黒猫荘
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ここの管理人のないとーです。


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118. 2002年11月01日 21時45分11秒  投稿:ないとー 
この前、久しぶりに本屋に行ったら、ラファティの長編が出てて驚いた。
「本格ミステリコレクション」といいラファティといい、最近の河出は
目が離せないね。

『十二人の手紙』井上ひさし 中公文庫(’80)
タイトル通り十二人の人間の手紙というかたちの連作集。

とうとう、やっちまったい。これ、前読んだことあるやんけ。それに気づかずに途中
まで読んだことなんて、今までなかったのに。ショックだ・・・。しかも、こんなに面白
い作品なのに。

ひとつひとつは短いけれど、書簡というスタイルを巧みに利用した意外性が秘められ
ていたり、どれもこれも面白い作品ばかり。特に、意外な結末と、有名作家が素人の
戯曲の台本につけるいちゃもんが、なんだか名探偵の謎解きみたいで面白い「葬送歌」、
善意の怖さが皮肉に表現される「桃」、作者の人を食った企みにあっといわされる
「玉の輿」、「鍵」の鮎哲みたいな伏線、最後にひょいっとひねる「里親」、「人質」
のトリックが気に入ったけど、「赤い手」みたいに無味乾燥の文章を並べてるだけなの
に、それがかえって読み手にイメージを膨らませる構成なんかも凄いですね。こんなに
いろんな仕掛けと趣向が味わえる連作集はなかなかありませんよ。お読み得。


『人形の夜』マーシァ・ミュラー 講談社文庫(’80)
骨董屋の女店主が売り物のナイフで刺殺される。弁護士事務所の専属捜査員シャロン・
マコーンは、以前、店のある商店街で立て続けに起きていた、立ち退き目当てと思われる
放火事件や破壊行為などを調査していたこともあり、この殺人の調査に乗り出す。

シリーズ一作目ということもあるのか、マコーンもさほど強烈なキャラクターというわけ
でもないし−でも、ほとんど出てこないけど家族の話は面白そう−、中心となるプロットも
こなれているはいるけど、特別に驚くようなものでもなくて、平凡な女流ハードボイルドか
と思ってたら、副次的な謎の処理がユニークで、話を面白くしている。そのおかげで、声高に
「傑作!」とか言うような作品ではないけど、妙に忘れがたい印象を残す。

それにしても、正統的だけどちょっと一風変わった感じ、誰かさんの作風に似てるような
気がするんだけど・・・。

117. 2002年10月30日 21時58分00秒  投稿:ないとー 
『鉄の門』マーガレット・ミラー ハヤカワミステリ文庫(’77) 読了
夫の医師と、その先妻との間に出来た二人の子供、義妹と暮らす人妻ルシール。彼女は
いまだに16年前に無残な死を遂げた先妻のことが忘れられずにいた。ある日、そのル
シールが失踪、精神病院で見つかる。何が彼女をそれほどまでに悩ませるのか・・・。

今まで読んだミラーがみんなサプライズ・エンディングだったから、今度もさぞかし最後
に驚きが・・・と思ったら、これはそうじゃないのね。読み方間違えたらしい(^^;)。そ
れでも、物語が徐々に進行するにつれて謎が浮かび上がっていくようなミラー独特のスタ
イルから産み出されるサスペンスや「あの時なにが起こっていたか」が分かってくる時の
面白さは味わえる。

ところで、最初に中心的な謎を持ってこないミラーの作品では、読者の次へと向かわせる
興味をもたせるものに鋭い心理描写が挙げられると思うんだけれど、これがまたミラーなら
ではという部分がある。ネガティヴな部分も含めた人間心理を描くのが得意な作家はミラー
だけじゃないけど、普通ならば、そこに人間に対して揶揄とか憤慨する作者の視線という
ものがどこかに必ず顕れるもの。そして、大半の作家は、人間のネガティヴな感情−はっ
きりいえば悪意−を悪として捉えていると思う。その場合、読者からすれば作者に共感する
ことで、安心感が得られるところがあると思うんだけど、ミラーという人は、人の採る悪意
のある行為とか心理の是非を問わず、徹底して一歩ひいた観察者として、ありのままに描写
していて、救いがない。それが特異なところ。

そういう視線はネガティヴな人間像と作者自身との一線まで取り払ってしまうことになる。
それは耐え難いはずなのに、ミラーの筆は軽やかで、そういうことを感じさせない。また、
人間を悪意をひっくるめて受け入れる姿勢が、不思議に作風に暖かみを感じさせもするんだ
よね。そんな事が出来るミラーという作家には空恐ろしささえ感じてしまうのだけど。

この人間の存在をあるがままに受け入れるミラーの透明な視線と、人生や事件の不可逆性を
際立たせるミステリ作法とが、響きあい支えあって産まれる物語には、暗い気持ちにさせら
れることもあるけれど、なにか惹きつけてやまない魅力を感じたりもするのだ。
116. 2002年10月29日 19時26分13秒  投稿:ないとー 
『不完全な死体』ラリー・ニーヴン 創元推理文庫(’84)
サイ能力による第三の手を持つ男ギル・ハミルトンの事件の解決にあたるSFミステリ
連作集。
SFミステリというとハードボイルド風のスタイルの作品が多くて、パズル的興味に飢
えている僕のような読者の渇を癒す作品は、それほど多くはないもの。この作品集はあと
がきを見る限りでは、後者の方を意識して書かれているような感じだったので、ちょっと
だけ期待してみました。
SFとしてなら「不完全な死体」、ミステリとしては「腕」が面白かった。

「快楽による死」−ギルのかつての盟友が、死体となって発見された。死体は電気刺激で
快楽を得るマシーンに繋がれており、空腹を感じぬまま餓死したのだった。アパートは外
部からの訪問者には自動的に姿を取られる仕組みになっており、それによると誰も部屋に
は出入りした形跡はなく、男の死は自殺の可能性が高いとみなされるが、死に方が自殺の
方法としては、ギルの知っている盟友の行動様式からあまりにもかけ離れたものであり、
事件を殺人とみて探り始める。
一部にミステリ読者好みの機知が感じられる。

「不完全な死体」−蘇生が難しいとされる冷凍睡眠で眠りについている者を、移植用の
臓器のドナーとして利用しようとする 「第二次冷凍庫法」の世界同時可決選挙が近づ
いたある日、ギルは元オーガンレッガー(臓器密売者)に狙撃されるという事件が起こ
る。ギルがその意味を探るうちに、「冷凍庫法」の成立を巡ってオーガンレッガーが
暗躍していることに気づき、その暗躍を阻止するべくたちあがる。
ミステリ的なトリックも包括した作品だが、やはり読みどころはニーヴンの観た未来
像の恐ろしさだろう。

「腕」−有名な発明家がミイラ化した死体となって発見される。現場には姪しか出入り
した形跡しかなく、単純な事件と思われたが・・・
前の二編もそれなりに面白いけども、パズラー好きのミステリファンが一番お気に召す
作品はこれだろう。七分間で一時間進む空間で起きた殺人という発端は西澤保彦の作品
みたいだし、ミステリ読みには魅力的なアイディアがそこかしこに出てくる。 ただ、ミ
ステリとしてだけみると後半はトーンダウンしてしまっていているような感じは否めない。
基本的にアイディアがSF的な扱い方をされているからだと思う。純粋なパズラーとして
なら、最初の十数ページを組み直すだけで、ひとつの作品になると思う。
まぁ、でもシリーズものの制約などもあるなかで、プロットにこれだけいろいろなアイ
ディアを盛り込んでまとめ上げた点は、さすがといった感じだ。


『パッチワーク・ガール』ラリー・ニーヴン 創元推理文庫(’84)
月面都市で、地球、月、小惑星帯の政府代表による会議の開催中に、代表の一人が狙撃
されるという事件が起こる。たったひとりの容疑者はギルのかつての恋人だった。
ミステリとしてはちょっと小粒だけども、密室殺人、ダイイング・メッセージ、小味な
トリックと道具立ては揃っていて、悪くない。SFファンもミステリファンでもそれなりに
楽しめるんじゃないかな。

115. 2002年10月27日 01時41分53秒  投稿:ないとー 
『くたばれ健康法』アラン・グリーン 創元推理文庫('61)
ブロードストン健康法の開祖が殺された。鍵のかかった部屋には、パジャマを着せら
れた射殺死体。奇妙な密室殺人の謎。

のっけからオフビートな一文からスタートしたかと思えば、これでもかとアメリカン
なあっけらかんとしたユーモアの波状攻撃。そのユーモアとプロットとトリックが見事
に調和している。馬鹿馬鹿しい笑いとトリックに腹を抱えつつ、考え抜かれたプロット
に舌を巻く快作。


『ウサギ料理は殺しの味』P・シニアック 中公文庫(’85)
雇われ探偵のシャンフィエは車が故障し、ある田舎町で足止めを食らう。その頃、町
では毎週木曜日になると若い女が殺されるという事件が起こっていた。事件に興味を
ひかれたシャンフィエは、真相を突き止めようとする。

読み進んでいくうちに出くわす奇妙な人々、奇妙な習慣が、不気味なユーモアを醸し出
していて、独特の雰囲気がある。

犯人の意外性や大胆なトリック、一風変わった動機といった当たり前の驚きはここには
ない。それでも、この作品を支えている奇妙なロジックは、今までどんなミステリでも
味わったことのない衝撃を与えてくれることは間違いなし。ミステリというジャンルに
無限の可能性があると感じさせてくれるような、そんな作品。しかも、この作品には続
編もあるらしい。読みたい。


『螺旋階段の闇』ルマーチャンド 講談社文庫(’81)
閉館後のラムズデン資料館で、蔵書の盗難と、司書の助手の女性が螺旋階段から転落
死するという事件が起こる。現場には死亡した女性の他に二人のの人物が出入りした
痕跡が残っており、事態に困惑した地元警察はスコットランド・ヤードのポラード警視に
捜査を依頼する。

ある意外性を持ち込もうとして、結果的にぱっとしない凡作に終わっている。大胆な
発想といえば言えなくもないけど、かといって話の種になるほど妙なアイディアでも
ないっていう、こういう中途半端なのが一番つらいなぁ。

[NAGAYA v3.13/N90201]