黒猫荘
(mobile版)

[078号] [080号]
[入居者リスト]


THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚

WELCOME TO “THE TELL−TALE HUT”

  153〜156件 
[HomePage]   ▼ 投稿する

62. 2004年11月20日 07時53分39秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
最も早い年間ベスト、講談社In−Pocketの
翻訳文庫ミステリベスト10が発表されたそうです。
第1位は、ぶっこ抜きでサラ・ウォルターズのヒストリアル・ダガー受賞作
「荊の城」、なんと二位以下に3馬身差でゴールイン。
翻訳文庫ミステリという限られた範囲でのレースですが、
昨年の「半身」でもみせた玄人受け傾向がパワーアップ。
作家部門、評論家・翻訳家部門でダントツの一位をもぎりとり、
更に読者部門でも票を伸ばしで、堂々の第1位となった模様です。
ディケンズそのままの世界にデュマ的権謀、サド風アモラル
そしてコテコテのビブリオ趣味を盛り込んだ作品ですから
「翻訳小説読み」のハートをゲットしたのも当然といえば当然なの
かもしれません。

総合5位にはもう一人のウォルターズの「蛇の形」もランクイン。
さて、ハードカバーも交えた年間ベストでは、創元のSMウォルターズは
どこまで健闘するのでしょうか?

読み終わった本は城戸禮「不敵三四郎」、春陽文庫版です。

清廉なワンマン市長の鶴の一声で暴力追放条例が上程されることとなった
地方都市「岩風市」。汚職助役、黒崎の内通で、いち早くその情報を
知った二大暴力団「三原組」と「大門一家」は、それぞれに腕利きの
殺し屋を雇い、市長暗殺に乗り出した。
そして市長が凶弾に倒れ、市政に暗雲が立ち込めた時、
夜の岩風に飄然と現われた雲を突く好漢。
その男は、竜崎三四郎と名乗り、腕っ節と早撃ちを披露するや、
忽ちのうちに「三原組」の食客となる。
蠢く殺しのプロ、顔役たちの皮算用、妖艶と清純、
ボディガードという名の密偵、
今、颯爽たる不敵が岩風の町を駆け抜ける。

「赤い収穫」系、というか日活渡り鳥系の一編。
明朗系のファンからすれば、
やっ、とう!はばはば、だいじょうーび、な元気娘がでてこなかった
のが残念!です。
まあ、不敵潜入ガンマン刑事系のファンにはこれでいいのでしょうが、
問題は、颯爽爆裂ワルサー刑事系のファンがこの世に存在するかどうか
ということでありましょう。
身の回りをみわたしても、豪快早撃ちファイティング刑事系のファンは
あまり見当たりませんし。
61. 2004年11月19日 02時15分34秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
昨日は一昨日深夜からバタバタしていて書き込みができませんでした。
昨日、レジナルド・ヒルの翻訳最新作「死の笑話集」を手にとってみて、
初めてこの大作が前作「死者との対話」の続編だということを知りました。

ううむ、この2作の前には「暗黒館の殺人」も「監獄島」も最早敵では
ありません。
フェアフィールドに倣えば、
「これをポケット・ミステリと呼ぶのは、
アルプス山脈を丘(ヒル)と呼ぶようなもの」
であります。

この2日で読んだのは、
野口赫宙「湖上の不死鳥」東都ミステリ
ピーター・ラヴゼイ「降霊会の怪事件」ハヤカワミステリ文庫

前者は、ブンガク畑の作者による
日本製ヴィレッジ・フーダニットの隠れた佳作。
褒め過ぎかもしれませんが、土屋隆夫の「天狗の面」や、
日影丈吉の「孤独の罠」に比肩する作品ではないでしょうか。
さしたる期待もせずに読み始めたのですが、
たちまち、その作品世界の引き込まれてしまいました。

女癖の悪い町会議長にして、消防団長の根上庄之助が
脳卒中で倒れて入院する。
その病室を訪れる人々はそれぞれに胸に一物も二物も
秘めていた。
強欲な妾、妹の仇を討ち先祖伝来の土地を取り返そうとする男、
財産の欲しさの息子、、、
やがて、庄之助は後頭部を殴打された死体となって発見される。
使い込まれた買収資金
おとなしい目撃者
落ちつかぬ共犯者
影をみせた女たち
怯える保険受取人
そして強欲者の日記が語る忘れられた殺人の真相とは?
溺れる不死鳥の予感に、駆け出した男
待ち伏せていた刑事の奥の手の証拠

ユーモラスな俗物描写と、ツイストの効いたプロットが
この生臭い殺人ドラマを後口のいい読み物に仕立てあげています。
3000円以下で見つけたら躊躇なく「買い」だと思います。

後者は、ラヴゼイの歴史ミステリ。
御存知クリッブ部長刑事とサッカレイ巡査の活躍譚です。
題名の通り、今回の舞台は上流階級の間でブームになっていた降霊会。
こういうのが好きな人には堪らない道具立てです。

心霊現象が大真面目に近代科学との境目で、語り、騙られた
19世紀末のロンドン、そこで頭角をあらわしてきた若手霊媒師ブランド。
そのナイーブな言動と抜群の招霊テクニックで
男女を問わず斯界の重鎮達を虜にしていた彼が、
電気を用いた科学実験の被験体を引き受ける。
だが、カーテンの向うで彼を待っていたのは、霊魂ではなく、
本物の死であった。
浮遊する発光霊、投擲する騒霊、駆け巡る老霊媒
そして、微弱電力による感電死。
ブランドの降霊会と相前後して頻発する理屈に合わない盗難事件を
追っていたクリッブとサッカレイは、警察の威信を賭けて
この心霊の謎と不可能な殺人に挑むのであった。

被害者の生い立ちや、当時の科学者と心霊家の相克が
物語に膨らみを与えていますが、サラ・ウオルターズの
重厚長大作品を読み慣れた身の上には、あっさりした印象で、
もう少しねちっこく描きこんで欲しかった気がします。
ただ、不可能犯罪を巡るフーダニットとハウダニットの
連環は美しく、作者のこだわりが伝わってきました。
カーの好きなオカルトミステリマニアにとっては
必読の書と申し上げて宜しいでしょう。

60. 2004年11月17日 06時12分55秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
持っていた本を通勤の途中で読切ってしまいました。
朝バタバタと飛び出したもので予備本を選んでいる余裕がなかったのです。
仕方がないので、先週末のイベントでゲットした
イアン・ランキンの「甦る男」のペーパーバック(サイン本)を
パラパラと眺めていました。
シボーン・クラーク刑事の名前の綴りは「Siobhan」で、
なるほど、これは難読名前だ、と思いました。
キャラクター紹介のところに
(pronounced"Shiv-awn")
とのみ書かれているのが笑えます。
ダルジール警視の紹介に「ディエールと発音する」と
書くようなものですか。

電車の途中で読み終えた本はハヤカワポケットミステリ
「暗い広場の上で」。作者はヒュー・ウォルポール。
帯には「江戸川乱歩が絶賛した『銀の仮面』の著者の傑作サスペンス」とあります。
「江戸川乱歩が絶賛した」のは「銀の仮面」であって、
著者でもこの作品ではないところが、なんとも日本語の便利なところです。
ただ、乱歩の凄さには敬意を表しつつも「なんだかなあ」と思って
しまいました。
というのも、巻末の倉阪鬼一郎解説が、未訳紹介も交えた素晴らしい内容
だったので、「今更、乱歩を持ち出さなくても」と感じた次第です。
しかし一方では、ポケミス名画座とは別に、単発でこのような埋れた
「名作古典」を翻訳出版するというのは、早川もいよいよ本気で
古典復活に乗り出したかと、少しワクワクしてきます。
「サンデータイムズ」のベスト99に選ばれた作品だったんですね。
で、内容はいかにも選者のシモンズ好みの渋いニューロイックな犯罪小説。
というか、究極の「悪」と些か調子はずれの「正義」の対決を
幻想的な手法で描いた風刺悲喜劇、とでももうしましょうか。
1931年という本格の黄金期真っ盛りの時代に、こんな作品が
書かれていたということが素直な驚きです。
作中引き合いに出されるセルバンデスの「ドン・キホーテ」がこの物語の
テーマを暗喩しており、観客であり、主役でもあるという語り手の
位置の揺れが不思議感覚を加速します。
映画「ラ・マンチャの男」の「劇中劇」的演出を思い出しました。
文格の高さに引っ張られたのか、やや生硬な訳文も
作品の雰囲気にはあっているといえましょう。
はっきりいって全く私の趣味には合わないのですが、
倉阪解説とハヤカワの意気に感じて褒めておきます。
これはハッピーエンドなのかなあ。
59. 2004年11月16日 06時30分07秒  投稿:庵本譚 
庵主です。

B&W様
いっらしゃいませ。
(もしや、昔、黒猫荘にお住いではなかったですか?)
「ムーン・クレサント」が「集合住宅」であったというのは、
読了から30年以上たつ私は完全に失念しておりました。
なるほど、すべての三次元トリックの原点は、
あの建物なのかもしれませんねえ。
やはり「ブラウン神父」は真面目に再読すべきシリーズ
ということでしょうか。
来年の読書テーマはこれでいこうかな?
(真面目に古典を再読する)
ご参加ありがとうございます。

本日(4日がかりで)読み終わった本はイアン・ランキンの新作
「血に問えば」、早川書房のハードカバーです。

ハイスクールでの銃乱射による3名の学生殺傷事件は全英を
ゆるがした。現場で自殺した元SAS隊員の「動機」を巡り、
リーバスとシボーンの「血を問う」捜査が開始される。
そう、亡くなった学生の一人はリーバスの血縁であったのだ。
従弟の家族との再会、SASの介入、
生存者の父である議員のプロパガンダ、
軍で押されたスイッチを切れない男たちとの出逢い、
死を纏い自らを晒す美少女、クリックとクラック、墜ちた密約
血の贖いをもたらしたのは、狂気?復讐?それとも、愛?
自らも、シボーンのストーカー殺害の容疑を受けながら、
リーバスの闘いは、まだ終わらない。

最後の最後まで謎のつまった警察小説。
二枚腰、三枚腰のプロットが読み飛ばしを許さない
濃密な読書時間を約束してくれます。
フーダニットについては、CSIなら45分で解決してくれそうですが、
それぞれに翳のあるキャラクターを多数配置することで、
複雑にして緻密な人間模様を織り上げていく手業は
MVA受賞後もますます御盛んといったところでしょうか。
最後50頁の「解決」の連打によるカタルシスは、
この小説が一級品であることを証明しています。
無差別学生殺人というショッキングなテーマは
モデルとなった事件が英国でもあったようですが、
さすがランキンの手にかかるとこう膨らむのか、と
(不謹慎ながらも)感心せざるを得ません。

それにしても、リーバス警部の私生活の乱れっぷりをみていると、
銃弾よりも、ナイフよりも、肝硬変が怖いなあ。

[NAGAYA v3.13/N90201]