今日の逆走列車(1999年8月25日)

先日電車に乗っているときに、奇妙なことがあった。

それは、私の乗っている電車がある駅に到着したときのことである。
電車はホームに入っていき、徐々にスピードを落とし、まもなく停止するという状態になった。
まわりの人たちは降りる準備を始め、扉の方に向かい始めたが、しかし、その駅は終点で、私は別に急いでいたわけでもなかったのでまわりの人が降りてからゆっくり降りようと思い、のんびりしていた。
電車はさらにスピードを落とし、やがて停止した。

電車に限らず、一般に動いている車輌が停止する場合、停止の瞬間、やや押し戻されるような感じがあったりして、立っていた場合よろけてしまったりする。
その時も、ややそういう感じはあったが、それは、せいぜいよろけて隣の人の足を踏んでしまうという程度のもので、つまり、ごく普通に停止したのだった。

ところが、次の瞬間、その電車が急激に逆走し始めたのだ。
激しく後ろ向きに走り始めたのである。

私はジェットコースターには全く興味がないので、ほとんど乗ったことはないのだが、ジェットコースターには、坂を下ってきた車輌が惰性で上り坂のレールを上っていき、その運動エネルギーがすべて位置エネルギーに変換された時点で一時停止し、次の瞬間からまたその位置エネルギーを運動エネルギーへと変換しながら後退していく、という動作をするものがあるというのを知っている。

もちろん、そういった動きをするジェットコースターにも乗ったことがないので、これはあくまで推測なのであるが、その時の電車の動きはほぼそれに相当するものであったと思われる。
しかも、ジェットコースターの場合は、そういう動きをするということをあらかじめ承知した上で乗るのであるが、電車は通常後ろに下がるということはないのである。

私は、思わず声を上げそうになった。
そして、何事か大事件もしくは大事故が起こりつつあるのだということを直感した。
次に起こる惨状を覚悟した。

ところが、何故か、まわりの人たちは少しも慌てた様子がない。

何故なのだろう、と思った。
次の瞬間、私は、そういうことがあるかもしれない、ということを思い出した。

動いていたのは、隣の電車だった。


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