黒猫荘
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オーナー:ないとー
ここの管理人のないとーです。
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74. 2002年04月21日 23時19分58秒
投稿:ないとー
わーい、『明智抄単行本未収録作品集』がやっと届いたぜ。うーん、嬉しい(^.^)。
『木に登る犬』日下圭介 徳間文庫('88) 読了
久々に、短編小説の真髄というものに触れた気がする短編集だった。
研ぎ澄まされた文章によって、人生の一瞬を切り取り、人生そのものを、その一瞬に
感じさせる。長編以上に行間を感じさせるテクニックが短編巧者には求められるわけ
だが、この作者のそれは間違いなく最高のレベルに達している。
しかも、どの作品も、ひねりの効いたミステリ・マインド溢れるものばかり。そのひ
ねりも皮肉なもので、またそのまま人生を映す鏡のようなものである。
読後感も心温まるもの、ギョッとさせられるブラックなものと、さまざまだが、言葉
では書き尽くせない「何か」を、ぜひ読んで味わって欲しい。
「木に登る犬」行間から滲み出すさまざまな想いが、なんともいえない情感を産み出
している。残酷な真相がもの哀しい。
「闇の奢り」盲目の男を主人公にした設定の妙、皮肉なストーリー、さりげなく読者
をミスリードする絶妙な筆運びが素晴らしい。
「緋色の記憶」皮肉なプロットがおれ好み、また浮かび上がってくる真実のやりきれ
なさも印象に残る。
「遅すぎた手紙」伏線の妙と「あっ」と言わされる快感を味わえる。
「とんでもない誤解」その名の通り、三人の男女がとんでもない誤解を重ねて行く過
程がスリリングに描かれる。その誤解が解けるとき、意表をつく結末が待っている。
「奪われた遺書」プロットも面白いけど、老スリがいい味出してる。
73. 2002年04月20日 12時54分04秒
投稿:ないとー
続々といい作品に当たっている。これだからミステリ読むのは止められませんな。
『溺れる魚』戸梶圭太 新潮文庫 読了
様々な立場の人間達の思惑が絡み合って話が膨らんでいくあたりの転がし方がうまく、
その複雑なストーリーを破綻させずにまとめあげている。これが映画化されたのも頷
ける。ストーリーも映像向きだし、読後感も、まるっきり「よく出来た映画」の面白
さと同じで、「ああ、面白かった」って感じ。
まぁ、そういう面白さを味わせてくれる作品は世に多いが、続々と登場する、鮮烈な
印象を与える変てこなキャラクター造詣に、一筋縄ではいかない個性を感じる。特に
ダメ男書かせたらサイコー。オカシイ。
『回廊亭殺人事件』東野圭吾 光文社文庫 読了
いやぁ、正直言って、今まで東野圭吾の本格作品に抱いていたイメージは、出来は良
いけど、「あっ」と言わされる快感はそれほど期待できない、というものだったんだ
けど、これはすっかり良い方に裏切られたわ。
ある一点を、視点を換えてみるだけで、するするっと謎が解けていく。その快感は、
本格好きなら何度か体験することだけど、この作品では、それを堪能させていただき
ました。その上、ちょっとミステリを読みこんでいる人なら、仕掛けがあるのが分か
るようにわざわざ書きながら、却って、それゆえにますます自分から作者の手に嵌っ
てしまっていたなんてね。久々に満足のため息と共に「やられた」という呟きを漏ら
してしまいました。
凄絶なラストシーンも好きです。
72. 2002年04月19日 16時00分20秒
投稿:ないとー
ここんとこ、本が読めている。いいことだ。
『岡田鯱彦名作選 本格ミステリコレクション2』日下三蔵・編 河出文庫 読了
「噴火口上の殺人」完全犯罪をテーマにした作品だが、緊迫したムードの漂う語り口
がサスペンスを盛り上げていて、気の抜けない展開に、それさえ忘れてしまいそうに
なる。そして、トリックは単純だが、主人公と同じく読者は、気づかぬうちに目の前
で完全犯罪が行われていたことに驚くことになるのだ。
作家・岡田鯱彦が懸賞小説で得た賞金で友人達と出かけた先で出会った奇妙な出来事
という、ちょっと人を食った設定に感じられる機知が全体に感じられる「四月馬鹿の
悲劇」は、最後まで息をつかせぬ展開の楽しい作品で、読後感も良い。
「真実追求家」は、ありがちなシチュエーションに当然の展開ながら、主人公の屈折
した奇妙な心理を描いたことが、悲劇的な話ではあるけど、巧まずして人生の悲哀を
感じさせるペーソスを漂わせていて印象深い。「巧弁」も、短いながらも、意外な展
開の中に哀れな男の姿を描いて、作品におかしみを与えている。
本格推理としての出来なら「石を投げる男」が一番ではないだろうか。周到な伏線を
用意しているので、「読者への挑戦状」や手がかりの合ったページ数を明記する趣向
も活きていて、中々の佳作だと思う。
それに比べると、「妖鬼の呪言」は容易に犯人を明かさない二転三転する構成は読み
応えがあって本格の醍醐味を味わえるが、語り手の設定と犯人の計画が杜撰な点が気
になるし、「情炎」はちょっとイカれた犯人像は面白いけど、それだけ。「死者は語
るか」は奇抜な殺人方法が印象的だが、そんなんでうまくいくのかと実効性に不安が
あったり、少しばかり一長一短という印象を受けた。
71. 2002年04月17日 16時17分01秒
投稿:ないとー
『パーフェクト・ブルー』宮部みゆき 創元推理文庫 読了
いまや、宮部みゆきもすっかり押しも押されぬ人気作家になっちゃいましたね。またこの人の
ストーリーテラーぶりからすれば、それも当然のことですが。なんて、いまさら書くのも、久
しぶりに読んだのと、これが処女作だったりするからですが、すでに、ここからして宮部のス
タイルが完成しているところはさすが。大企業の陰謀なんていういささか安っぽい設定(薬害
問題をとりあげてること自体は、さすが目端が利いてるなぁとも思うけど)や、重要な役割を
果たす人物の造詣が不透明、とまぁ、細かいことを気にしなければ、ストーリーテラ−の手管
に乗せられ、ページをめくる手は止まらなくなり、宮部的ヒューマニズムに感動せずにはいら
れないでしょう。でも、おれは、それが嫌いなんだけどね。
『心とろかすような』宮部みゆき 創元推理文庫 読了
『われらが隣人の犯罪』や『ステップファーザー・ステップ』に狂喜したおれのなかでは、い
まだに宮部みゆきは「短編の名手」という位置付けなんですが、どうもそれらを読んだときの
インパクトを超える作品集には出会ってない気がするのが正直なところ。この連作では、プロ
ットの面白みで「てのひらの森の下で」が一番かな。けれども、一番印象に残ったのは「マサ、
留守番をする」の一節だった。それを読むと宮部みゆきも単純に「生善説」の信奉者とも言い
きれないのかなとも思えるけど、おれが違和感を覚える、どことなく一段上から見下ろしてい
るような「正しさ」はしぶとく生き残ってる。
[NAGAYA v3.13/N90201]