黒猫荘
(mobile版)
[078号] [080号]
[入居者リスト]
THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚
WELCOME TO “THE TELL−TALE HUT”
← 133〜136件 →
[HomePage]
▼ 投稿する
83. 2004年12月14日 06時43分34秒
投稿:庵本譚
庵主です。
先週末から家族の間で嘔吐下痢症が蔓延し、
ネットどころではなくなっておりました。
「人口の3分の2が疫病に倒れた」
と書くと凄そうに見えますね。
この間に読み終わった本は以下の通りです。
「折々の犯罪」佐野洋(講談社文庫版)
盟友・大岡信の「折々の歌」にインスパイアされた推理短篇集の
第2弾。第1作の「〜殺人」から「〜犯罪」にトーン・ダウンした分、
騙しのバリエーションに広がりがでており、中にはとんでもなく
肩透しな作品もあります。個人的には縛りがきつい分、前作に軍配を
あげたくなります。
「MAZE」恩田陸(集英社)
アジアの何処かにあって、何千年も前から人を呑み込んできた「迷路」。
現代科学を武器にその謎に挑む4人の男たちの葛藤を描いた
不思議系ファンタジー。見事なキャラの立たせっぷりと大仕掛けな逆転に
感心しつつも、基本的な物理法則を誤解している所があって満点は
あげられないなあ、と感じました。
「蝿の女」牧野修(光文社文庫)
作者の最新中編。キリストの復活を信じるカルトに追われる「オカルト
マニア」たちが、助っ人に召喚したのは「蝿」、即ち「悪魔」だった。
エキセントリックで、アンニュイで、滅多やたらと強い「悪魔」像に
作者の洒落っ気を感じます。私は若い頃の吉田日出子のイメージで
読んでおりました。それにしても、キリスト教をここまでコケにして
宜しいものなのでしょうか?
「臨場」横山秀夫(光文社)
このミスに入賞していたので、慌てて買ってみました。
本格推理!名探偵登場!といった選評に惹かれて、期待しながら
読み進んだのですが、テイストはお馴染みの濃厚な人情ドラマでした。
エピソード毎に語り手を替えて名探偵像を浮き彫りにしていく手法は、
こうして一冊の本になることで初めて「完成」したような気がします。
どの作品も、視点の逆転が鮮やかですが、さっくりと掟破りの
フーダニットが光る「赤い名刺」と「眼前の密室」が本格マニアとしては
オススメであります。
「奇術師」クリストファー・プリースト(ハヤカワFT文庫)
歴史を跨って対立してきた奇術師とその末裔。二つの書簡に綴られた
イリュージョンを巡る確執、そして科学の魔、ダブル・イメージの
連鎖に息をのみ、悪夢的なクライマックスに茫然となる怪作でした。
全くもって推理小説ではないのですが、一種の叙述トリックが
異形のメタ・ミステリ好きの心をくすぐったのでありましょう。
個人的にも、私がFT文庫で最も愛している某作品を彷彿とさせる
部分があって、嫌いではありません。しかしこのラストの不気味さには
少し引いてしまいますね。
「フィリップ・マーロウより孤独」平石貴樹(集英社)
ハードボイルドのパロディだとばかり思っていたら、全共闘世代に
捧げるセンチな「女子大生小説」でした。唐突な「謎」の提示と、
強引な筋運び、そして二人の女と二人の男を巡る別離の会話、
なるほど題名通りの話ではあるのですが、全然推理小説では
ありませんでした。計算され尽した女子大生軽薄体が、一筋縄では
いかないプロットをスキップしながら撫でていきます。
駄目な人には徹底的に駄目な小説でしょう。
「このミステリがすごい!2005年版」(宝島社)
初めて熟読してしまいました。どの作品も、すっかり読み終わった
気分です。あと、「バカミス」は、そろそろ賞味期限切れに
なってきたかなあと思います。仲間うちの冗談が権威を持ちすぎて
腐ってきているという印象を受けました。
そうそう、未読王さんが書評しているのには「看板に偽りありでは
なかろうか」と小一時間、でした。
「本格ミステリ・ベスト10」(原書房)
投票者のレベルが、このミスに比べると低いという印象は免れません。
もしかしたら近親憎悪なのかもしれませんが。
力点が国内ものにシフトしていて、「内輪受け」の域を
脱していない、というのが素直なところです。
きちんと海外もベスト6から10位の解題を行うべきなのでは?
あと、「暗黒館」を本格ミステリであるとしてしまっては
イカンのではなかろうかと感じております。
82. 2004年12月08日 06時48分17秒
投稿:庵本譚
庵主です。
このミスが出たようですね。
日本はベスト10のうちの3作、
海外は4作しか読めておりませんでした。
年末までには、せめて半分は読みたいものです。
これが「本ミス」の方だと、読了本が
日本6作、海外11作(わお!)になるのですが、
このミスでは題名を聞いてもピンとこない作品も
多数あって、まだまだ精進せねばと感じる次第です。
東京創元社からピンバッジの第6弾、SFマークが届きました。
ぱっと見ると、異様にでかく感じてしまいます。
やはり「文字」というのは、イラストとは感覚が異なるものなのでしょうか?
創元推理文庫の中のSFマークでマークを代表する本は何か?
を考えてみると、私の場合は、読んでもいない
「年間SF傑作選」ということになりましょうか。
題名に「SF」が入っていて、傑作揃いでありながら
長く品切れ状態が続いている本、
最入手困難本と思われたロシアSFやら東欧SFが復刊された今、
最も復刊が待たれるシリーズではなかろうかと小一時間。
ベスト・オブ・ベストが出ているので、まあいいかという
噂もありますが、改めて収録作品を眺めてみると、その
贅沢なラインナップに唸る事請け合いであります。
読み終わった本はネヴァタ・バーの「死を運ぶ風」
小学館文庫です。
出るたびに版型が変わる女性パーク・レンジャー、アンナ・ピージョン
シリーズの第3作です。
この作者の本を読むのはこれが初めてでしたが、
中盤までがきつかったです。
アナサジ族の遺跡で頻発する虚弱な観光客のトラブル、
そしてアンナが憎からず思っていた季節レンジャーの突然の死、
夜光るもの、悪い風、
外傷を残さず、命を奪っていく「亡霊」の正体とは?
遺された身体障害児との交感は、アンナ自身の癒しでもあったのか?
続いて起きるストーカーの事故、
敏腕FBI捜査官の登場は、Xファイルを開き、
悪の姿を暴き出す。
キャラクターを書き込み、エピソードを散りばめ、
アウトドアとオカルトのガジェットもたっぷりな作品なのですが、
メインの怪事件に到達するまでが悠長過ぎます。
全体を引っ張る「謎」の演出が恐ろしくへたくそで、
これがカーだったら、どれだけ魅惑的な謎に膨れ上がった事かと
残念でなりません。
また、キャラクターを、テレビ番組や雑誌を引き合いに出して語ると
いうのは、小説家としては敗北のような気がします。
主人公のユニークさ(アル中寸前の中年女性パークレンジャー)で
人気があるのかもしれませんが、私にとっては、
並み以下の現代ミステリでした。
単にアウトドアミステリと私の相性が悪いだけなのかもしれませんが、、
81. 2004年12月07日 06時32分55秒
投稿:庵本譚
庵主です。
愛猫鉄人さま
いらっしゃいませ。
こちらでは、はじめまして。
「にゃんだろう、
もしかしたら、あの人かもめ」
と見当をつけておりますが。
家族と家財の引越しは、とりあえず終わりましたが、
7畳半分のトランクルームに放り込んである
本の引越しがこれからです。
つまりワタクシ的には「まだ全然終わっていない」
わけであります。
家人のピアノもまだ動いていません。
なんと、本棚対ピアノの二大オオモノ激突!引越し総進撃は
これからなのです。
ああ、自分で書いていて鬱になってしまいました。
鶴亀鶴亀。
深谷忠記は、やはり初期作をオススメいたします。
「花」伝説シリーズだけは避けてください。
大鮎哲のレベルには遠いですが、初期笹沢左保並みには楽しめると
思います。
kanauさん
いらっしゃいませ。
海外古典に余り手を出されない方が読了されているというのが、
「時の娘」の「時の娘」たるところなのかもしれませんですね。
「古典」という言葉にこれほど相応しいミステリも
ないかもしれませんし。
今更何が変わるというわけではないのに、
タイムリミットサスペンスのドキドキを
感じさせるというのが、単なる「歴史」新釈ではなく、
小説としても成立しているところ、かと。
いやあ、お見事でした。
作中紹介される「肖像画」をカラーで挟み込んで
欲しくなりました。
またお越しください。
古本屋の百均棚で拾った雑誌「GQ」の2000年3月号を
パラパラ拾い読みしておりました。
チャンドラーがジェイムズ・M・ケインの原作を脚本化した
「深夜の告白」が一挙掲載されているほか、ハリウッドと
チャンドラーのあれこれが手際良く紹介された特集記事満載。
更に、パトリシア・コーンウェルの本邦初訳短篇
「スカーペッタ『冬の食卓』」が掲載されているという
お買い得な本でした。
こんな雑誌が出ていることすら知りませんでした。
出版元はあの今更企画の「グレートミステリーズ」を出している嶋中書店。
こういう専門誌以外の雑誌でのミステリ特集というのは、本屋で
みつけると「よけいな出費」感があるのですが、
チェック漏れの挙句に古本屋で巡り遇うと、逆に「掘り出し物」感が
倍増いたします。
勝手なものです。
読了本は佐野洋の「折々の殺人」講談社文庫版です。
題名だけ見知っていたので「べたな題名の連作だよなあ」と
思っていたのですが、読み始めて、大岡信と作者が同窓で、
かつ朝日新聞で同じ釜の飯を食っていたことを知り、
「これは一本とられました」と反省。
原編者(大岡信)公認の企画だったのですね。
折々の歌に触発された8つの短篇を収録。
それぞれに人生の機微を感じさせるツイストの効いた
作品揃いで、驚天動地の大ネタはないですが、
10分間分の知的興奮はあるといった内容。
お気に入りは、電話口で暗転する恐怖が鮮やかな「夢の旅」。
男としてこれはとても怖い。
植草某の破廉恥事件を思わせる「衰える」も、なかなかに
動機がふるっています。
捜査官の会話だけで未亡人ができるまでを活写した「ひそかな思い」も
お約束の捻りながら、巧さを感じさせてくれます。
また文庫版の解説は、佐野洋と大岡信と同窓の東大名誉教授が
当時の日記を参考に佐野洋の異彩ぶりを浮き彫りにしていて吉。
楽しい読み物に仕上がっていました。
80. 2004年12月07日 00時35分22秒
投稿:kanau
こんばんは、78号室のkanauです。
ジョセフィン・テイの『時の娘』を読まれたとの書き込みを見て思わずお邪魔してしまいました。
やっぱり面白いですよね、このお話。
海外、特に古典作品をほとんど読んだ事がない私の数少ない読了本です。
歴史も割と好きなので、それだけでも十分魅力的ですが、ミステリーとしても魅力たっぷりで、正に2つの味が楽しめる、といった所です。
まさか、あの稀代の悪役リチャード3世の所業を「冤罪」というとは・・・
それだけでも凄いと思います。
言いたいだけ言ってしまってすみません。
それではお邪魔しました。
[NAGAYA v3.13/N90201]