黒猫荘
(mobile版)
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THE TELL-TALE HUT
オーナー:庵本譚
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87. 2004年12月23日 11時35分41秒
投稿:愛猫鉄人
庵主様
久々にXX節を楽しませて頂きました。懐かしいです。
これを読んだだけで、「正体」が判ってしまいそうな文章ですね。
(お前の正体もバレバレじゃい!ってか)
鷲尾や楠田の復刊にも驚きましたが、ベロウがこれだけ復刊されるとは、常識では考えられない出来事です。
まあ、何と言ってもあの「キーラー」を復刊されている店なのですから、何を出しても不思議ではないのですが。
>なんと、本棚対ピアノの二大オオモノ激突!
は、うちに関してはピアノの勝ち!です。やはり1階に自分の部屋を作らなかった
のが失敗でした。
「選択と集中」の時代なので、それに有った収集をするしかないですね。
86. 2004年12月23日 07時14分32秒
投稿:庵本譚
庵主です。
風読人掲示板で、ノーマン・ベロウの原書が大量に復刊される(かもしれない)
ことを知りました。それも1冊2千円程度(18ドル)という適価です。
順調に出版されれば、これまで大枚叩いて集めてきても道半ばだった私的
収集が一気に進むことになります。
1冊に何万円も出してきた身の上としては、内心忸怩たるものがありますが、
これもまあ、世の流れというものでしょうか。
翻訳書で何が出ても驚かなくなりましたが、原書の世界でも黄金期の『復刊』が
相次いでおり、その台風の目に風読人主宰が立っている、というのが凄いよなあ
とつくづく感じる次第です
さて、この黒猫荘 52号室「屋根裏」さんの
1655番目の書込みとして掲載されている萩元さんとおっしゃる方の
芸にいたく感銘をうけたので、猿真似をしてみました。
えー、昔から「蔵書一代」と申しまして、
本を集める趣味というのは、その人一代限りで終わってしまうことが
多いそうです。
一つには、蔵書家は嫁さん貰ろてる暇がないてなことがございまして、
ごくごく希なことにめでとう所帯を持てても、今度は子供を作る暇がない。
なんかの拍子にひょっこり子宝に恵まれても、今度は、なんですな、
父親の蔵書っちゅうもんは、大概、家族から目の仇にされてしまい、
父親が死んだら「やれ嬉し」とばかり古本屋に二束三文で売り捌かれて
しまう、というのが世間の通り相場でございます。で、「蔵書一代」。
嫁さんが古本極道の旦那を掴まえて「私と本とどっちが大事やのっ!?」と
迫っても
「そら、お前、勿論、本」といいかけて
「…さいが大事」とかごにょごにょとごまかす。
「私を二号扱いするんかいなあ!」と怒鳴られてると
「そんなことあるかい!」と嫁さんの帯をさして
「普通、二号に帯はつかんのじゃ」と答えた、てな話もございます。
まあ、それでも古本の好きな人は絶えんようでして、
「いてはりますかあ」
「いてるで」
「あの〜ええ古本ミステリが手に入る工夫はおまっしゃろか」
「なんやねん、来るなりいきなり」
「いや、これから冬の古本市がまた始まりまっさかいに
いっぺん、ちゃんと勉強しとこと思いまして」
「まあ、そら、ええこっちゃけど、おまはんに古本の
趣味があるとは、知らなんだな。そやな
一見え、
二高、
三金、
四ネット、
五精、
六おぼこ
七ぜりふ
八力
九肝
十評判
てなことを言うな」
「…そ、それはなんじゃもんじゃの薔薇の名前だっか?」
「それもいうなら『薔薇のつぼみ』」
「がぶっ」
「こら、な、何すんねん、噛みつく奴があるかいな、
ちゃうがな、これが古本が手に入る十か条、
このうちの一つでもそなわっとったら古本が手に入るというな」
「手に入りますか」
「手に入るな」
「ほな、一番目は何ですねん。」
「一見え(いちみえ)というて、まずは眼力やな。古本屋で、ざっと棚を
見渡して、これぞという逸品を選び出す眼力がないと、カスばあっかり
つかまされることになるな」
「なるほど。ほたら、どないです、私の眼力。」
「うわあ、こらまた血走った目開きよったなあ。で、なんかエエ買いもん
したことあるんかい?」
「ブックオフの百均でサンリオ文庫、抜いたりました」
「お、サンリオとは立派やな。腐ってもサンリオ、栗より美味い十三里オと
いうからな。んで、なに抜いてん?ディキンスンかい?」
「大きい声ではいえまへん」
「そやな。『生ける屍』や『鳥の歌いまは絶え』やったら、まあ、万馬券
みたいなもんやからな。心配すな、だまっとったるさかいに、こっそり教え」
「…ハロー」
「『ハローサマー、グッドバイ』かい!?そらたいしたもんやがな。
こら、おうたコニイ教えられやで!」
「…ハロー、キティーのかず遊びブック」
「あほ。去(い)に、もうええわ」
「あきませんか、わたしの眼力」
「あっかいな。まあ、いうたら『侍のアナウンサー』か」
「なんですねん」
「武士アナ」
「ぶしあなあ〜?」
「『ふしあな』な上に濁っとる」
「エラいいわれようやな。
ほしたら、二番目はなんです」
「二高(にたか)というてな、背が高いとそれだけで古本を探しやすいな。
高い棚に有る本でも、ひょいと手伸ばして取れるさかい、ちっこい人間が脚立
探しとる間に勝てるな。古書市の棚も高いところから見下ろすさかいに、
遠くまでよお見える。抜き合いになっても、ふっと視界の外から手が降ってくる
感じやな。抜かれた方からすると『書を見て、森を見ず』っちゅうか」
「なんかよう判らへんけど、ええわ。
んで、どないです!、私の身の丈」
「まあ、もう三尺高こうて、人並みか」
「晒し首でっかいな。
もうええわ。ほな三番目はどないです?」
「三金(さんかね)というて、お金やな。
当り前の話やけど、古本の世界でも金があったら、なんぼでもええ本が集まる。
デパート市でも、棚から買うたりせんと、ショーケースんとこで買いもん
できるな。『並ばずにケースから買うお大尽』ちゅうてな。
まあ、お医者さんとか、漫画家の先生とか、金に糸目をつけんと、
ええ本、集め捲ってはる人は仰山いてはるで。」
「実は、金なら少々蓄えが…」
「おっ、これはお見それした。お前みたいなんが、思わん小金を
貯めとるっちゅうのは、こら、あるこっちゃ」
「単行本で買うところを、文庫落ちを待って、
新刊で買うところを、古本落ちを待って
自分で買うところを、図書館に買わせて八年間、貯めに貯めました」
「買うことあるんかいな?まあ、いずれにしても、よう頑張った。
ほんで、どのくらいあんねん?」
「いや、そんな事、ゆうたら狙われる」
「誰にも言わんさかい、言うてみ」
「いや、あんたでも、それがためにむらむらと悪心を起して、何がおこるやら」
「こらまた、大層に出たな。お前から金とろとは思わへんから、ゆうてみって」
「…150円」
「何い?」
「150円!」
「アホ!ブックオフでも2冊も買えへんわ」
「あ、ブックオフでしたら割引券があと50円分あります」
「ドアホ!
何が『それがためにむらむらと悪心を起し』じゃ」
「あきませんか」
「あっかい!」
「ほしたら四番目は何ですか?」
「だんだんアホらしなってきたけど…
四ネット(しねっと)というて、インターネットやな。
最近はネットの古本屋やらネットオークションやらいろいろあるさかいに
これをコマメに追っかけとるだけで、結構ええ買いもんができるな。
特に原書で読む人はネットのおかげで、随分と楽に安う買いもんできる
ようになったらしいで。そやけど、おまはん、パソコンもっとるんかい」
「馬鹿にしなはんなや。パソコンぐらいありますがな」
「ほほー、そら感心やな」
「世界のブランド品でっせ」
「どこのや」
「NINTENDO」
「そら、ファミコンや」
「親指シフトキーで」
「あれは十字ボタン」
わいわいゆうております「古本根問い」半ばでございます。
とりあえず回文
「乱歩の嘘と土蔵の本ら」
そんなところです。
85. 2004年12月22日 06時18分39秒
投稿:庵本譚
庵主です。
また間を空けてしまいました。
単に早起きができなかったというだけの理由です。
とりあえず先週木曜日からの読了本は以下の通りです。
「迷宮の暗殺者」デヴィッド・アンブローズ(ヴィレッジ・プレス)
噂に違わぬ怪作。航空機事故で夫を失った女性精神科医が巻き込まれた
巨大なる陰謀譚と、仕掛けて仕損じなしの秘密諜報員の活躍譚が
交錯するところ、仮想と現実の汀で策謀の輪舞が始まる。
うつし世は夢、夜の悪夢こそまこと。
活劇部分の「らしさ」がハリウッドで鍛えられた作者の実力を
証明していますが、いや、それにしても、よくまあ
こんなぶっ飛んだお話が書けたものです。
あとがきを読むとどうやら作者は大マジメのようです。
えーっと、或る意味、2004年に非常に相応しいお話
だったのかもしれません。
「ナイト・ブリード」友成純一(ハルキホラー文庫)
作者の住まう福岡を舞台にした近未来ハルマゲドンスプラッタ大河小説の
第1章。ありとあらゆる魔物や妖怪が当り前に出現するようになった日本。
だが、自然現象と化した筈の殺戮には演出者がいた。
混乱する時局に乗じて九州の独立を目論む影の勢力。
狂奔する教義、不死身の探索者、憑依する無自覚、破滅への能弁、
果して、さ迷う魂たちの邂逅の果てに待つものとは?
それは作者も知らんもんね。とりあえず妖怪風呂敷きは広げてみました、
みたいなお話でした。やれやれ。
「深夜の魔術師」横溝正史(出版芸術社)
戦中・戦前の埋れた作品を発掘して一挙出版したマニア垂涎のシリーズ
第2巻。この収録作を古本で探そうとすると、数年の歳月と数万円の
費用が掛かります。ありがたやありがたや。
個人的には、名のみ知っており、長きにわたって「一体どんな
話なんだろう??」とあれこれ妄想してきた「玄米食夫人」が読めて
非常に満足しております。
ベストは、中公文庫の『明治・大正・昭和 日米架空戦記集成』にも
採られた「慰問文」ですが、その他の時局小説にも、様々な正史らしさが
見え隠れしていて、ファンならば手に取らずにはいられない作品集
といえましょう。
「ケルベロス第五の首」ジーン・ウルフ(国書刊行会)
本年度最も話題になったSF、といっても宜しいのではないでしょうか。
このミスにランクインしたこともあって、とりあえず参戦してみました。
結果は3日間掛けて半泣きで読み終え「もう、なにがなんだかわからん
よう」と尻尾を巻いて帰ってきた次第です。
特に第二部が辛い。
延々他人の退屈な悪夢に付合わされているような苦痛の読書体験でした。
こんなに辛いのは「黒死館殺人事件」以来です。
SFマガジン10月号の鼎談や、殊能ページの詳細な絵解きを見て初めて
「ああ、そーゆー話だったのかあ〜」と解かったような気になった次第です。
ですが、新本格推理と比較して語るおっちょこちょいな物言いは慎んで
欲しいです。リストの超絶技巧と関西弁ラップぐらい違うと思うんですけど。
「最後のディナー」島田荘司(講談社ノベルズ)
四十の手習いで英会話学校に通う羽目になった石岡先生が、
出会った上品な老紳士。半年間の交友が、運命の聖夜に収束した時、
謎を残して「父」は消えた。ハート・ウォーミングな一編で、
桜木町から関内、黄金町といった横浜散策小説でもある作品。
小品ですが、人物造形が巧みで、読まされます。救いのある
エンディングもクリスマスに相応しい贈り物でしょう。
原書房版の小洒落た造本のわけが理解できました。
それにしても女性に厳しい事を書きながら、圧倒的な女性の支持を
取り付けるというのは羨ましいとしかいいようのない才能であります。
「白い果実」ジェフリー・フォード(国書刊行会)
国書刊行会が「超訳」をやると、こうなるわけですね。
世界幻想文学大賞を受賞した3部作の第1巻。
一人の超人の夢を具現化した理想境の自壊と、鼻持ちならない
エリートの魂の遍歴を描いた快作。
見た事もないガジェットが満載で、傲岸不遜、豪華絢爛、轟然一声の
ノンストップ・ファンタジー。
山尾悠子の異界言語で綴られた禁断の果実を巡る探索と再生の
ドラマは、凡百のライトノベルを超越した高みへと読者を
導くのでありました。
ああ、早く続きが読みたい。
「エラリー・クイーン Perfect Guide」EQFC(ぶんか社)
生誕百周年に向けたジャンピングボード。
EQFCのメンバーとしては、目新しい話はないですが、
それでも、この本を通読すると、無性に頭からEQを
読み返したくなります。今日は、古本屋でペンギンブックス版の
「The Roman Hat Mystery」に遭遇したのをこれ幸いと
序文を流し読みして、懐かしさに耽ってしまいました。
ああ、一体誰がエラリー・クイーン夫人になったのだらう。
引退してイタリアで暮すのはいつのことなのだらう。
なんだ、ちっともフェアじゃないぞ、エラリー・クイーン!
そんなところです。
84. 2004年12月16日 06時39分43秒
投稿:庵本譚
「双子座流星群」やら「獅子座流星群」とか
きくたびに、消火器詐欺の話を連想してしまう庵主です。
「消防署の方から来ました」
「双子座の方から来ました」
昨日は、赤坂の旭屋書店で銀河通信のダイジマンさんに応対して
いただきました。ダイジマンさんは、SFマガジンや朝日新聞にも
載ったことがあるカリスマ書店員さんの一人です。
ここ数日、探しあぐねていたアンブローズの「迷宮の暗殺者」を、
ちゃちゃっとどこかからか取りだしてきてくれた手際に感動して、
つい買う予定のない本まで買うことになってしまいました。
カバンが重い!
財布が軽い!
一昨日読み終わったのは福井晴敏の「6ステイン」。
作者の初短篇集。銀座の旭屋にサイン本が積まれていたので
発作買いしてしまいました。
収録されているのは防衛庁情報局、通称「市ヶ谷」の
末端に連なる人々の様々な「闘い」を描いた2中編+4短篇。
作者はてっきり「長編の人」だと思い込んでいたこちらの蒙を啓く
粋で小癪で気の利いた人間ドラマが満載。
元情報局員だった中年サラリーマンが私怨を抱いた北のプロと
死闘を演じる羽目になる「いまできる最善のこと」
冷戦の危険な遺物の争奪戦に一人の男を待ちつづけた女の凛とした
気風が光る「畳算」
デスクワーカーが冷徹な十代の娘と組んだ夜の命のやり取りと
鮮やかな逆転を描いた「サクラ」
母なるものの存在を巡る諜報ゲームの顛末と一人の女性
エージェントの怒りと癒しを活写した「媽媽」
引退した老掏りの最後の大仕事と純愛、そして母たちの復讐を
痛快に描いた「媽媽」の後日談「断ち切る」
引退間際のタクシードライバーAPが待ち続けたのは
誰だったのか?伝説の狙撃手と新たな伝説となる若き狙撃手。
策謀の夜に操りの牙が躍る「920を待ちながら」
どれも、福井晴敏の作劇力が短篇でもその威力を発揮することを
証明してみせる逸品揃い。
発刊の時期が各種ベストの締切後だったために、年末ベスト10祭の
蚊帳の外に置かれていますが、個人的に今年の年間ベストを選ぶ際には
絶対忘れてはいけない作品集だと確信します。
ああ、どいつもこいつも格好いいぞおっ!
「格好いい」といえば、昨日の読了本もまさにそれ。
トレヴェニアンの「ワイオミングの惨劇」(新潮文庫)。
19世紀末の小さな鉱山町で起きた、マッドな3人の脱獄囚と
個性豊かな住民+一人の流れ者の闘いを描いた純粋西部劇であります。
虚実ないまぜとなった昔語りのうちに、弁舌爽やかな少年の
心の傷と匂い立つような鉱山街の日常が私達の眼前に迫って
きます。そして舞台を切り裂くように降臨する狂った破壊神、
痛みと怯えを支配し、暴走する「教義」。忍従と腹背の夜に
立ち上がった者、その背負いし過去と今。
これは、およそミステリーからは遠すぎる、そう二十マイルは
遠すぎるお話なのですが、最後の一行に込められた実弾は確実に
あなたのセンチメンタルな心の真ん中を撃ち抜く事でありましょう。
やられたあ。
[NAGAYA v3.13/N90201]