黒猫荘
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THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚

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79. 2004年12月06日 06時31分29秒  投稿:庵本譚 
庵主です。
先々週木曜日からこの日曜日の10日間に読み終わった
本は以下の通りです。

小島直記「遠い女」東都書房

バリンジャー・スタイルの「女を捜せ」サスペンス。
それなりに読ませはするのですが、
会社の役員から密名を受けて人探しに精を出す不器用な正義漢という
「探偵」の設定の不自然さに茫然としてしまいます。
妙に海外ミステリを意識しながら、根っこのところでどうしようもなく
日本で、しみったれた動機がなんとも昭和30年代、という作品でした。
古本市で巡り合うまで存在すら知らなかった作品です。

ミッキー・スピレーン「俺の拳銃はすばやい」三笠書房版

早川書房で出ていないマイク・ハマーものの初期作。
ひょんなことから赤毛の娼婦の心を救済したハマーが、
彼女の「事故死」に疑問を抱き、卑しい街を駆け巡るノリノリの一編。
一大売春組織 対 ハマーの闘いの中で、喪われる無辜の魂
対決は燃えさかる紅蓮の中で
俺の心は熱く
俺の拳銃はすばやい
一人称「ぼく」の訳文に面食らいながらも、
絶好調時のハマー節が光る作品。
菊池光あたりが一人称「私」で翻訳すると全然違う小説に
なってしまうんでしょうねえ。

加納一郎「浅草ロック殺人事件」栄光出版社エイコーノベルズ

時は乱歩全盛の昭和初期、処はモダンとデカダンスと笑いの殿堂・浅草ロック
奈落の下でマネキンに模せられた死せる美女
猟奇の探偵作家と編集者が追う連続殺人の顛末を描いた時代推理
開化探偵帖までは古くなく
ホック氏ほどにはパステイーシュでもない
という中途半端なイメージのする作品。
当時の映画・芸能を勉強したい人はどうぞ。

黒田研二「ふたり探偵」光文社カッパノベルズ

クロケン、トラベルミステリに挑戦。
寝台特急カシオペアを舞台に繰り広げられる
超絶探偵コンビ(?)と不可能犯罪の顛末記
仕掛けのための仕掛けが満載で、SF的設定を
パズルの土台に組み込むところがイマ風。
てっきり、人形マニアのおたく青年が探偵を
勤めるものと思い込んでいたので、話に乗りきれないうちに
終わってしまいました。
それにしても、これのどこがトラベルミステリやねん!
という感じの一編で、新幹線のキオスクで西村京太郎の
ついでに買った普通の読者は面食らったでしょうねえ。

鳥飼非宇「非在」角川書店

瓶詰めの地獄が運んできた、人魚探しの殺人パズル。
「蓬莱」にUMAを追う大学のサークルが遭遇した
災厄と奇蹟のドラマ。
自然派探偵たちが解き明かす、死の連鎖と神獣の正体とは?
正史賞作家の第2作。
やや、正史に淫した感のあったデビュー作に比べて
随分と「自分らしさ」を前面におしたてた技巧作。
人魚も朱雀も「解明」されますので、
ご安心してお読みください。

恋愛ホラーアンソロジー「鬼瑠璃草」祥伝社文庫

女流作家ばかりのねっとりとした恋愛ホラー集。
高橋ななをという聞き慣れない作者ノ「シスターズ」という
作品が印象的でした。
篠田節子のパニック小説もオトコの脆さとオンナのしぶとさを
活写した逸品で、怖いような頼もしいような。

北山猛邦「『瑠璃城』殺人事件」講談社ノベルズ

メフィスト賞作家の第2作。
輪廻転生を重ねては殺し合うことを宿命づけられた二つの魂。
その永劫の連鎖の始まりと終わりを描いた
最果ての不可能犯罪ミステリ。
第1作に比べれば、世界観が身近になりましたが、
とにかく人を殺す、殺す。
6人の首無し騎士を3回やるわけですから、それはもう
命の重みは、ドアノブより軽いぐらいです、はい。

ピーター・ラヴゼイ「服用量にご注意のこと」ハヤカワミステリ文庫

いまや押しも押されもせぬ英国ミステリ界の重鎮の軽やかな
短篇集。夫と妻に捧げる犯罪あり、小粋な時代推理あり、
クイーンもビックリの犯人当てクイズあり、英国の伝統的ホラーあり、
バラエティーの豊かさに唸りっぱななし。
一つ一つは軽量級ですが、読み終わって、これが一人の作家の
仕事かと思うと、「さすが」という称賛を禁じえません。
木村二郎氏の詳細な解説も初出から再録、雑誌掲載にまで
痒い所に手が届く出来映えで、
短篇集の解説とは斯くあって欲しいものだと思いました。

ジョセフィン・テイ「時の娘」ハヤカワミステリ文庫版

何を今更な歴史的大傑作。
かのシェイクスピアにも悪王として描かれたリチャード3世の
「冤罪」をマンホールに落っこちてリハビリ中の
グラント警部が晴らすという、余りにも有名なベッド・ディテクティブ。
これまで、己の英国の歴史への無知ぶりに、避けてきたのですが
とうとう思い切って読んでみました。
いや、これは凄い。
本当に面白い。
バウチャーや乱歩が絶賛したのもむべなるかな。
これを読まずしてベッド・ディテクティブは読む勿れ。
歴史とミステリの正しい立ち位置の在り方についての
これぞ古典的教科書。
この作品を読んでこなかった自分を恥かしく思います。

倉知淳「まほろ市の殺人 春 無節操な死人」祥伝社文庫

新本格作家が四季を競作した連作の第1話。
マンションの高層階で「覗き」を犯した頃には
既に死んでいたバラバラ死体という魅惑的な謎に
普通の受験生が挑む、という作品。
三次元トリック一閃のお話ですが、無駄なところのない
引き締まり方が素敵です。
本編は30分で読み終わりますが、
まほろ市の地図を眺め、地名の語源を探るだけで、
1時間は楽しめます。

井上雅彦編「幽霊船」光文社文庫

光文社文庫に移籍して3冊目の異形シリーズ。
「幽霊船」という縛りで、書下ろしアンソロジーが
出来てしまう、というのが、欧米よりも進歩的なのでは
ないかと小一時間。
飯野文彦の中編が、この作者にしては随分とコクのある
ジェットコースターホラーで感心しました。
相変わらず菊地秀行が格の違いを見せておられました。

とりあえずそんなところです。
78. 2004年12月05日 11時13分02秒  投稿:愛猫鉄人 
庵主 様

ここは別世界ということで、HNもいつもと変えてみました。
ネコ自慢HPをやっていると言えば、正体はお分かりですよね。
本のご処分は大変そうですが、遂にお引越しなのでしょうか。
落ち着かれたら「復帰」も期待しております。

壮&美緒シリーズって庵主様が評価される位なので、結構行ける
みたいですね。
私も鉄道ものは好きなので、読んでみたいと思います。
なかなか古本屋に行っても欲しいものが無いもんで、最近
行く気が湧いて来ないのです。

それでは。



77. 2004年12月03日 09時36分58秒  投稿:庵本譚 
庵主です。

ないとーさん
いらっしゃいませ。
こちらこそご挨拶が送れてすみません。

>最近、なんか話題になりましたっけ?クイーンって、

来年2005年が、ダネイとリーの生誕100周年みたいです。
北村薫のパスティーシュも完結するでしょうし、
「まちがいの悲劇」もなんらかの形で翻訳されるでしょうし、
ここで盛り上がらなければ、あと100年待ちって事に
なるのでは

「百年半待て」

って松本清張かい!

「緋文字」はどんな話かも忘れてしまっているところが凄いです。
不倫カップルのあとをつけて町中走り回る話でしたっけ?

今後ともとよろしくです。
76. 2004年12月03日 01時06分56秒  投稿:ないとー 
はじめまして、ないとー44号室辺りです。
(最近投稿してなかったもんだから何号室かも忘れちゃったよホントに)
いまさらですが、ご挨拶してなかったなと思ってきました。

なんだか以前ほどクイーンは話題になってない気がして、
いくつかハヤカワ文庫も品切れが出てきてちょっと淋しいなと思ってた頃に、
いきなりクイーン本が出たのには「?」となってたのですが、
最近、なんか話題になりましたっけ?クイーンって、
まさか『生首に聞いてみろ』が出たからとも思えないけど。

クイーンはここ何年も読んでないけど、僕は『緋文字』が好きですね。
ダイイング・メッセージの謎はまぁともかくとして、
エラリーが振り回されるシーンがとてもおかしかったので。
僕にとってはクイーンに小説としての面白さを感じた貴重な作品です。

なんだか、とりとめもなく書いてしまいました。
これからもよろしくお願いします。

[NAGAYA v3.13/N90201]