黒猫荘
(mobile版)
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THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚
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187. 2005年03月24日 06時48分50秒
投稿:庵本譚
3月6日「スペース」加納朋子(東京創元社)
「ななつのこ」「魔法飛行」に続く駒子シリーズ第三作。といっても、これだけ
間があくと、駒子って誰?瀬尾って人とどんな関係だっけ?あれれ?と老人力
炸裂の私としては、この作品の大きな魅力である「シリーズものゆえの趣向」を
満喫することができませんでした。
e-NOVELSに連載されたらしいですが、これを細切れで読むのもきつかったのでは
なかろうかと邪推する次第であります。
物語は「日記風書簡」で構成されたSide-Aの「スペース」と、その物語を裏側から
描いたSide-Bの「バックスペース」という成り立ち。このあたりのネーミングの
妙はさすがであります。一人暮らしでキャンパスライフを始めた主人公が、
語り掛ける不安と愛の物語。ドッペルゲンガーの魔法が解ける時、娘たちの
旅立ちは始まる。
青春の光と影を描いた爽やかな読物で、長い間、駒子と瀬尾のその後を待って
いた読者にとってはなによりのプレゼントといえましょう。
勿論、ミステリとしてのサプライズも施されてはいるのですが、この物語を
100%楽しむためには「ななつのこ」と「魔法飛行」を再読される事を
オススメいたします。
186. 2005年03月24日 06時47分56秒
投稿:庵本譚
3月5日「首切り坂」相原大輔(カッパノベルズ)
時代を明治45年にとったオカルトミステリ。明治時代の怪奇小説家をワトソン
役に、評論家をホームズ役に据えた設定は、なかなか堂に入ったものです。
しかし、明治45年に評論家を業とする人っていたんですかしらん?
首無し四地蔵の伝承と闇に浮かぶ狐面の殺人者、現われては消える生首、呪いの
果ての怨念の罠、とまあオカルトミステリのツボは押えており、悪くありません。
ただトリックの解法が、初期京極夏彦的肩透し技なので、駄目な人は徹底的に
駄目かもしれません。キャラの立たせっぷりで、もう一押し欲しいところですが、
若さに免じてとりあえず合格点。あと、着地を決めてから身体を捻りたがるのは
新人さんの悪い癖だと思うので、編集者が矯正してあげてはどうでしょうか?
185. 2005年03月24日 06時47分25秒
投稿:庵本譚
3月4日「不屈」ディック・フランシス(ハヤカワミステリ文庫)
競馬ミステリも残り少なくなってきました。第36作は、老舗のビール会社オーナーの
義理の息子にして、粋人の伯爵の甥っ子である画家が主人公。山小屋をアトリエ
に篭り30代にして隠棲している主人公が、ある日突然、4人組の暴力のプロによる
襲撃を受け、九死に一生を得てから、波瀾万丈の「会社更正」と「宝捜しゲーム」に
巻き込まれていきます。主人公の描く絵は、ゴルファーであったり、障害ジョッキー
であったりするのですが、いずれも主題は「不屈の闘志」である、と作中人物の一人が
喝破します。なるほど、ワンパターンを避けるために、こういう持っていき方も
あるかと唸りました。すでに画家や「馬の絵」をテーマにした作品には「追込」が
あるわけで、心の狭い上流婦人と一族、良心的な老舗の大ピンチ、といった
素材もいつものフランシスです。ですが、このサービス精神は以って範とする
にたるものでありましょう。少々「宝捜し」(というか「宝隠し」)を巡る
エピソードが冗長なのですが、画家の技と魂で伯爵家の「宝」を守るくだりには、
不覚にも泪が浮かびました。読後、無性にリキテックスで絵を描きたくなる話です。
184. 2005年03月24日 06時46分15秒
投稿:庵本譚
3月3日「夜啼きの森」岩井志麻子(角川書店)
津山三十六人殺しを題材にした連作長編。余りにも有名な惨劇の夜にどう話を
収斂させていくかが作者の腕の見せ所ですが、さすが岡山美人の作者、見事に
田舎の狭さと怖さ、森の深さと冥さ、人の脆さと危うさを月の満ちる様に合わせ
ながら活写しました。多重視点と岡山弁で、キャラクターたちを立体的に彫り上げて
いく過程もお見事の一言。「夜啼きの森」というよりは「夜這いの森」という
感じの淫臭漂う因習がなんとも、岩井志麻子でありましょう。犯人は分かって
いる話ですが、これは、岡山女の原点、八つ墓村の原点に向うという意味でも
岩井版「ゼロ時間へ」なのかもしれません。
[NAGAYA v3.13/N90201]