺瞞に入れ込むと
幕切れでオロオロする事になるでしょう。読み応えあり。ねっとりとした
サスペンスがお好きな方は是非。
170. 2005年03月22日 07時00分21秒
投稿:庵本譚
2月21日「妖術師」高木彬光(角川文庫)
作者のノンシリーズの短篇を集めた拾遺集。様々な名探偵を輩出してきた作者
にもたまには名探偵抜きで書いてみたい作品もあるようです。推理コントから
夫と妻に捧げる犯罪、「赤毛連盟」もどき、侵略SF、終末SF、マッド
サイエンティストもの、幻想奇譚と、ブラインドテストされると作者の名前を
当てにくい作品が11編並びます。
彬光らしさを感じさせるのは「脱獄死刑囚」と表題作「妖術師」ぐらいのものでしょうか。
乱歩、正史の非名探偵ものにはそれぞれに貫禄があって、下手をすると名探偵
が登場する短篇よりも世評が高いものがあったりしますが、高木彬光にはその
定理はあてはまらないような印象を受けました。
169. 2005年03月22日 06時59分30秒
投稿:庵本譚
2月20日「消えた山高帽子」翔田寛(東京創元社)
歴史推理の新星による横浜「ホームズ」ストーリー。実在した英国人新聞記者
ワーグマンをホームズ役に、実材したのだかどうだか判らない医師ウィリアムズを
ワトソン役に据えた軽快な連作。
闇を舞う逆さ首、人を襲う幽霊といった怪異の謎を「最後の敵討ち」に絡めて
鮮やかに解き明かす登場編「坂の上のゴースト」
現代版シャイロックと異名をとる強欲で吝嗇な英国人投資家が白装束で切腹して果てる。
虐待と馳走に惑う虐げられた人々の錯綜が謎を呼ぶ「ジェントルマン・ハラキリ事件」
歌舞伎役者が招かれた園遊会で山高帽子が消えてしまう。事件に潜む若き恋人
たちの悲劇とは?仮名手本ロミオとジュリエットに千両役者が見栄を切る表題作「消えた山高帽子」
洋娼を母に持った幸薄い姉弟。過去の迷宮入りが殺人を切っ掛けに正気を失った姉。
だが、尚もその命が狙われる。ダイイングメッセージと日本人心の傷に挑む「神無月の
ララバイ」
聖誕生教会で起きた血の惨劇。喪われた聖画が暴く秘密の正体とは?かしこくも
鮮やかな逆転の構図「ウエンズデーの悪魔」
いずれも当時の日本の風俗を巧く織り込んだサプライズの光る佳作揃い。
中でも「ウエンズデーの悪魔」の視覚に訴えた衝撃のエンディングには拍手喝采
であります。「和物はちょっと」という舶来かぶれのミステリファンも、この
作品だけは読んでおいて損はありません。
168. 2005年03月22日 06時58分30秒
投稿:庵本譚
2月19日「探偵学入門」マイケル・Z・リューイン(ポケミス)
多彩なキャラクターを使い分け、職人芸の赴くままに書いたオムニバス短篇集。
処女作をみても、近作の探偵家族をみても、随分と知的ユーモアセンスの
人なのだ、という事が再認識できます(もっとも「殺し屋」の分野はローレンス・
ブロックの敵になりえていないように感じました)
が、なんといっても白眉はダン・クエール副大統領を主人公にした2編の爆笑
ミステリでしょう。ここまで実在の政治家をネタにして、笑わせる事ができるのは
いしいひさいちかアート・バックウォルドぐらいかと思っていたのですが、認識を改めました。
もし、リューインが副大統領ダニー・シリーズ2作のみの人でも、ミステリの
歴史に名を残したのではないでしょうか。リチャード・マシスンの名探偵群像
とは趣を異にする「迷探偵群像」が編まれるとすれば、絶対に外す事のできない
作品です。この2作のためだけにこの作品集を買う値打ちがあると断言してしまいます。
[NAGAYA v3.13/N90201]