黒猫荘
(mobile版)

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THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚

WELCOME TO “THE TELL−TALE HUT”

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50. 2004年11月13日 05時52分44秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
とりあえず書込みが50に達しました。
二つばかり削除があるので、実質は48ですが、
なんとか「黒猫荘住人」として仮免を貰えましたでしょうか?

で、改めて黒猫荘の「ご利用の手引き」を見ると

>利用者同士の交流は面倒だという方(中略)の、
>入居申し込みはご遠慮下さい。

とあって、交流板というよりも読書日記と化している弊庵なんぞも
「ご遠慮」の対象ではなかろうか、とドキドキしてしまいます。

リアルのマンションと比較してみて、
管理関係と共用室以外に75戸の集合住宅といえば中規模サイズの
マンションで、役員でもやらない限り、住人の名前も碌に把握して
おらず、挨拶もした事がなければ、顔も見た事がない人が半分以上
いるというのが普通だと思います(いや、実際、その規模のマン
ションに住んでいたものですから)。

この黒猫荘でも、未だにその部屋の新聞受けに、お隣のkanauさんの
引越し挨拶が挟まれている部屋が、本日時点で37室あって
これがリアルのマンションだと、相当寂しい感じがすることで
ありましょう。

また先日から某室では十年近く前に亡くなったホームズ俳優の誕生日を
祝っておられたりして、
「ううむ、これは、単に死亡を御存知ないだけか?
それとも作者のドイルが晩年心霊マニアに転じた事を踏まえた
一流の言い回しなのだろうか?」とどう声をかけていいものやら、
悩んでおります。
これが乱歩や正史クラスだと「生誕100周年」とかでお祝いするのは
判るのですが。
このあたりも、リアルのマンションだと、
もっとハラハラしちゃうんでしょうけれども

ミステリに出てくる集合住宅(本物の館や荘(マナーハウス)
を除く)で、個人的に印象深いのは、
江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」の舞台となった東栄館
戸川昌子の「大いなる幻影」の舞台となったK女子アパート
比較的近作だと
竹本健治の「狂い壁狂い窓」の舞台となった樹影荘
芦辺拓の「殺人喜劇の13人」の舞台となった泥濘荘
あたりだったりします。
(ひょっとして「モルグ街の殺人」も集合住宅だったかな?と思って調べたら
「昔は下宿人が又貸ししていたこともある4階建て建物」でした。
うーん、残念)
皆さんの頭には、どの集合住宅が浮かびますか?
この雑文をお読みの方、宜しかったら教えてください。

読み終わった本は阿刀田高の「あやかしの声」。新潮文庫版です。
考えてみれば作者の<奇妙な味>系の作品集は久しぶりでした。
収録作の中には地下鉄サリン事件を下敷きにした(らしい)作品も
あったりして、時代を感じさせます。予言系、ビブリオ怪奇系、
夫と妻に捧げる犯罪系、推理系、民話幻想系など、
良く言えば「バラエティーに富んだ」、
悪く言えば「統一感のない」作品集です。
「あ、こうくるだろうな」という読みを越えて「一本取られた!」
と思ったのは「愛のすみか」と「灰色花壇」の2編。
どうも<寂しい男>に感応してしまったようです。
特に「灰色花壇」のやるせなさと伏線が効いた幕切れのショックには
阿刀田高健在なり、と唸ってしまいました。

49. 2004年11月12日 06時50分57秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
その書の存在を知ってから、ずっと題名を誤読していた本があります。
といっても

「ペトロフカ38」を「ペトロカフ38」と読んでしまう

「シミソラ」を「シソミラ」と覚えてしまう、

という類いではなくて、訳を勘違いしていた、というものです。
それが本日読み終わったロナルド・A・ノックスの「閘門の足跡」。
この訳書の予告が出るまで、

「鍵の上の足跡」

だと信じて疑いませんでした。

普通、ミステリファンをつかまえて
「Lock」
という単語を見せれば、10人が10人「鍵」と解するのでは
ないでしょうか?なにせ「Locked Room」という単語は、いわば
私達にかけられた呪いのような言葉ですから。

「しかし、常識で考えて、鍵の上に足跡がつくか?」
と、突っ込まれても、そこはそれ、

「『天井の足跡』だってありなんだから、『鍵の上の足跡』もありでしょう」

と、堅く信じてしまうわけです。そして、その非常識を正当化するために

「巨大な鍵なんだろう」
「いや、小さな足跡だったのかもしれんぞ」
「それは『この世の外から』だろう」
「あれ?『世に不可能事なし』じゃなかったっけ?」
「とりあえず、『世界最少の密室』じゃなかった事だけは確かだよな」

等というミスディレクション系臆測が、度忘れに加速されて
アタマの中をかけめぐるわけです。
「♪開いってます、あなたのロースン」

というわけで、コニー・ウィリスの「犬は勘定にいれません」の翻訳を
待っていたかのように、70年以上の時を越えて日本の読者の前に
その実態を表したのが、この作品、

「ボートの二人男『殺人』事件〜死体は勘定に入れません」

であります。(うそ)
久々の(本当に久々の)新樹社ミステリの帯には、
「芳醇なスコッチの味わいを思わせる」という挙句が躍っていますが、
まさに70年ものの古酒です。それも「論理」のシングル・モルト。

まずは、高等遊民系の二人の従兄が憎み合いながらも、たった一人
残った係累である大叔母のご機嫌を取るために(その実、遺産の
分け前に与かるために)ひとつの舟で河を旅行するという設定が
いかにも「黄金期」のイギリスであります。
ジェローム・K・ジェロームの聖典が書かれたのが1889年だ
そうですので、この作品が書かれるまでに40年の歳月が流れて
いるわけです。
その全く時差を感じさせないところが大英帝国の悠々たるところ
でありましょう。
そして、消えた二人の道中を再現しながら、保険調査員ブリードンが
妻や警部とロジックをひねくり回す過程のなんとも長閑なこと。
そこにアメリカから来たという探偵志願の男が絡み、逆転に次ぐ
逆転の論理のアクロバットが披瀝されていきます。
中でも、題名になっている「閘門の足跡」を巡って展開される推論が、
圧巻で、左脳が悲鳴を上げそうになる込み入り具合です。
更に、真田解説にも或る通り、とあるキャラクターがギリギリの
ところで示した矜持が、このシングル・モルトの後口を馥郁たる
ものに仕立て上げるのでありました。

原書を辞書片手に地図を前において読み進むのが、この書の
最も適した読み方であるのかもしれません。

「スロー・ミステリ」

というけったいな造語をすると、言葉を大事にする
真田さんに叱られるかもしれませんが、
つい、そう呼んでしまいたくなる佳作でした。
ふうーーーっ。(満足の溜め息)
48. 2004年11月11日 07時11分19秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
書店でヒルのポケミス新刊「死の笑話集」を前にして
「そうか、ポケミスが2000円を超える時代になったのかあ」と
しみじみしておりました。日本の景気も回復したのでしょうか?

と、ふと
「あれれ、カーの『コナン・ドイル』って幾らしたんだっけ?」と
猛烈に気になり始めました。
そこで、解説目録を手にとって調べてみると
「2400円」
でした。

なあんだ、最高値じゃなかったんだ。>2000円

「いやいや、バブル崩壊後最高値かもしれないぞ」
と思って、同じく目録で『コナン・ドイル』の発行日を確認したら
93年8月31日でした。

うーん、残念。

「小説銘柄では最高値」ってことですか。

PDジェイムズの「正義」が上・下巻で計2000円だったので、
「小説銘柄で高値更新」というわけでもないらしいです。
灌漑に水を差された思いです。>カンガイが違う!

読み終わった作品は島田荘司の最新刊「龍臥亭幻想」。
カッパノベルズの上下巻です。
「龍臥亭事件」で一つに繋がれた吉敷世界と御手洗ワールド。
そして遂に両雄が一つの事件でその知性を競うことに!

と、いってもイマドキのよいこの皆さんは
「名探偵ポアロとミス・マープル」みたいなものですくぁ?クァックァッ
>アヒルだね・オリヴァー夫人
と、あっさり納得してしまうかもしれませんが。
作家が、自分の名探偵たちを一つ作品で共演させるというのは
そうそうあることではありません。
即座に思い付くところでは、
大前田英策と神津恭介が共演する「狐の密室」
アル・ウィラーとメイヴィス・セドリッツが共演する「とんでもない恋人」
冬狐堂以下、北森鴻のシリーズキャラクター総出演の「狐闇」
(短篇ならホックの「レオポルド警部のバッジを盗め」とか)
あたりでしょうか。
テレビでは、ジェシカおばさんとマグナム、
エイモス・バークとハニー・ウエストなんて例を思い起こします。
SFであれば、アシモフとかムアコックが奔放に自作のキャラクターたちを
遭遇させて読者を楽しませてくれますが、ミステリでは(他人による
パロディは別として)名探偵の競演という夢のコラボレーションは意外に
少ないように思います。
(いやまあ、辻真先や斎藤栄にはなんぼでもあるのかもしれませんけれど)

さて、作品の中身ついてですが、一言で申し上げれば

「やはり、島田荘司は凄い」

という事に尽きます。
新本格の愛弟子たちが、永年の連載をまとめた重厚長大作で勝負してきても
歯が立ちません。モノが違います。
特に今回の作品は、これまでの島田荘司作品のバリエーションのような
色彩が濃厚で、舞台やキャラクターは勿論のこと、伝承だの、鎧武者だの、
バラバラ死体だの、差別だの、といったキーワードが渾然一体となって、
圧倒的なリーダビリティーとともに我々読者を、懐かしい島田空間へ
引っ攫うのでありました。
正義という通奏低音で結ばれた、オカルトとロジックの和声。
そして、通じ合う名探偵たち。
天上の奇想と煉獄のカタルシスは、ここにあります。
島田荘司ファンへの、少し早いクリスマス・プレゼント。
ごちそうさまでした。
47. 2004年11月10日 06時30分46秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
日曜日の話題ですが、、、
誕生祝いに何かDVDを買ってあげる、と家人にいわれたので、
1年ぶりにDVDソフトコーナーをチェックしてきました。
すると、あるは、あるは、ああ、こんなものまでDVD化されていたのかあ!
といったタイトルの嵐。リーバス警部が4巻セットで売られていたり、
「バーナビー警部」のような渋い作品までDVDになっていたりするのですから
(はあはあ)。
自分の煩悩と欲望に押し潰されそうになって、青息吐息で強制離脱して参りました。
結局、何を買ってもらうか決められずじまいです。
本やら古本やらだと「免疫」があるんですけどねえ。

ちなみに、一番のDVD化希望作品といえば、

「コロンボを除くウィリアム・リンク&リチャード・レビンソン全集」
第1回配盤
「エラリ・クイーン1(蛍の光の冒険/飛び降りた恋人の冒険)」
「殺しの演出者/消えた花嫁」同時発売!

どうよどうよ?

読み終わった本はまたしても佐野洋の「賭けの季節」、角川文庫版です。
元版は新潮社から昭和35年に出ているようですので、立派な初期作品といえましょう。

人気映画女優・上杉悠子には生き別れになった双子の姉がいた。
北海道の喫茶店で平凡にウエイトレスを勤める姉・竹村久子の元に上杉悠子の
マネージャーを名乗る男が訪れる。
そして、双子をテーマにした映画出演の話を持ち掛ける。
夢のような幸運に、人生を賭ける彼女。
だが、それは仕組まれた「ビギナーズ・ラック」だった。
上京した彼女を待ち受ける失望、可愛い陰謀、そして致死性の策謀。
既に回り舞台の上では、奇妙な「自殺」劇の幕は上がっていた。

登場人物の多すぎるフランスミステリ、といったイメージの作品。
佐野洋版の「わらの女」と呼んでもよさそうな展開ですが、
手間のかかる犯罪の割りには、パフォーマンスが良くありません。
折角の双子という設定も充分に活かしきれたとはいえませんし、
リアリティーのなさを補うだけのサプライズもありませんでした。
同じ設定で、戸川昌子が描いたら、さぞや淫靡な展開になったかもしれないなあ、
と夢想して、気を気で養う事にしておきます。

[NAGAYA v3.13/N90201]