4 結果及び考察
4.1 成膜性、膜質
 商品としての可能性を検討するためダイセル化学工業(株)から提供された二次酢酸セルロースから成膜した膜を比較試料とした。また、これまでの研究結果から成膜性はアセトンの蒸発速度、蒸発時の温度低下による水蒸気凝縮現象の有無に大きく左右されることが分かった。不透明な膜は比較的簡単につくることができるが、膜質としては劣る。そこで、濃度、蒸発容器、温度をかえることによりアセトン蒸発速度を変化させて成膜し、透明な膜をつくり比較した。成膜性、膜質の評価は膜の比較試料とほぼ同じ、やや劣る、劣る、膜にならないまたは膜質評価できずの4段階とした。
Fig.2は実験に用いた廃棄物とそれから得られた膜である。また、Table2は膜の評価をまとめたものである。
 紙ゴミや脱脂綿のようなパルプ化がなされたセルロース系廃棄物からは良い膜ができている。しかし、合成繊維との混合綿や、木材、草本系のリグノセルロース状態の廃棄物からは良い膜ができない。また、緑茶葉、豆であるコーヒーの廃棄物からはわずかしか酢酸セルロースが得られなかった。
 酢酸セルロ−ス膜は普通透明であるが、廃棄物に含まれるインクやリグニン等のアセトン可溶の不純物による着色がみられた。

 
上質紙(ノート)
新聞紙
ダンボール
トイレットペーパー
紙パック

非木材紙(ケナフ100%)
脱脂綿
化繊混合綿(ポリエステル65%)
緑茶葉
コーヒー

オガクズ
マイタケ栽培後オガクズ
ヒラタケ栽培後オガクズ
ケナフ
ヒラタケ栽培後ケナフ

Fig.2:廃棄物と得られた酢酸セルロース
 
  Table2 酢酸セルロース原料としての可能性を検討した試料


4.2 分子鎖長の比較 Fig.3は粘度測定から得られた還元粘度のグラフである。各試料のグラフの長さは平均分子鎖長に比例している。成膜性と膜質は分子鎖長による影響が大きいと予想されるが、再生紙である新聞紙、ダンボール、トイレットペーパーは比較的短いセルロースからできているのにもかかわらず、十分な成膜性、膜質を示した。しかし、同程度の分子鎖長であるオガクズ、ケナフ等の試料では十分な成膜性、膜質が得られなかった。
 Fig.3:各試料のアセトン溶液での還元粘度
4.3 不純物の影響
 同程度の分子鎖長であっても、成膜性、膜質に大きな差がみられる。この原因のひとつに、セルロース以外の物質の混入があるのではと考え次のような実験をおこなった。インク残量の異なる新聞紙試料から膜を生成し、セルロース以外の不純物の混入が成膜性にどのような影響を与えるかについて検討した。Fig.4はインクの残量に差がある試料からつくった膜である。インクを多量に含む場合の成膜性は非常に悪く、膜質も低下してた。このことから、セルロース分子鎖長が同程度であってもアセトン可溶の不純物の量が多くなると成膜性・膜質が低下することが分かった。
 
Fig.4:インク残量の異なる新聞紙からつくった酢酸セルロース膜
 
4.4 木材腐朽菌による分解
Fig.5はキノコ栽培後のオガクズ、ケナフから得られた酢酸セルロースの還元粘度である。キノコ栽培後のオガクズでは分子鎖長の長短に大きな差が見られた。マイタケ栽培後のオガクズからは未使用のオガクズよりも長い酢酸セルロースが得られた。また、マイタケ@よりも十分に菌を育てたマイタケAのオガクズの方が長い酢酸セルロースが得られている。しかし、ヒラタケ栽培後のオガクズやケナフからはかなり短い酢酸セルロースが得られた。
 キノコのような木材腐朽菌類には白色腐朽菌類と、褐色腐朽菌類がある。これまで、白色腐朽菌であるカワラタケなどをもちいてリグニン分解の生化学的研究がおこなわれてきた。これによると、液体培養下での白色腐朽菌のリグニン分解能は、培地の窒素含有量が極めて低い状態で発現し、リグニンだけでは菌体の生育を維持できず、リグニンの分解は二次代謝であることが明らかにされている。したがって、白色腐朽菌はリグニンと共存する易分解性の炭素源、すなわちセルロース、ヘミセルロースを分解しないとリグニンを分解するのに必要なエネルギーを獲得できない。しかし、マイタケはリグニン分解の選択性が高い菌種であり、あらかじめグルコースなどの栄養源を培地に加えておくとセルラーゼ活性をおさえられると考えられている10)。キノコ栽培時にオガクズにはふすま、米ぬか等の栄養分が添加されている。その結果、易分解性の炭素源であるふすま、米ぬかをリグニン分解のエネルギーとし、マイタケがリグニンを選択的に分解し、リグノセルロース構造がくずれ、長いセルロースがむき出しになっていたところにアセチル化がなされたと考えられる。リグニンの減少は、アセチル化前のオガクズがマイタケ@に比べ、Aの方が白化している(Fig.6)ことからも裏付けられる。
 マイタケ栽培後のオガクズから得られた酢酸セルロースとは対照的に、ヒラタケ栽培後のオガクズから得られた酢酸セルロースが極端に短い。Fig.7は未使用のオガクズ、マイタケ栽培後のオガクズ、ヒラタケ栽培後のオガクズを酢酸中で1時間煮沸した酢酸溶液の透過率である。溶液は黄色からオレンジ色で、リグニンが抽出されたと予想できる。未使用のオガクズからの抽出が少ないのはリグノセルロースとしての構造がしっかりしているためであり、ヒラタケ栽培後オガクズからの抽出量が多いことは、リグニンが分解されずにリグノセルロース構造が崩れていることを示している。また、マイタケ栽培後オガクズからの抽出量が少ないのはリグニンが分解しているためであるといえる。以上の結果から、マイタケに比べヒラタケはリグニン分解選択性が低く、セルロースをよく分解しているといえる。
 

Fig.5 キノコ栽培培地(オガクズ、ケナフ)から得られた酢酸セルロースの還元粘度
 


Fig.6 マイタケの菌をまわす程度を変えたオガクズの比較

 

Fig.7 酢酸中で1時間煮沸した酢酸溶液の透過率