黒猫荘
(mobile版)

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THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚

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  41〜44件 
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175. 2005年03月22日 07時04分44秒  投稿:庵本譚 
2月27日「憎しみのバランス」樹下太郎(角川書店)

これも図書館で借りた本。そうか、角川小説新書にも樹下太郎があったんですねえ。
1中編4短篇を収録。これは、作者の良さが出た作品揃いで、それなりに楽しめ
ました。
「憎しみのバランス」
一度は殺されかけ、犯人の間違いで生き延びた悪女。だが、出所してきた男が
彼女の前に現われた時、死神は思わぬ者を撃つ。愛憎が交錯する修羅の巷、
因果の連鎖を追う刑事たち。
「鬼さんこちら」
意に添わぬ妻を娶らされた男が企む完全犯罪。試行錯誤の果てに待ち受けていた
驚愕の逆転とは?
「心中未遂」
水商売からの甘い誘い。心中という名の陥穽が未遂に終わる朝、女の真の目論見が
姿をあらわす。
「眼を閉じた女」
少年時代の性の記憶。偶然の邂逅が、青年を狂わせる。激情殺人の発端から破綻を
描いた倒叙サスペンス。
「スキャンダル計画」
一人の女の自殺と遺書を巡り市政選挙の候補者たちの思惑が交錯する。純愛の
決算は、誰を破滅させたのか?
174. 2005年03月22日 07時04分13秒  投稿:庵本譚 
2月26日「プロムナード・タイム」樹下太郎(東方社)

図書館で借りた本。33編収録。
一部の古本者の間で評判のショートショート集なので、期待してとりかかった
のですが、切れ味甚だ悪し。この中の最上作でも星新一の標準作に及びません。
推理コントの下らなさも手の施しようがございません。これは「幻の作品集」
にしておくのが武士の情というものでありましょう。
173. 2005年03月22日 07時03分33秒  投稿:庵本譚 
2月24・25日「顎十郎捕物帳 上・下」久生十蘭(六興出版)

というわけで、「こんなものも読んでいなかったんです」読書の決定版。
都筑道夫の贋作があまりにも面白かったので、ここは聖典がどの程度に面白いのか、
果して、都筑道夫は出藍の誉れなのかを確認したくなって手にとってみました。
一読驚嘆。これは、とんでもなく面白い物語を積読にしてあったものです。
キャラの立たせっぷりは言うに及ばず、流麗にして洒脱な文体と野卑をやらせても
ピンと香り立つ文格、薀蓄に満ちていながら厭味のない語り口、そしてなんと
いっても魅惑的に過ぎる謎と鮮やかな解きっぷり。ある時は不可能犯罪に挑み、
狐狸を唸らせ、白刃を踊らせる。
ただ、ページ数が限られたいたのか、徳川鉄仮面伝説を描いた、顎十郎登場編の
「捨公方」なんぞは、どうみても大伝奇の序章だし、その他にも思いのほか、
結末があっさりついてしまうものが目立ちました。物語の綾を解けば、後の
始末は捕方の仕事っていうことなんでしょうかねえ。
どの作品も印象深いですが、なかでも伏鐘の重三郎との知恵比べとなる
江戸メリーセレスト号「遠島船」、なんと鯨を丸ごと一匹江戸の街中から消して
しまう「両国の大鯨」が白眉。「氷献上」のような浪花節も捨て難いですし、
藤波対顎十郎の推理合戦を描いた「ねずみ」「三人目」「丹頂の鶴」あたりも
いい感じです。特に<捕物吟味御前試合>となる「丹頂の鶴」はシリーズ屈指の
意情知のバランスのとれた好編でありました。「鎌いたち」や「蕃拉布」の
不可能趣味もなかなかのものですし、「日高川」はドイルの換骨奪胎と思わせて
おいて、その上をいくトリックに唸りました。いやはや、これは都筑道夫が心酔
してしまうのもむべなるかなであります。
山海の珍味や供応が嬉しい「菊香水」を最後に、顎十郎が駕籠かきに身をやつして
しまってからは、いささかパワー不足となりますが、少なくとも24編中の3分の2は
日本捕物帖史に輝く名エピソード揃いでありましょう。
個人的オールタイムベストに入れるべき短篇集であると感じました。いや、脱帽。

172. 2005年03月22日 07時01分30秒  投稿:庵本譚 
2月23日「新・顎十郎捕物帳」都筑道夫(講談社ノベルズ)

こんなものも読んでいませんでした。
巨匠・都筑道夫が文体の師と仰ぐ久生十蘭の名捕物帖を写したパスティーシュ集。
我々から見れば都筑道夫が小説仙人なのですが、上には上があるという事ですね。
一読驚嘆。ああ、これは我々が求めてやまない(そして叶う事のない)「なめくじ
長屋」の新作への渇望を癒す快作でありました。こんな事ならもっと早く読んで
おけばよかった。
宮地芝居での人物消失と楽屋落ちの綾を解く「児雷也昇天」
浅草界隈を一夜にして消し去る大からくりを暴く「浅草寺消失」
これには、聖典で「怪人二十面相」役を務める<伏鐘の重三郎>が颯爽登場。
顎十郎との智謀勝負に挑みます。
英国領事館での不可能な盗難事件を解き、幕府の面目を保つ「えげれす伊呂波」
ラストで、余りにも有名な人物の名が出てきて巨匠の稚気に唸ります。
見世物の生人形が本物の死体に掏り替り、顎十郎の手下であるひょろ松が
下手人として挙げられる。好敵手・藤波友衛との捕物合戦を描く「からくり土左衛門」
魑魅魍魎の仕掛けた判じ物を鮮やかに解き明かしお家騒動に蹴りをつける「きつね姫」
直参旗本の横暴に挑むうちに不可能殺人に巻き込まれる「幽霊旗本」
かどわかされた藤波と顎十郎が仮面の男女に名家の失せ物の行方捜しを迫られる「闇かぐら」
まあ、どれもこれも、見事なまでの不可能趣味と人情味に溢れた捕物帖で、
顎十郎ファミリーとでも呼ぶべき、筆頭与力・森川庄兵衛、その娘の花世、
岡引・ひょろりの松五郎、好敵手の藤波友衛などなど、実にキャラも立ってます。
そして、江戸情緒を伝える豊富な語彙に洒脱な語り口。参った、参りました。
これは聖典を是非読んで比べてみませんと。
と、実は「顎十郎捕物帳」も読んでなかったわけですね。この男は。

[NAGAYA v3.13/N90201]