今日の電波時計(1999年8月14日)

先日、近所のホームセンターに行くと、時計コーナーに「電波時計」が並んでいた。
電波時計というのは、郵政省が日本標準時を乗せて送信している標準電波を受信し、自動的に時刻を補正する時計のことである。
電波時計は、常に時刻を補正しているので、進んだり遅れたりすることがない。
その店にはデジタル式の置き時計タイプが2台並んでいた。
私は、その2台の時計の指す時刻が完全に一致し、しかもそれが日本標準時と一致しているということに感動することを予定して、その2台を見比べた。
2台の指している時刻は、ずれていた。

日本標準時の電波は、福島県田村郡おおたかどや山にある送信所から送信されている。
これまでも標準電波は送信されていて、それを受信して自動的に時刻を補正する時計がなかったわけではないのだが、あくまでもそれは「実験用」として送信されていただけで、永続的に送信されることが保証されていた訳ではなく、そのため一般的な電波時計はほとんど発売されていなかったのである。また出力も弱かったので、一部の地域でしか受信できなかったのだった。
それが、今年6月10日の「時の記念日」より、出力が増強され、国内のほとんどの地域でそれが受信できるようになり、同時に正式な標準電波として送信されるようになり、それに伴ってメーカー各社から相次いで電波時計が発売されたのである。
ある大手メーカーは、今後置き時計タイプの時計をすべて電波時計にする予定であるとしているので、今後は手で合わせる必要のある時計はだんだん少なくなっていくのかもしれない。

ところで、標準電波の元になっている日本標準時は、セシウムを使った原子時計が刻んでいる時刻が元になっているのであるが、セシウム原子時計は非常に正確で、誤差は10万年に1秒程度といわれている。
私がホームセンターで見た2台の時計は、秒の表示がわずかにずれていただけだったのであるが、そのずれ方はだいたい、0.3秒くらいだった。
このことをある友人に話すと、その友人は、もしかしたら、2台のうちどちらか一方が3万年くらい前に作られたものだったのかもしれないと教えてくれた。
しかし、もちろんそんなことはない。
通常、電波時計は1日1回以上時刻を補正するのであるから、それが何万年前に作られた物であろうと、セシウム原子時計と電波時計の指す時刻は、電波時計自体に発生する1日の誤差以下の精度で一致していなければならないのであり、したがって当然2台の間でも、それぞれの時計の1日の誤差の合計以下のレベルで一致していなければならないのである。

水晶発振による時計の誤差はセシウム原子時計の誤差よりもはるかに大きいので、標準電波による補正の後それぞれの時計に生じた誤差の合計が私が見た時点で0.3秒ほどになっていたというのは考えられないことではなく、また、そのために電波で時刻を補正するのであるから、むしろ、電波時計自体の誤差は大きい方が電波時計としての有り難みは増すわけであるが、しかしその誤差はあくまでも電波時計自体の誤差であって、セシウム原子時計に10万年に1秒発生する誤差とは何の関係もないのだ。

つまり、その友人は何もわかっていなかったということなのであるが、しかし、仕組みが飲み込めていなかったとはいえ、0.3秒の誤差がある以上それは3万年前に作られた物に違いないとする判断はきわめて論理的であり、原子時計というものの本質を考えるときの道筋は必ずしも外しておらず、そういった意味ではもしかしたら私などよりも原子時計についてより深く理解しているのかもしれない。


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