イノシシ







最近ではイノシシが民家の近くに出没したり、畑などを荒らして
人間の生活に甚大なダメージを与えているのはお馴染みの事だ。
これは比較的人家も近い山で、あべべさんが勢子中に発見した
イノシシのネグラ。
そのまま寝ててくれれば、彼は30-06でソイツを仕留めたんだろ
うけど、勢子の役割は山の中の大物を追い出すように歩き回る
ワケだから、イノシシもその前に気配を感じて逃げ出したのだ。

しかし、待つ側に比べれば追う側は獲物に出会えるチャンスが遥か
に大きいんだけど、撃てる場所って事で考えれば、出会えたからっ
てどこでも撃てるワケじゃない。
待つ側のタツは射撃範囲は決まっているが、その範囲内であれば
獲物を外そうが当たろうがタマの行く先の安全は確保されている。
一方、追う側のセコは銃を持っていても、タマの行く先の安全が
確保されていない場所も歩くのだから獲物がいても撃てない事が
あるのは仕方ない事なのだ。
それに、地形によってはセコの役はかなりハードな仕事となる。




セコとタツ、どっちがどっちってものはない。
例えば、交代ごうたい、又は数名で飛来するカモを撃つ
デコイ猟はバッター、つまり攻撃側だとすれば、撒き狩り
の大物猟はまるで守備側だ。
獲物に対してアクションを起こすセコがピッチャーなら、
そこから出た獲物を止めるタツは捕手と内野手、外野手
に例えられるだろう。
ピッチャーだけでもダメだし、守備だけでもダメなのと同じ。
ただやはり、獲物が出るのもセコ次第ってトコがあるので
野球のピッチャーに例えるのは丁度良い感じだ。
とか言いつつ、アタシゃ野球を良く知らないんだけどね・・。

そして、セコとタツの見事なコンビネーションで、写真のよ
うにイノシシとかが獲れたりするのだ。
犬を大量に使う方法もあるが、人間だけで行うグループが
多いのは、釣り好きな人が投網で魚を獲らないのと同じだ。












さて、このイノシシ、獲っても獲っても被害の報告が後をたたない。
そりゃそ〜だ、本来の野生動物の領域に人間がドンドン進出してい
き、野生動物の住む場所や食料のバランスが崩れてきてるし、天敵
のニホンオオカミなんてとっくの昔に絶滅してるし、何たってハンター
自体が狩猟鳥獣より先に絶滅し始めているからだ。
そして仮にハンターがまだまだ大量にいたとして、何より問題な
のは今まで猟場としていた場所にもどんどん人家が出来てきて
いるから、そんなトコだと銃は使い難くなってきている事だ。
そうなれば、ハンターはその地を諦め、忘れ去る事になる。
すると地元の有害鳥獣駆除のボランティアがワナを仕掛けて駆除す
るってのが定番だけど、仕事じゃないからそんな本気じゃ出来ない。
でもって、イノシシとかは畑やヒドイ時は人家の庭さえも荒らし放題。
そんな背景もあってか、人家に近い山とかでも地元の人ってのは
猟期中のハンターに温厚でいてくれるのだ。
特にあべべ山近辺の住民の方々は、我々ハンターが休憩してるトコ
に「昨日あっちにシシが出たぞ!」ってな感じで話しかけてくるのだ。




奥から、シカ、イノシシ、イノォ・・じゃなくって、あべべさん。
この横たわる三体の内、目を覚ましているのは一番手前
の北部方面隊長だけだ。
つ〜か、どしてこのオッさん、雪ん中で寝てるんだろ・・・?
そのうち、イノシシのネグラからイノシシを追い出して、代わ
りに自分が寝てそうな勢いだ。
しかしワタシなんて、この人には獲物の足跡の見きわめも
全然及ばないし、山を歩けばついて行くのがやっとなのだ。
やはり、経験を積んでる人間には敵わない・・。

ところで、山の動物はシカやイノシシは勿論、クマでさえ
人間の気配を感じれば逃げ出す事が多い。
しかしイノシシの場合、忍び足でセコが近づけば、ギリギリ
まで寝てる場合があって、このあべべさんもセコ中に目を
覚ました大型のイノシシとご対面した事があるのだ。
その時に無線から、「ゾウがいるっ!」 ・・ゾウはいないの。











言葉の通り、イノシシは猪突猛進、追われてヤバイ時なんかは
人間がいてもまっすぐに突き進む事がある。
あるベテランから聞いた話では、かつてイノシシに突進されて身を
かわしたものの、銃のスリングにイノシシのキバが引っ掛かり、鋭利
な刃物で切られたようにスリングが真っ二つになったと言う事だ。
そして、その人は続けた。
「場合によっちゃ、熊より危ない時もあるから気をつけなよ。」・・・と。
そう、イノシシのキバはまるで植木バサミのように鋭く、そのデカい
頭とキバで敵に猛突進して、思い切りすくい上げるように攻撃する。
その時に腹を切られる猟犬もいるらしいのだ。
それが生身の人間であれば、大惨事になる事も想像できる。
その話を聞いて、野生の動物を甘く見るモンじゃないと思った。
実際には、その前に撃っちゃうんだけど、やはり注意は必要だ。
・・・しかし撃たれてしまえば、そんなイノシシでもおとなしい。



四駆の軽トラは猟場の山には最高だ!
そりゃモチロン、ジムニーとかの方が山には強いけど、別に
我々はクロカンをするワケじゃないし、ある程度から先へは
ハンティングなんだから徒歩で進むワケだし・・。
むしろ、猟場に向かう時よりも獲物を運び出す時に四駆性能
が優れたトラックが必要なワケなのよ
そんな時に便利なのはやっぱり四駆の軽トラだ。
かと言って、誰もが軽トラまで持つ余裕があるわけじゃない
から、軽トラで来てくれる人ってのは有難いのだ。

あべべ山の皆さんには軽トラが正式採用されている。
場所を変える時とか、何台もの軽トラの中にジムニーや
RV車が混じって移動するんだけど、何だか米軍のトラック
の車列にハマーが混じって走ってる姿がワタシの中では
ダブっちゃって、移動の時もなんだか楽しいのだ。
いざ狩猟を始めても、誰かのトコで獲物が獲れれば、無線
を受けた最寄の軽トラが回収に来てくれる。
「おぉ〜、イイ型のシシだねぇ〜! さて、積もうか!」と、
自分の軽トラに多少の血が付くのに快く積んでくれちゃう!













これはある時、ワタシがタツ、タツマとも言うけど、つまりがアン
ブッシュしてたトコロから前をボ〜っと眺めた景色だ。
タツの任務は、セコが追い出した獲物を待ち構えて撃つんだけど、
待ってる間って結構ヒマだし、冬だから寒いのよ・・。
だからって、あまり動いてちゃ獲物から感づかれちゃうし、目の前の
景色の中で動くものの発見が遅れる事になるので、大抵はジッと
銃をもったまま待ってるのだ。
そこまでしても、自分のトコに獲物が出てくる確率って高くはない。

そしてこの時もワタシは、「この場所って殆ど獲物が出なそ〜・・」
と、思うような場所だった。
しかしここを案内してくれたベテランは、「あそこに道(獣道)がある
のが分かるかい? あそこからこ〜やってこ〜いう風に来るから。」
なんて、あたかも絶対にイノシシが来るような感じで教えて貰った
ものの、ワタシは待ちボウケのポイントに違いないと思ったのだ。
それでも万一、もしかしたら来るかもしんないので気は抜けない。




ボぉ〜〜っとしてると、無線の会話からイノシシがどっかに
逃げている事を知るが、「ドコドコ!?どっちぃ〜?」なんて
風にタツは声を張り上げて交信するワケにもいかない。
仕方ないので、更にボ〜っとしながら、教えて貰った獣道の
方向を眺めていた。
すると、動物の動く影がヤブの間から見え隠れする。
小走りだけど、そんなに早くない。
そして、ベテランが言うアソコってトコをホントにあ〜やって
こ〜やってイノシシが出てきたのだ!
ワタシから見ると撃ち下ろしだけど、あまりヘンなトコで撃つ
と回収が大変だし、引っ張り上げる皆さんも大変だ。
どうにか、良い射撃位置でワタシは308を発射した。
一発で倒れたけど、バタバタしてる。
が、丁度良く水が流れてる所に倒れてくれたから、血抜き
が自然に出来る。
しかし結構長い事眺めてても、バタバタしてまだ血が出てた
から自然の動物の生命力ってのは強いモンだ。






ホントはそのまま血を出し切っちゃった方が肉の味は良いはずな
んだろうけど、あまりにもバタバタが続くモンで無線でベテラン勢に
聞いてみた。
そしたら、もう止めちゃってイイよ〜ってな事で、ワタシはイノシシの
アタマを狙って楽にさせたのだ。
その日のタマは自分でリロードしたもので、パウダーはDC-300を
44グレイン、弾頭はWinchesterのソフトポイントの150グレイン。
150で大丈夫?なんて思うなかれ。 
イノシシの後頭部、耳の後ろから入ったタマは、ほっぺたに握り拳
が入っちゃうくらいの穴を開けて貫通し、脳ミソ空っぽ状態だった。
それにしても経験者、ベテランの皆さんってスゴイですねぇ〜!
まさか、そんなに脚本通りにイノシシが出てくるなんて。

お蔭様で、でっかいイノシシを獲らせてもらっちゃったもんだから、
記念写真もますますシマリの無い顔になったのだ。
いゃぁ、100〜120Kgはあったね! ・・いや、・・・って気がしたね。
そしてワタシがイノシシを撃ったトコ、実はあべべさんもここの
仲間に加わった時に初めてイノシシを撃ったポイントなんだって。



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