黒猫荘
(mobile版)

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カフェ「白梅軒」
オーナー:川口且真
(OPEN:1999年7月19日)
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4794. 2013年10月28日 20時49分46秒
投稿:かわぐち
川井ゆう『わたしは菊人形バンザイ研究者』(新宿書房)読了。
2012年9月に出版された本書を私は迂闊にも最近まで知らなかった。
菊人形の研究書なんて類書はなかなかあるまい。本書により知ったことも多く、私個人としては有益な本であった。例えば、菊人形の菊は、この用途のためにだけ特に改良・栽培された「人形菊」というものが使用されていることなどさえも私は知らなかった。
で、大抵の本はこれで終わりなのだが、本書は「研究書」(著者は否定しているが)としてははなはだ異色。
というのは事実・調査を単に述べるのではなく、いたるところに素顔の著者が姿をみせるからだ。たとえば、カメラが苦手の話が実に具体的に記される。もちろん、菊人形の歴史とは何も関係ない。こうした文章はとっつきやすいが、「低く」みられるのは間違いあるまい。それをあえて辞さず、自分をさらけ出す著者に私は関心を覚えた。
私が類似として思い浮かぶのは、藤森照信の「建築探偵シリーズ」かな。あまりに堅苦しくなく、それでいて資料のマニアックさから、私は「よくできた同人誌」の印象さえ(もちろんこれは誉めているのです)。
でも、こういう文章、真似しようとしても私にはできないな。こうして見ると、「○○年、××があった。これは『△△』の史料に記述がある」の類のほうが、どう・どこまで出してよいやらを考えずに済むだけラクなのかもしれない。
先に読んだ『性欲の研究』内の文によると、著者は「菊人形についての関心が低い以上、私がストリップするしかないと思いました」とインタビューで答えたそうだ。痛快ではないか。
とにかく、これで高浜の「等身大人形」の展覧会が一段と楽しみになった。
4793. 2013年10月26日 14時00分06秒
投稿:かわぐち
ウラジミール・ソローキン『親衛隊の日』(河出書房新社)読了。
2028年、皇帝を戴くロシアの親衛隊士の周りに起きる奇妙なイマジネーションが綴られる。
スートーリーはないようなものと感じたが、これでも訳者によれば「二〇〇〇年代に入って彼が従来の実験的な作風から物語を軸にした古典的ともいえる作品作りに転換した」そうだが、本書は2006年の作。えっ、これで「物語を軸にした古典的」作品なの?と戸惑いを覚える。
難解なイマジネーションは、「面白い」と思えるよりも困惑に近いが、それでも似た作品は思い浮かばない独自性・個性の強い作風であることは確かだ。
近未来を舞台にしているとはいえ、作品中には絶えず政治臭が漂う。もちろん現ロシアを肯定するわけでも否定するわけでもない、プロパガンダ小説とは一線も二線も画する小説であるが、政治意識の強さは、我々にはうかがい知れないほど深いものであるようだ。
永嶺重敏『怪盗ジゴマと活動写真の世界』(新潮新書)読了。
先に赤塚敬子『ファントマ』を読んだため、どうせならと一読。
『ファントマ』とはボリュームも違うが、なにより対象の捉え方が違うので両書を比較することは無意味かも。
『ファントマ』は原作小説に始まり、絵画モチーフやTVドラマまで形を変えながらも使われるファントマという<作品>に対する論考。
本書は、やはりサジイの原作やさらに上映禁止を受けて登場した和製ジゴマに至るまで紹介はされているものの、著者の関心は「怪盗ジゴマ」という<現象>にある。
したがって、著者がジゴマ作品自体を愛するものとは思えない。私が読んでいて不満だったのは、著者が「なぜこの本を書こうと思ったのか」がさっぱり伝わってこないことであった。
確かに「反道徳的」な作品が大ブームを起こしたことは社会的にも興味深い事象かもしれないが、当時の世相の分析が深く成されているともみえないし、活動写真の興隆を描くことに主眼があるとも感じられない。
そのあたりが、本書を読むに当たり「ふ〜ん」ですべてが終わってしまうことになったのでは。
4792. 2013年10月25日 00時09分50秒
投稿:かわぐち
川村伸秀『坪井正五郎 日本で最初の人類学者』(弘文堂)読了。
この人の名前をどれだけの人が知っているのだろう。明治の人類学者。異端好きには「先住民=コロポックル説」で有名かな。日本で人類学創立の立役者の一人であり、世界を回り、最期はロシアの万博見学で客死。
そんな男の業績を著者は根気強く資料を掘り下げ明らかにしている。その作業を思うと気が遠くなるほどだ。
著者は、国書刊行会で「知の自由人叢書」(全5巻)も編集、その中に坪井の『うしのよだれ』も入っている。
とにかくその知のネットワークは読んでいてこんなところにもつながりが!とわくわくする。
ちなみに本年は坪井没後100年の年に当たる。
4791. 2013年10月22日 22時58分51秒
投稿:かわぐち
ロミ『三面記事の歴史』(国書刊行会)読了。
注意しておきたいのはここでいう「三面記事」とは新聞マスメディアの記事を必ずしも指すのではなく「三面記事的出来事」であるということ。
したがって、本書の前半では中世の歴史奇談が中心となる。私はこの前半を読んでいて正直ガッカリだった。
歴史に名の出てくる有名人の話なら類書はいくらでもあるわけで、(私の考える)「三面記事」とは、そうした歴史の表舞台には登場しない市井の人々の巷談だと思っているからだ。後半、大衆紙が登場してからは、ようやくそうした記事が紹介される。
読み終えての感想は、もちろん面白いことは面白いのだがそれだけ。
こうした三面記事をいくら拾ってきても、新たな事件は次々に起こるし、それを網羅することなど当然不可能。
私の関心事としては「人はなぜ三面記事に惹かれるか」であり、それがどのようにエスカレートし、競争となり、逆に社会に影響を与えたか、である。そうした面には本書は応えてはくれなかった。
いまモネスティエ『世界三面記事全書』(原書房)も手元にあるが、きちんと読んだ上でないと判断はできないものの、こちらのほうが私の期待には応えてくれそうな気がしている。これは近いうちに読みます。
[NAGAYA v3.13/N90201]