廃棄物からの生分解性プラスチック合成 その2
群馬県立勢多農林高校 理科部
1 はじめに
 深刻化するゴミ問題を解決する手段のひとつとして、自然環境中で微生物によって分解され消滅する生分解性プラスチックの利用が広まっている。生分解性プラスチックの製造方法には生物由来の生体高分子を利用してつくる方法と、石油から化学的に合成する方法がある。しかし、石油資源の枯渇、地球温暖化などの環境問題から、再生産可能な生物由来の生体高分子(バイオマス)の利用に注目が集まっている。すでに、植物が生産する多糖類(でんぷん、セルロース)を利用しての生分解性プラスチック生産も始まっている1−3)。しかし、今後深刻化する人口増加・砂漠化・異常気象等から起こりえる食糧不足を考慮すると、でんぷん利用は食糧生産すべき耕地が失われるという問題を含んでいる。一方、セルロース利用は紙、パルプ産業がかかえている水質汚染、森林破壊等の問題を含んでいる4−9)
 植物が生産するセルロースを含む植物系廃棄物には、紙ゴミ、衣類の他に、稲作・キノコ栽培など農業からのもの、林業・木材加工業からのもの、食品産業からのものがある。社会的にゴミの減量が強く求められている中で、これら廃棄物の有効利用が研究されている。私たちは廃棄物を付加価値の高い製品に変換させるため、セルロースが残っている植物系廃棄物からの生分解性プラスチック生産の可能性を長年検討してきた。
 昨年の研究では、さまざまな廃棄物のセルロース部直接アセチル化の可能性を検討した。その結果、紙ゴミなどのパルプ系廃棄物を酢酸セルロース原料として利用できることが確認された。また、木材系廃棄物の場合はセルロースを束ねているリグニン等が大きな障害になることが確認された。しかし、Table.1に示すようにヒラタケ栽培廃棄物とマイタケ栽培廃棄物を比較すると構造に大きな違いがあることが分かった。そこで、すでにセルロースが短く切断されているヒラタケ栽培廃棄物ならば、短時間で分解(糖化)できるのではないかと考えた。効率よく糖化できればポリ乳酸の原料として利用できる可能性がある10)
 ポリ乳酸は生分解性プラスチックとして近年利用が拡大している。ポリ乳酸は乳酸から合成され、この乳酸はトウモロコシやイモ類などのデンプンを糖化、乳酸発酵させて生産される2,3,11)。最近、日本の自動車会社では東南アジアでイモ類を栽培し、生分解性プラスチックを生産する計画が進められている。私たちは、日本の膨大な廃棄物から生分解性プラスチックが生産され、トウモロコシやイモ類は食料として世界中の人々へ行き渡るようになればと期待している。
 


Table.1 キノコ栽培(菌床栽培)廃棄物の比較
  ヒラタケ栽培廃棄物 マイタケ栽培廃棄物
 セルロース
(酢酸セルロース分子量測定より)
 分解されている
(分子が短い)
 分解されていない
(分子が長い)
リグニン
(廃棄物の色)
 残っている
(褐色 
あまり残っていない
(白色
リグニン
(酢酸抽出液の比色分析)
 残っている
(抽出液色
あまり残っていない
(抽出液色

*平成12年度第44回日本学生科学賞入選論文「廃棄物からの生分解性プラスチック合成」より改編







 
キノコ栽培廃棄物                   生分解性プラスチック                 水、COに分解


2 目的 
 近年の健康食ブームから食用キノコの生産量が増大している。それとともに、菌床栽培廃棄物が増大し、これら廃棄物の高度利用、低コスト処理方法が求められている12)。昨年までの研究から、ヒラタケ栽培廃棄物中のセルロースは短く切断されていることが分かった。そこで、すでにセルロースが短く切断されているヒラタケ栽培廃棄物のセルラーゼによる糖化(酵素加水分解)を検討し、生分解性プラスチックであるポリ乳酸の原料としての可能性を確認することを目的とした。

 
糖化時間の 予想モデル
  
 

3 実験方法
3.1 試料
3.1.1 ヒラタケ栽培廃棄物
 培地にはオガクズ(ミズナラ等の広葉樹:容積比70%)、ふすま(容積比20%)、コメぬか(容積比10%)に調整したものを使用した。
 ヒラタケの栽培方法はプラスチックビンに培地を詰め、水分を約65%程度にして高温殺菌した後、菌接種をおこない25℃で20日間培養した。その後、20℃で2週間程おいて発生させた13,14)。ヒラタケを初めて採取した培地をヒラタケ1回栽培廃棄物とした。さらに2回目に採取した培地を2回栽培廃棄物とした。また、実際の廃棄物は積み上げられ徐々に自然乾燥していくが、この間も菌の活動があると考えられる。そこで、実際の廃棄物保管状態を考慮して、各廃棄物をインキュベータ中25℃で2〜3ヶ月徐々に脱水させたものを熟成試料とした。ヒラタケ栽培廃棄物の種類をTable.2に示す。

Table.2 ヒラタケ栽培廃棄物の種類
試 料処 理 方 法
未使用培地(対照実験)恒温乾燥機中40℃で十分に乾燥させてミルで粉砕
1回栽培廃棄物1回目採取直後に、恒温乾燥機中40℃で十分に乾燥させて粉砕
2回栽培廃棄物2回目採取直後に、恒温乾燥機中40℃で十分に乾燥させて粉砕
1回栽培廃棄物熟成
 
1回目採取直後に封をして、25℃で2〜3ヶ月間かけ脱水したものを恒温乾燥機中40℃で十分に乾燥させて粉砕
2回栽培廃棄物熟成
 
2回目採取直後に封をして、25℃で2〜3ヶ月間かけ脱水したものを恒温乾燥機中40℃で十分に乾燥させて粉砕


 
3.1.2 マイタケ栽培廃棄物
 マイタケ栽培廃棄物には実際に商用生産された後、袋状態のまま保管されていたものを使用した。使用したマイタケ栽培廃棄物は榛名茸産業株式会社(群馬まいたけセンター:群馬県北群馬郡吉岡町大字上野田1329)のものである。ここでの培地はミズナラ等の広葉樹に廃ホダギを3割程度まぜたオガクズと栄養分を添加して調整されたものである。マイタケ栽培廃棄物の対照実験に用いた未使用培地には栄養分が混ざっていないものを使用した。
 マイタケ栽培廃棄物を十分に乾燥した後、粉砕機で粉砕したものを試料とした。
 
3.2 酵素
 セルラーゼには明治製菓(株)製のメイセラーゼを使用した。
 メイセラーゼはTricoderma virideに由来する酵素で、pH4.5、50℃付近で強い活性を示す。
3.3 糖化方法(酵素加水分解の方法)
 実験試料2.5g、メイセラーゼ0.30g、酢酸緩衝液(pH4.5)50mlの入った
200ml三角フラスコを振とう恒温水槽中40℃で振とうさせて糖化した。反応中の三角フラスコには水の蒸発を防ぐためにシリコン栓をした。測定時間毎にシリコン栓をあけて駒込ピペットで2〜3ml採取し、18000rpmで60秒間遠心分離後、液体部全体を回収し測定試料とした。可溶性成分の分子量の差から生じる濃度勾配については、液体部全体を回収することにより均一化した。
 
3.4 糖度Brix%測定(可溶性成分の測定)
 デジタル糖時計PR−101(アタゴ)で糖度Brix%を測定することで、可溶性成分の変化を測定した。機器の測定精度は±0.2%である。
 
3.5 還元糖量測定
 還元糖量はソモギー・ネルソン法(Somogyi-Nelson法)により測定した15,16)
 測定試料には試料からの着色が見られた。しかし、測定前に試料が100倍以上に希釈されること、測定時にさらに10倍以上に希釈されるのでブランクをとる必要性について検討した。検討の結果、ブランク試料の吸光度は誤差内であり無視できるものと分かった。Table.3に結果のもちいた測定試料の吸光度を示す。
 
Table.3 測定試料を蒸留水で調整した場合の吸光度(蒸留水を0.000Tとする)
測定試料
 
測定前の調整測定時
11倍希釈121倍希釈25倍希釈
ヒラタケ栽培廃棄物糖化50時間以上
 
0.0850.003
0.0100.001
マイタケ栽培廃棄物糖化50時間以上
 
0.0740.003
0.0090.001

 
 
ソモギー・ネルソン法(Somogyi-Nelson法)実験手順15,16)
ソモギー銅試薬の調製1
 A液:15%硫酸銅液(CuSO4・5H2O 15g/100ml)
 B液:無水炭酸ナトリウム25g、酒石酸カリウムナトリウム(ロッセル塩)25g
    炭酸水素ナトリウム20g、無水硫酸ナトリウム200gを蒸留水で1リットルとする。
ネルソン試薬(発色試薬)の調製
 1000mlメスフラスコに(NH4)6Mo7O24・4H2O 25gを900mlの蒸溜水にとかし,これに濃硫酸42gとNa2HAsO4・7H2O 3gを加える。蒸溜水を加えて全体積1リットルとする.
 
測定方法
1,銅試薬の調製2・・・A液15%硫酸銅水溶液1mlとB液25mlを混ぜる
2,試料を試験管に1mlと、銅試薬を1mlを入れる。
3,試験管にゴム栓でフタをして沸騰した湯浴中で10分間加熱。
4,急冷(5分間)。
5,ネルソン試薬1mlを加え発色。8分放置
6,蒸留水を加え全容25mlとする。15分放置。
7,蒸留水でブランクをとった後、660nmの吸光度を測定。
 
各操作時間はストップウォッチを用いて正確におこなった。
検量線はグルコースを用いて濃度0.01g/l、0.05g/l、0.09g/l、0.12g/l、0.18g/l近辺の5点において 測定し作成した。