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いくつか行ってみたい岩稜帯がある。槍ヶ岳北鎌尾根、前穂高岳北尾根、剣岳八ツ峰、剣岳北方稜線、南ア鋸岳。このうち鋸岳は行ったことがあるが、そんな中の一つに八ヶ岳阿弥陀南稜はある。
一方、私はこれまで八ヶ岳に行ったことがなかった。夏は沢に行ってしまうため、雪山に登らないため、また夏に縦走をしようと思ってもバリエーションルートを選ぶため、その要素の少ない八ヶ岳は選んだことがなかった。しかし、阿弥陀南稜だけは戸部さんも登っているし、冬に敗退した話も聞いているのでよく知っていた。
確か、三井君と荒井の2人で八ヶ岳縦走の計画を立てていたのだが、私がバリエーションルート行きたいこともあって、阿弥陀南稜になった。荒井にもできるだけ一人では行けないような山に行ってもらいたいと思ったためでもある。さらに下りには天狗尾根下降をつなげ、バリエーションルート三昧の計画になった。実は文登研で他の人が考えていた案でもある。
0日目 |
2004年6月4日 |
終電を乗り継いで小淵沢へ。南ア鋸岳以来、2回目の小淵沢泊で駅の中は込んでいたような気がする。
1日目 |
2004年6月5日 |
朝はみんなタクシーを使っていて我々はかなり後になってタクシーに乗った。立場川林道の入れるところまで入ってもらう。立場川の左岸に沿った林道だが、あんまり入ってくれなかった。1400mあたりだろうか、ゲートがあってそこで降ろされた。小淵沢駅から4650円。
若干の仕度をして出発写真。荒井のマイブームを聞いたところ、「攻殻機動隊」という返事だったので、攻殻機動隊っぽいポーズを要求する。銃を構えたようなポーズだった。天気は晴れ、風もなく山びよりだ。
林道が長い。川沿い、ほとんど直線なのだが、特徴がなさ過ぎて地図上のどこにいるのか分からない。車が通れる幅の砂利道を歩いていくが、やがて狭くなると右岸に渡る。渡って少し登ったところで別の道と合流、ひょっとしたらタクシーでこっちに入った方が近いのかもしれない。阿弥陀南稜の末端で分岐した立場川を渡り、しばらく登りの道を行くと最後にもう一度沢を渡って旭小屋に着いた。ここまでよく整備されており、森林浴を楽しむような道だった。車も入らず、人も見ないので静かだ。
旭小屋下の広場で休み、出発。はじめはゆるい斜面をトラバースする感じだが、いきなり尾根まで急登になる。すぐ樹林帯を出て暑い日差しの中の道になる。道筋ははっきりしており、バリエーションルートながらも人の多い道であることがうかがえる。稜線に出るとまた樹林帯。ずっと樹林帯の中の暗い単調な道が続く。右手にはずっと縄が張ってあり、「入山禁止、入山者は十万円いただきます」と看板がいくつかあった。きのこでも採れるのだろうか。岩場で有名な阿弥陀南稜とはいえ、下部はただの登山道である。別に岩場は出てこない。
2057m付近で一本。樹林帯が切れてすこしだけ明るいところである。のんびりとおにぎりをほおばりながら談笑する。と、単独行の人が登ってきて我々を追い抜いていった。一人で来てすいすいと抜いていくところを見ると初めてではないのだろう。実際このあとこの人に会うことはなかった。
しゃべりながら歩く。というのは荒井が比較的遅いため、三井君と私もゆっくり歩くことになるからだ。確か三井君が夏までに2万行の気象シミュレーションのプログラムを読まなきゃいけない話とか並列化計算ってどんなの?とかそんな話。私も話をしたかもしれないがまったく覚えていない。
立場岳2370mに着く。といっても看板は見なかったと思う。しばらく平坦な道が続くのでできるだけ詰めておこうということで薙ぎの手前、樹林帯の日陰で一本。向かいに阿弥陀南稜のごつごつした岩場が見える。どうやって登っていくのだろう。今回アルペンガイドを参考にせず、戸部さんに電話で聞いて調べたのでよくわかっていない。
青ナギをわたり、阿弥陀南稜核心部にとりかかる。ここからは地形図に道はない。2564m峰までまた急な登り。ここは急なばかりで難しいところはない。2564m峰を過ぎてコルへ下るとすこし開けたところがあり、ここで一本とる。日差しが強く日陰を求めて休む。
この先、黒い岩々が砦のように控えている。もっとも道は途切れることなく続いているのでこれにしたがって登っていく。P3は岩の基部を左へトラバース。崩れそうな急な斜面で冬に雪が積もっていたらどうやっていくのだろうかと疑問で仕方がなかった。渡った先が岬のように突き出しており、トップの荒井をその先の方に出して写真を撮った。ちょうど向こうの入笠山と富士見の町が入りいいレイアウトの写真になった。中級者はここからカンテを登っていくと岩に書いてあったが、ハング気味で取り付こうとも思わなかった。
私たちのような初心者はトラバースを続け、少し下る。ここにロープがついていたがけっこう怖いトラバースだった。樋の下に出ると樋に沿って急上昇。ここもロープが続いている。トップの荒井は遅かったので写真を撮ることができた。その上で稜線に出て中級者コースといっしょになる。この樋のトラバースが一番難しかった。阿弥陀南稜を下降にとるのは難しいだろう。樋を懸垂下降で確実に下ってもトラバースもあるのでザイルを回収できるポイントまで離れている。
とにかく登りついたところで荒井がアップアップだったので阿弥陀岳直前にして一本とる。ハイマツの向こうには富士山に北岳に甲斐駒。天気がよかったためぜいたくな眺めを楽しむことができた。立場川の向かいにはその名のとおり赤みがかった岩の赤岳があり、南には権現岳があった。右側には赤岳から阿弥陀岳に登る道が手に取れるような位置にあり、阿弥陀岳に登っている人たちの話し声まで聞こえた。
ひと登りで阿弥陀岳山頂。登ってみたかった阿弥陀南稜を登ることができうれしさもひとしおだった。もっともバリエーションルートと呼ばれる割にザイルを出したくなる場面はなかったし、初めてのバリエーションルートにはいいのかもしれない。ネットで調べると冬の記録が多かったが、冬はいったいどうやって登るのか見当もつかなかった。
展望は最高。遠くの北アルプスまで見える。雪をたたえているようすまでよく見えた。諏訪湖も見えるし、無論南アルプスも。写真を撮ることもあったし、ピーク缶を開けることもあったし、また長く休んだ。持ってきたビールを出したがこのあとも危険なところが続くからダメだと三井君に諭された。
13:50、阿弥陀岳を出発。ここからは三井君も夏の縦走で経験のある道だ。恐ろしく急な道を下り、阿弥陀岳・中岳コルに降り立つ。行者小屋がすぐそこだ。ついトップの荒井を抜いてしまったので少し待つ。さらに中岳を越えて赤岳の登り返し。天気はずっと晴れたままで行動時間も8時間に達する。疲労が重なり、文三郎道といっしょになるところで一本とった。
疲れているのはみんなそうで、ぐったりしていた。振り返ると阿弥陀岳が不気味な様相を見せていた。こうやって見るとどこに道がついているのかわからない。赤岳の登りはしんどかった。なんだか頭痛もしてくるし、風邪っぽい。南側から山頂に飛び出した。
時刻はもう16時近い。ここで気象図をとることにする。気象図をとるのは2年生荒井の仕事。荒井が気象図をとっている間、疲れて眠くて寝ていた。20分たって歩き始めるときはもう動きたくなかった。予定では天狗尾根を下るはずだったが遅すぎるのでキレット小屋に下る。行者小屋に戻ってもよかったが、荒井に縦走を味わってもらいたいという三井君の希望のもと、キレット小屋に下ることにした。キレット小屋の先、権現岳・編笠山まで稜線が続いているからである。
キレット小屋までは人の多い八ヶ岳の登山道と思えないほど急な下りで、荒井のペースに合わせることができず先に下ってしまった。天狗尾根には迷い込まなかった。下りきって少し登ったり下ったりしながらキレット小屋着。
小屋は営業しておらず、テント泊の人だけだった。東側地獄谷側にテント場があり、奥の水場よりが空いていた。荒井に天気図の続きを描かせ、さらに飯作り。その間私は水を汲んでいた。水は少量で時間がかかった。私はすっかり疲れており、作ったカレーを「気持ち悪い気持ち悪い」といいながら何とか食べた。三井君も同じようで途中で吐いていた。荒井だけはただ疲れているものの内科的な症状はなかった。三井君は吐いた後調子を取り戻し、私の分のビールも飲んでくれた。私は寝付くまで気持ち悪かった。でも吐くことはなかったと思う。